上 下
313 / 468
連載

◆期待されていました

しおりを挟む
朝になり、雨も上がった王都の人々が見たのは、海を隠すように建てられた壁。
「なんだこれ?」
「昨日まではなかったよな?」
「ああ、倉庫はあったがな」
「不思議だな。ん?」
男の一人が何かに気付き昨日まではなかった壁に近付く。
「何か書いてるな……え~と、『これより先、シャルディーア辺境伯管轄の港湾地区となります。しばらくはご不便かと思いますが、工事期間中は大変危険なため関係者以外の立ち入りを禁じます。』だと」
「どういうことだ?」
「さあな。どこかの貴族様が何か工事をしているらしい」
「どこの貴族様だ?」
「シャルディーアって書かれていたぞ」
「シャルディーア……どこかで聞いたことがあるぞ。どこだっけか?」
何かを思い出そうとする男の前をキックボードに乗った子供が通り過ぎる。
「あ~思い出した! そうだよ、あのシャルディーア領だよ!」
「なにが、あのなんだ?」
「ほら、あれだって!」
そう言って、男は子供が乗るキックボードを指差す。
「あれって、オモチャだろ?」
「そうだけど、そうじゃない!」
「お前、何言ってんだ?」
「だから、最近話題になるのは、そのシャルディーア領からのオモチャだったり、乗り物だったりするだろ」
「ああ、そういや聞いたことがあるな」
「だろ。だから、そこの貴族様が工事をしているのなら、この壁の向こうで何をやっているのかは知らないが、期待は出来るってもんじゃないか!」
「そうか? 俺は何も使われていなかった名前だけの港が使えるようになるなら嬉しいけどな。いつもあっちの港の連中にバカにされっぱなしだからな」
「それも、この工事が終わるまでかも知れないぞ」
男がニヤリと笑う。
「なんにせよ。働き口が増えるのはいいことだと思うけどな」
「そうだな。今勢いのある貴族様に期待するのもいいかもな」

~王城にて~
「オズワルド様……」
「なんだい?」
「やってくれましたよ。シャルディーア様が」
「ん? 何を言っているのかよく分からないが、港のことなら、既に聞いているぞ」
「あ……」
「なんだ、港のことだったのか」
「え、ええ。そうです。すでにご存じでしたか」
「ああ、朝早くに報告を聞いた。お陰で眠気など吹っ飛んだわ。ははは」
「そう、笑ってばかりもいられないとおもいますよ」
執事であるジムがオズワルドにそう告げる。

「どういうことだ?」
「いえ、既に報告が挙がっているのなら、特に私から報告することはありません」
「そう言うな。まずはお前の報告を聞かせて貰おうじゃないか」
「そうですか。では……」

オズワルドはジムが話す内容と既に聞いている報告内容と付き合わせる。
「そうか。想像以上に陸地が造成されている訳か」
「はい。実際に内部には入れていませんが、かなりの広さを有していると思われます」
「そうか」
「え? それだけですか?」
「ああ、そうだ。出来たらシャルディーア伯も招待するだろう。なら、それを待てばいい」
「ですが……」
「何度も言わせるな。すでにあの港に関しては全てシャルディーア伯に一任している」
「ですが……」
「お前の言いたいことも分からないでもないが、ここで欲を出せば、父上や兄上の様な目に合うことになるぞ。お前は私にそうなれと言うのか?」
「いえ、滅相もない」
「なら、この話はここまでだ。他にもお前の様に私に注進する輩も出てくるだろうな。お前に任せるから全部止めてくれよ」
「私がですか?」
「ああ、私に注進してきた第一号じゃないか。名誉ある役職だな。それにお前なら、そう言ってくる連中の気持ちも私がしたいことも分かるだろ。いいな、任せたぞ」
「は、はい。賜りました」
ジムは頬を引き攣らせながら、オズワルドに頭を下げる。
「じゃ、着替えるから部屋から出てくれ」
「はっ。失礼します」

部屋から出て行くジムを見て、オズワルドがため息を吐く。
「これから、何人こういうのが来るんだろうな。私はあの少年と仲良くしたいんだけどな……なかなかうまくいかないね。はぁ」

~デュークの王都の屋敷~
「セバス、もう噂になっているみたいだな」
「そうですね。家人に見てきて貰いましたが、見物人が一杯で何も見られなかったそうですが……」
「が?」
「昨日まではなかった壁にですね。旦那様の名前で『立ち入り禁止』と書かれていたとか」
「は?」
「まあ、あそこの管理は旦那様ですからね。当然でしょ」
「……」
「どうしました?」
セバスの言葉にデュークが黙り込む。

「なあ、王都では俺の名前って知られているようで知らない連中の方が多かったよな」
「ええ、そうですね」
「なら、誰のことかは王都の連中は分からないよな」
「ええ。去年までというか、三年ほど前ならそうでしょうね」
「は? どういうことだ?」
「分かりませんか?」
セバスが嘆息しながらデュークの顔を見る。

「三年前……あ!」
「お分かり頂けましたか?」
「アイツか!」
「ええ、そうです。シャルディーア領からいろいろな製品が出始めた頃ですね。最もあの頃は魔道具ではなくキックボードやポンプなどの製品でしたが、王都での知名度を上げるには十分でした」
「って、ことは……」
「はい。すでに『あのシャルディーア様なら』と王都の住人はなにやら過度な期待をしているようです。まあ、私に言わせればちっとも過度ではないのですがね」
「そりゃ、もうアイツのやらかすことに慣れっこのお前にとってはそうだろうな。だが、王都の連中にはとんでもない物に映るんだろうな」
「ええ、そう思います」
「しかし、一晩だぞ。相変わらずとんでもない奴だな」
「ですが、準備する時間は十分にあったと思いますよ」
「それは言うなよ。俺が悪い訳じゃないだろ?」
「そうですね。でも、解決したのもあの方でしたよ?」
「ああ、とんでもないお土産を残してな。どうすんだよ。王族の交代劇を二回も見るなんて。そんなの俺の予定には全くなかったぞ」
「それは私もですよ」
「お前はもう、先が……」
「先が……なんですか? そうですか。私のことを老い先短い老人と言うのなら、私はこれからは好きに生きたいと思います。永らくお世話になりました」
セバスがそう言って、デュークに綺麗なお辞儀を見せる。

「セ、セバス? 冗談だよな?」
「冗談でこんなことは言いませんよ。旦那様が私を老い先短いとお認めになるのであれば、これから私は好きに生きたいと申しております」
「待て! 待つんだ! セバス! 早まるな!」
「いいえ。これもいい機会です。後のことは学校を卒業する息子に任せて私はケイン様の元へ行きたいと思います。ですから、放して下さい!」
セバスを行かせまいといつの間にかデュークがセバスの腰にしがみついていた。

『ガチャ』
そこへ部屋のドアが開けられ、セバスの腰にしがみつくデュークを見せられる。
「あなた……何をしているんですか?」
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。