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『王家御用達』を掲げることを許可されたゴーシュさん達は、色んなことがあり過ぎて半ば放心状態のままだが、王太子殿下が目の前のショートケーキを食べ終わると、ゴーシュさん達にお礼を言う。
「うん。シュークリームもいいが、これもいいな。ゴーシュよ。これを毎日、私宛に届けることは出来るか?」
「……」
王太子殿下の問い掛けにゴーシュさんは何も答えられないでいるが、それがNOと言うことなのか、それとも体力的に無理ということなのか、ゴーシュさんの口からは何も伝えられない。
「あの、王太子殿下。横からすみません」
「構わない。言ってくれ」
「ゴーシュさん達は、まだ店もシュークリームの生産で手一杯です。なのに、毎日ケーキを作って持って来いと言われましても」
「そうか。まあ、しょうがないな」
「それにですね。こういうお菓子はどうしても太りやすいものです。なので、このケーキを毎日食べるとなると、王太子殿下の体も……今の倍以上になるかと思います」
「それはマズい! うん、分かった。だが、食べたいのは我慢出来そうにない。どうすればいいと思うのだ。ケインよ」
なんとか王太子殿下にはゴーシュさんの現状と毎日食べ続ければ、体型が変化することも伝えて毎日作って持って来いというのは取り下げることは出来たが、それでもどうにか作ってくれないかと王太子殿下に頼まれてしまえばイヤとは言えない。

「なんとかと言われても……食べ過ぎないようにするとしか言えないんですけど」
「ふむ、そうか。食べ過ぎがよくないことは分かった。なら、週に一つ。これなら、問題ないのではないか?」
「一つですか。では、確認しますが、その単位はなんでしょうか?」
「ふふふ、おかしなことを聞くのだな。一つはひとつだろ。なあ、デュークよ」
「いえ、殿下。ちゃんと答えて頂きたいですな。国の代表たる者が菓子の食べ過ぎで醜く肥え太るなど、家臣として放ってはおけません」
俺とデューク様からの執拗な追求に王太子殿下が折れ、デューク様に対し約束する。
「分かった。分かったよ。ったく……週にショートケーキ一個。これなら、問題ないだろ?」
「はい。その量なら問題ないと思われます」
「分かったよ。では、ゴーシュよ。後ほど、『王家御用達』の許可と週に一度のデコレーションケーキとシュークリームの配達を頼む」
「……」
まだ、ゴーシュさんは呆然としたままの状態なので、代わりにセバス様が王太子殿下に返事をする。
「後で、私の方からお伝えしておきます。今日は色んなことがあり過ぎて疲れてしまったのでしょう」
「そうか。では、よろしく頼む。デューク、楽しかったぞ。また、何かあったら寄らせてもらうぞ」
「はい。ですが、出来れば事前に連絡を頂きたいのですが」
「そういうな。私だって、たまには我が儘を言いたいのだ。許せ」
王太子殿下は今後も自由に来ることだけを言い残し、執務室から出て行く。

「「「はぁ~」」」
王太子殿下が部屋から出るのを見送ると、揃ってため息が出てしまう。

「ケイン君。俺は夢を見ていたのだろうか?」
「ゴーシュさん、やっと戻って来たね」
「ああ、すまない。色んなことがあり過ぎて、情報を処理するのが追いつかなかった」
「なんかすみません」
「いやいや、ケイン君が謝ることじゃないよ。どちらかと言えば、ケイン君には感謝しかないよ。本当にありがとう」
ゴーシュさんから感謝され、なんとも照れくさくなる。
「ふふふ、だからケイン様の側は面白いのですよ。私も早くケイン様のお側で役に立ちたいものですね」
そう言ってセバス様が俺とデューク様を交互に見るが、正直デューク様の前では止めて欲しい。

「では、ゴーシュ様。『王家御用達』の許可書類等揃いましたらお店の方へお伺いします」
「あ、そうだ。ゴーシュさん。電話、渡したでしょ。あの番号をセバス様に教えておきますけど、いいですよね?」
「ああ、分かった。お願いする」

嫌がらせをなんとかしてもらおうとデューク様を頼って来たけど、気付けばその上の王太子殿下から『王家御用達』の使用許可をもらうことが出来た。
出来過ぎな気もするけど、これでゴーシュさんのお店に対する嫌がらせも収まるだろう。

「じゃあ、ゴーシュさん。ドワーフタウンの工房まで送るね」
「うん、お願い。デューク様、セバス様。今日は本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
ゴーシュさん夫妻が揃ってデューク様にお礼を言うと、デューク様は軽く手を振る。
「礼などいらん。実際、問題を解決したのは殿下だからな」
「いえ、それでもお世話になったことには代りありません。ありがとうございました」
「そうか」

ゴーシュさん達がお礼を言い終わったのを確認すると、ゴーシュさん達をドワーフタウンのお店の工房へと転移ゲートを繋いで送り出す。

「じゃ、俺達も帰ろっか」
『それはいいが、どこへ行くんだ? ゴーシュにケーキを頼んでいただろ?』
「そうだけど、それは夕方だし……」

ちょっと、迷ったけどデューク様達に挨拶をしてからドワーフタウンの工房へと転移ゲートを繋いで潜る。
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