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◆いわゆる袖の下でした

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王太子との間のテーブルの上に港周辺の地図が書かれた紙が広げられる。
「さて、この浜辺が今は君に権利を移管している港になる。それで、君が考える港の範囲を示して貰えるかな」
「はい、では失礼して」
そう言うとテーブル上の地図を指す。
「まずは、この岬の突端から反対側の岬の突端の範囲を横の範囲と考えます」
「ふむ、まあ私とほぼ一緒だな。で、横と言うからには縦がある訳だな」
「はい。縦の位置としては、この倉庫が始まる位置から、海面に向けてです」
「ふ~ん、すると君の考える港はこういう範囲になる訳だね」
王太子が、地図上にさっき言ったことを大まかに線を書き入れていき枠を形作る。

「結構、広いな」
「はい。ですが、それでは誤りです」
「そうか? 君が言った範囲通りだと思ったが」
「海上が抜けています」
「海上か。確かに海上の権利はどこにも記されていないな。だが、なぜそこにこだわる?」
「この港の港湾施設を整備するとしてですが、この砂浜のままでは有効活用することは出来ません。なので、ある程度の工事を行って陸地を海上に向けて延長する形となります」
「そうか。それで、あの書面での港の範囲が不明瞭になるという訳だな」
「はい。なので失礼して」
そう言って、地図上のそれぞれの岬の突端から海の方向に線を伸ばす。

「これが、私が考える港として、主張する範囲です」
「また、大きく出たものだね。でも、確かにこれはちゃんと明瞭にしておかないと、後で君との係争の種になる案件だね」
「お分かりいただけましたか」
「ああ、迂闊な約束はするもんじゃないなと、今ヒシヒシと感じているよ」
「では、反故になさいますか」
「いや、約束は約束だし。それにもう、君にというか、君達だけに任せた方がいいものが出来るような気がするよ」
「ありがとうございます」
「まだ、礼を言うには早いんじゃないかな」
「と、申しますと?」
「王都として、港湾施設からはかなりの税収が見込めると思うし、観光という面でも人目は引くだろう。なので、それを目当てに訪れる人も増えるだろうな。後は港が出来たことで、新しい輸送機関も広がるだろうね。それによって、今までほとんど交流がなかった国や地域との付き合いも増えるかもしれない。国にとって恩恵は計り知れないことになることも予想される」
「いいことづくめに聞こえますが?」
「交流が増えれば、それに紛れて悪意もやってくる。これについてはどう考える?」
「それは、今でも同じじゃないんですか?」
「まあな。だが、船での通行が可能になれば、その分手間が増えるってことだ。なにか手があるんだろ?」

王太子の言葉に少しだけ、考える。確かにケインに頼めばすぐになんとかなるだろう。だが、それだけではケインの負担が大きい。もう一つなにかがあればいんだが。
「旦那様、その辺は多分大丈夫でしょう。今のお屋敷にあるものと同じもので」
セバスからの耳打ちで王都の屋敷に設置した防犯施設を思い出す。
「あれか」
「ええ、あれです。かなり強力な防犯装置に成りうるかと」
「なあ、そこで言われても私には聞こえないんだが」

王太子がセバスとの話の内容が聞こえないと苦情を言われる。
「これは失礼しました。港からの悪意ある人物の流入に対応可能という報告を受けましたので」
「そうか。それは、今の王都の警備にも回せそうなのか?」
「それは聞いてみないと分かりませんが」
「もし、購入可能な場合はどうなる? 君に頼めばいいのかな?」
「まずは、防犯装置を欲する施設の大きさと個数でしょうか? 用意してもらえる場合ですが」

王太子が側に控える執事になにやら指示を出すと、執事が部屋を出ていく。

「話を戻そうか。港の防犯については対処可能としておく。これで国として港湾施設からの利益とうについては理解出来た」
「では、これでいいですね」
「待て! 『国としては』と言った」
「それが?」
「ふぅ~分からないふりか? まあいい。国とは別に私が受け取れる利益はなんだい?」
「名誉では駄目ですか?」
「名誉もいいが、実が欲しい」
「タダでモノを寄越せと言うのはどうかと思いますが」
「タダではないよね。こうやって、港湾施設として使えるように許可は出したんだからさ」
「まだ、書面にしていただけてはいませんが」
「そう言うなよ。もう決まったも同然なんだからさ。それでも十分でしょ。だから、私にもいいよね」
「ふぅ、では具体的にはなにが欲しいと言うのでしょうか?」
「あの子をもらえないかな」
「それは無理な相談でしょう」
「だよね。それは分かっているけどさ、そこをなんとかしてくれるのが、領主としての君の役目じゃないの?」
「いいえ。私の仕事は領民の安寧を守ることです。なので、そのお願いは聞き入れることは出来ません」
「それは、君の家族と引き換えにしてもかい?」
「……それは本気で仰ってますか。返答次第では、私にも考えがありますが?」
王太子の言葉に思わず殺気が膨れ上がる。

「や、やだな~ほんの冗談じゃないか。うん、君には『袖の下』は要求しないよ。それにさっきの港湾施設に関しても書面にしたものを後から届けさせよう」
「分かりました。よろしくお願いします。それとお忘れかもしれませんが、私共になにかあれば呪いが発動し、あの懺悔大会に強制参加させられることになりますので。どんなに命令系統を複雑にし、誤魔化そうとしても必ず最上位まで辿り着くそうですよ。王太子が懺悔大会に参加されないことを祈ってます。それでは失礼します。セバス、行くぞ」
「はい、旦那様」

セバスと一緒に部屋を出ると、自分の屋敷へと急ぐ。
「本当になにもしてないだろうな」

デューク達が退出した後の部屋では王太子が、嘆息した。
「で、どうしますか? 力尽くという手もありますが」
「やめてくれ。私はまだ、あの懺悔大会には出たくはないよ。他の連中にもちゃんと手は出さないように言ってくれよ。さっき、呪いは私の手前で止まることはないと宣言されたからな」
「ですが、先ほどの話だけですよね。必ずここまで届くことはないのでは、ないでしょうか」
「誰がそれを補償する?」
「それは私が……」
「やめてくれ。そんなのはなんの補償もない。そんなんで懺悔大会に出るなんて嫌すぎるだろ」
「では、どうすれば……」
「だから、あいつらに関わることは禁止だ! もちろん関連する施設も同じだ」
「そんな……」

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