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◆自由になりたかった

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面接の準備も一通り終わり、流れるように順番に面接が終わっていくのを見て、そろそろ俺もと、面接会場から抜け出そうと思っていたところをガンボさんに腕を掴まれる。
「どこへ行くつもりだ?」
「ガンボさん……どこって、俺は残った作業を片付けたいんだけど?」
「お前の作業なら、まだ山ほど残っているぞ」
「え? もう、俺の分は面接会場の手配に、面接希望者も集めたし……何も残ってないと思うけど?」
そう言って、俺の腕を掴んだままのガンボさんを見ると、ハァ~と短く嘆息する。
「あのなぁ~これだけの人数の人達をただ単に面接して終わりって訳にはいかないだろ!」
「え~どういうこと?」
「ハァ~ったくガンツはどういう教育をしてるんだか。いいか……」

呆れながらガンボさんが話してくれた内容はこうだった。
九月になれば学校が始まるが、教師になりたいと希望する人は、ほぼ全員が採用となった。ほぼと言ったのは、余りにも高齢で学校で雇うには不安がある人がいて採用を見送ったということだ。だけども、大人で読み書き計算に不安がある人も予想以上に多かったので、学校で雇えない人はそっちで雇用することにしたみたいだ。
じゃあ、困ることはないでしょとガンボさんに言えば、住むところが問題だと言い出した。
別にドワーフタウンに住むにしろ、今の場所から通うにしろ選択は個々人に任せていたハズだから、問題ないと言えば、ドワーフタウン移住希望が多いらしい。それも家族単位で住みたいという人が殆どらしい。
なら、当面は独身寮に住んでもらって段階的に家を用意してもらうようにしてと言って、問題は解決した。

「ちっ、少しは悩めよ。本当にお前がお気楽なのか、ワシが考えすぎなのか……」
「もう、そんなに考えすぎるとハゲちゃうよ」
「ハゲんわ! もしハゲたら七割はケインのせいだからな!」
「はいはい、その時は特効薬でもカツラでもなんでも作ってあげるから」
「言ったな! そのセリフ、忘れるなよ!」

ガンボさんがやっと腕を離してくれたので、今度こそ戻ろうとすると、今度は両腕を掴まれる。まさかと思い、俺の腕を掴んでいる人を見れば、キャシーさんとシャルルさんだった。
「ケイン君。どこへ行くのかしら?」
「まさか、困っている俺達を見捨てて帰るつもりじゃないよな?」
「え~」
「ふふふ。困らせるようなことはしないから、ちょ~っとお姉さん達の話を聞いて欲しいかなぁ~」
「なぁ~に。そんなに難しいことじゃないから、安心しろって」
「もう、分かったから。どこにも逃げないから、とりあえず離してもらえる?」
「約束よ」
「ちゃんと対応してくれよな」
キャシーさんとシャルルさんが腕を離してくれたので、まずは話を聞いてみる。

「それで、話はなんでしょうか」
「なんか冷たい……」
「急に態度が変わったな」
「いいから、話す!」
「「はい……」」

キャシーさん達が話すことは意外と言ったら失礼かもしれないが、すごくまともなことだったけど、俺に言わなくてもよくない? と思った。
キャシーさん達が言うには、デザイナー志望の人は多いけど、絵心がない人が大多数だったこともあり、断ろうとしていたけど、中にはちゃんと絵さえ描ければ光る物があると思われる人も僅かだがいたらしい。なので、それをどうにかして欲しいということだった。
ならば、リーサさんのお母さんであるリディアさんが絵の教師をする予定なので大人学級の講座として受けてみればと言ってみる。キャシーさんはそれで納得してくれたが、シャルルさんはまた違った相談だった。縫製希望の人に対し、ミシンが足りない、場所が足りないという相談だったので、ミシンは工房へ連絡を入れてもらい、土地に関してはガンツさんに確認してもらうように言って終わった。

「もう、これでいいよね」
と、言った時に父さんと目が合った気がするが、悪いけど無視させてもらおう。

今度こそ、面接会場から出られると思ったところで、それぞれの船や魔導列車の操縦士希望の人達の集団が目に入る。

インベントリから携帯電話を取り出すとガンツさんに連絡する。
「もしもし、ガンツさん?」
『おう、ケインか。どうした?』
「今、どの辺りにいるの?」
『今、ちょうど王都の港湾施設に着岸するところだ。だから、切るぞ』
「あ、ちょっと待って。ちょうどいいから、今から船の操縦を憶えたいって人達に見せたいからさ。ちょっと待ってて」
『それは、いいが長くは待てないぞ』
「うん。すぐに連れて行くから!」
ガンツさんとの電話を切ると、船の操縦士希望の人を連れ出し、港の方へと向かう。

「えっと、今からあそこに見えるあの大きな船がこの港に接岸するので、まずはその様子を見ていて下さいね」
「「「……」」」
返事はないが、ただ単に感心しているだけだと思い、ガンツさんに着岸をお願いする。

じゃあ、後は魔導列車の運転士希望の人達をドワーフタウンに連れて行けば、とりあえずは自由になれるかな。
『ケイン、腹減った……』
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