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◆開いて見たかった

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テーブルでお茶を飲みながら、マサオとマリー様が遊ぶのを眺めていたが不意にマリー様があくびをする。
「ふぁ~あ~なんだろねむくなっちゃった」
「あらあら、マリー様はもう、お昼寝の時間でしたね」
「そうなんですね、じゃ俺達もこの辺で」
「ええ、今日はありがとうございました。明日は王都へと向かうのでしばらくは会えませんがお元気で」
「はい、ではまた。マサオ!」
『ふぅやっと解放された』
「お疲れ様」
『それだけかよ。もっと他に何かあるだろ』
「何言ってんの! 元はお前が考えなしに話すからだろ」
『う、それを言われると……』
「いいから、戻るぞ」
『戻るってどこに?』
「そうだな、学校はガンツさん達に任せているし、何かあれば連絡あるだろうからいいか。なら、独身寮かな。でも、まだあの駄竜は外には出られないよな。ああ、そう言えばクレイグさんのタブレットも改良してあげないとだったな。よし」
『お、決まったか』
「うん、港だね」
『港か』

マサオと一緒に港の漁協ビルへと向かう。
「クレイグさんいるかな~」
ビルの三階へと上がりクレイグさんの部屋をノックし中に入る。
「おや、ケイン君。お久しぶりです」
「クレイグさん、今日はちょっとした贈り物があって来たんですよ。ちょっと、そこのタブレットを貸してもらえますか」
「これ? いいよ、はい」
「どうも」
クレイグさんからタブレットを受け取ると近くのソファに座りタブレットを分解する。
「ケイン君、一体何を」
「まあ、すぐ済みますから」
タブレットの中の魔法陣を改良し終わるとタブレットを元の姿へと戻しクレイグさんに返す。
「う~ん、見た目には何も変わってないようだけど、何をしたの?」
「じゃあ、今から説明しますね」
クレイグさんに操作してもらいながら、写真を紙に転写する方法を教える。
「ケイン君! これは凄いよ! 君は何て物を作るんだ!」
思わず高揚したクレイグさんに抱きつかれるところだったが、寸前で横にずれたためマサオに抱きつくことになったクレイグさん。
「あれ? こんな毛深かったっけ?」
「クレイグさん、俺はこっちですから。ちなみにそいつはマサオです」
「マサオ?」
『おい、兄さんよ。もう離してくれないかな』
「え? 今喋ったの」
『何だよ、もう話すのなんて珍しくもなんともないだろうが』
ハリセンで『スパ~ン』とマサオの後頭部を叩く。
『痛~な~ケイン、何すんだ』
「何すんだじゃないでしょ。なんでペラペラと話すかな~もう」
『あ~そうだった。悪い悪い』
「もういいよ、諦めた。もし見世物小屋にでも連れて行かれたら見に行ってあげるね」
『な、何でそうなるんだよ』
「だって、人の言葉を話す珍しい犬だよ。見せ物としては十分過ぎるでしょ」
『だからって、そうなるとは限らないだろ』
「だけど、今日だけでもベラベラと気楽に喋っているよね。なら、俺が言ったこともそう遠くない未来だと思うけど?」
『なら、どうすればいいんだよ』
「何も」
『何もってどういうことだよ』
「だから、『何も』しなければいいってこと。特に人前で喋るとかね」
『どうしてもダメか』
「俺は気にしないから。お好きにどうぞ」
『お前は俺の飼い主なんだろ?』
「え~そんなものになった覚えはないけど」
『俺の面倒を見てくれるんだろ』
「ああ、そういうこと。それはそうだね。でも、マサオがどこかに連れて行かれたら、そのままだけどね。俺は探さないし、報復もしないよ」
『テメェ、それでも飼い主かよ!』
「だから、俺は飼い主じゃないって。単なるお世話役だから。自分の身は自分で守らないとね」
『はぁもう分かったよ。迂闊に喋らなければいいんだろ』
「やっと気付いたの。まあいつまで保つんだろうね」
『だって、やっと山奥から出て来て、話せるのが周りにいるんだから、少しくらい話してもいいだろう』
「うん、だから好きにすればいいと言ってるじゃない。それこそ見せ物小屋に行けば『助けてくれ~』『ここから出してくれ~』しか言えなくなるかもね」
『分かったよ、俺が悪かった。今度からはお前に確認してから話すようにするから』
「そう、じゃそれでお願いね」
「ケイン君、何だかすごいこと話してたけど聞いていてもよかったのかな」
「まあ、そんなに言いふらす様な真似をしないでもらえれば」
「ああ、いいよ。そのくらい。でも、話せる犬か~ちょっと開いて見るのはダメかな?」
「俺はかまいませんけど、本人に聞いてみます?」
『な、何を言ってんだ。この兄さんは……なあ、ケイン。冗談だよな』
「僕は冗談でそんなことは言わないよ。ねえ、君の体、特に頭の中に興味があるんだ。魚はいっぱい捌いたから、君も痛い思いをしないで済むからさ。ね、いいだろ」
『お、俺を魚と一緒にするな!』
マサオが俺の後ろに隠れると尻尾を丸めてしまった。
「クレイグさん、いくらマサオでも頭を開いたら無事ではいられないので勘弁してもらえますか」
「そう、ケイン君がそう言うのなら、諦めるか」
『優男のように見えてとんでもない兄ちゃんだな』
「まあ、いい経験になったと思えばいいさ。あ、それでクレイグさんは独身寮の部屋は綺麗にしていますよね」
「え? ど、どういうことかな~」
「あのね、独身寮に住んでいる竜人のお姉さんの部屋が物凄いことになっていてね。この分だと退寮処分になりそうなんだ。だから、クレイグさんはそういうことがないよねって確認だから」
「ど、どうかな。僕なりに綺麗には使っているつもりだけど」
「ふ~ん『僕なり』ね~」
「な、何かなケイン君」
「まあいいよ。その内、カーティスさんに様子を見てもらうから」
「え? 何でそこで父さんが?」
「あれ、まだ知らなかったの。九月から始まる学校で教師になることになったんだ。今は独身寮に住んでもらってる。ちなみにメアリーとデイヴはリーサさんの所ね」
「父さんが独身寮で、下二人がリーサの所……そうなると母さんは?」
「向こうに一人ってことになるね」
「ヤバいよ! それはヤバいって」
「そうは言っても、カーティスさんの雇い主は俺じゃないからね」
「うわぁまた面倒なことになった」
「それはそれでそっちで頑張ってね」
「え~ケイン君は手伝ってくれないの?」
「嫌だ。面倒臭いから」
「面倒って……まあ、確かにね。あれだけ難しい性格だもんね。僕だって家族じゃなければ放置したいし」
「非道い息子だね」
「それをケイン君が言うの!」
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