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◆繋いじゃいました

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「じゃあ、話は終わりでいいですね」
再度、ソファから腰を浮かし立ち上がろうとしたところで、またデューク様に腕を捕まれる。
「えっと、なんでしょうか? もう、お話は終わったと思いましたが?」
「ああ、話は終わった」
「なら……「だから、待て!」……分かりましたよ」
ストンとソファに座り直す。
「セバス、スマンがお茶を用意して来てくれるか」
「お茶ですか……では」
そう言って、側に控えていたメイドさんにお願いしようとしていたのをデューク様が止める。
「いや、ガンツの土産には酒がいいかな、スマンが蔵から良さそうなのを持ってきてくれないか? そうなるとメイドでは分からないだろうから、お前が直接選んで来てくれないか? 悪いな」
「はぁ~分かりました。何かお考えがあるのでしょうが、もう少しお芝居を勉強した方がいいと思います。では、失礼します」
そう言って、セバス様が退室するのを見届けたデューク様が嘆息する。
「バレバレだったみたいですけど、セバス様に関することですか?」
「ああ、そうだ。今朝もセバスと少しだけやり合ってな。で、相談と言うのもセバスのご機嫌をなんとかして欲しいということなんだが、何かないか?」
「何かと言われても……」
デューク様に相談されるが、セバス様のご機嫌ね……あ、もしかしたらいけるかも。
「デューク様、セバス様のご機嫌なら簡単にもの凄くよくなると思いますけど、乗りますか?」
「本当か? それはどうすればいいんだ?」
「簡単です。要はセバス様も禁断症状が出てるんだと思います」
「禁断症状?」
俺の言葉にデューク様が訳が分からないという顔をする。

「ここに来て大体二週間近くになりますよね?」
「まあ、その位かな。それが?」
「セバス様はその間、乗ってないんですよね?」
「乗ってない? ん? ああ! そう言うことか!」
一瞬考えたデューク様が合点がいったようで、胸の前でポンと手を打つ。
『どういうことだ?』
「マサオには縁のない話だよ」
『だから、どういうことだ?』
俺の答えに少しイラッとしたようにマサオが聞き直す。
「だからね、セバス様はストレスが溜まっているんだよ。だから、そのストレスを発散させるのがいいんだけど、ここ……王都からじゃそれもままならないからね」
『だから、それはなんなんだ?』
「マサオは分からない? セバス様は思いっきり飛ばしたいんだと思うよ」
『飛ばす? セバスはスピード狂なのか?』
「誰がスピード狂ですか」
そこへ部屋の扉が『ガチャリ』と開き、セバス様が入ってくる。

「聞いてたのか、セバス」
「ええ、聞いてましたよ。そう言えば、そろそろでしたね。ガンツ様とのレースも」
「ああ、そういう約束がありましたね」
セバス様が頷く。

「ケイン。好きなようにしていいから、頼むな」
「分かりました。じゃ、セバス様を少しお借りしますね」
「ああ、頼む」
「じゃ、セバス様の部屋へ案内して下さい」
「ふむ。旦那様とケイン様との間でどの様なことが話されたのかは少し興味がありますが……まあ、いいでしょう。では、旦那様。少しだけ失礼します」
「帰って来るんだよな?」
「さあ? それはどうでしょう。あ、ガンツ様にこれをどうぞ」
セバス様が蔵から持って来たであろう、お酒を渡される。
「いいんですか?」
「ええ、旦那様からです」
「じゃ、遠慮なくいただきます」

セバス様を先頭に部屋を出て、セバス様の私室へと案内してもらう。
「ここが私の部屋となります」
「お邪魔します」
部屋に入り中を見渡す。

「じゃ、この辺でいいかな」
「あの……ケイン様。旦那様とどんな話をしたかは分かりませんが、何をするのでしょうか?」
「あ、そうか。何も言ってませんでしたね。実は……」
セバス様にデューク様との話の内容を掻い摘まんで話す。

「で、セバス様のストレス解消にはレース場しかないかなと思って、この部屋にレース場への転移ゲートの扉を着けようかと思ってるんですけど、ダメですか?」
すると、セバス様は俺の手をガッシリと握ると涙を流すんじゃないかと思うくらいに感激した様子で「とんでもない!」と言う。

「そう言うことでしたら、この辺りならどこでもお好きにどうぞ!」
セバス様がそう言って、壁を差す。

「じゃあ、この辺で」
転移ゲートの扉を設置し、セバス様のブレスレットに転移ゲートの扉の鍵を追加する。
「じゃあ、ちょっと向こうにも設置してきますね」
セバス様に断り、レース場へと転移ゲートを繋いで潜る。

レース場ではビリーさんが数人と一緒に車を整備していた。
「お久しぶりです」
「ケイン君! どうしたの? 随分久しぶりだね」
「今日はセバス様の件で来ました」
「セバス様? セバス様は王都に行ってるんでしょ? ケイン君が知らない筈はないよね?」
「実はですね……」
ビリーさんにセバス様の事情を話すと、笑いながらも承諾してくれたので、セバス様用のピット内に小部屋を作り転移ゲートの扉を設置する。
「じゃあ、あとでセバス様も来ると思うから」
「分かったよ」

王都のセバス様の待つ私室へと戻ると、セバス様が待ちきれないと言う感じで「いいですね? もういいんですよね?」と念を押してくるので、どうぞと扉の前へと案内する。
セバス様は扉の前で立ち止まり深呼吸すると「よし!」と気合いを入れて、レース場へと出る。
「暗い……」
「あ! しまった。ライトを付けるのを忘れてた」
セバス様を慌てて引き戻し、センサー付きのライトを取り付け、セバス様に改めてお願いする。
「では、気を取り直しまして……」
転移ゲートの扉を開け、中に一歩進むと明かりが灯るが、そこには一枚の扉があった。
「ケイン様、これは?」
「あ、それはピット内に作った転送ゲートの部屋の扉です。どうぞ、開けて下さい」
「では……」
セバス様がドアを開けると、そこにはビリーさんが立って待っていた。
「お久しぶりです。セバス様!」
「ビリー君! お久しぶりですね」

ビリー君との再会を喜ぶセバス様を見てから、ゆっくりと転送ゲートの扉を閉じる。
「うまくいったみたいだな」
「うん、なんとかね」
「じゃあ、帰るか」

転移ゲートをドワーフタウンの工房へと繋ぎセバス様の部屋を後にする。
「なんか忘れているような……気のせいかな? ちゃんとマサオもいるし」
『そうだよ、気のせい、気のせい』
「でも、なんか忘れている気が……」

「セバスもケインも戻って来ない……まさか、本当にケインのところに転職したとか言わないよな……」
セバスがレース場で堪能しスッキリした顔で戻ってくるまでは執務室で一人悶々としていたデュークだった。
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