上 下
121 / 468
連載

◆やっぱりいました

しおりを挟む
翌朝、家を出て工房に向かうとガンツさんはいなかった。
「まさか、もう格納庫に行ったのかな?電話してみるか。」
ガンツさんに電話を掛けると『遅い!』っていきなり怒鳴られた。
「ちょっと待ってよ、ガンツさんはどこにいるのさ。」
『ワシか?ワシは竜人の里じゃ。』
「え~何で、もう行ってるの?」
『ケインのことじゃから、今日はホーク号は出さんのじゃろうと思ってな。ゲートを使って来てしもうた。』
「あ~もう、分かったから。じゃ今から行くから。」
『おう、待ってるぞ。』
ガンツさんの意外な行動力に驚きながらもゲートを繋いで里へと出る。

「おう、いきなりだな。」
「何でガンツさんが驚くのさ。早く来いって言っておいて。」
「それもそうじゃな、ははは。」
「それで、何でこんな早くに来たの?」
「特に理由はないぞ。」
「へ?」
「じゃから、特に理由はないが今日ここに来るのは決まっていた話じゃろ。ならケインは待たずに直接来てもいいかなと思ってな。」
「ったく、このじ「言うなよ!」…分かったから。で、今は何をしてるの?」
「特に何もしとらんな。単なる世間話じゃ。」
「え~早く来といてそれだけ?」
「ああ、それだけじゃ。」
「じゃあいいよもう、ガンツさんのブレスレットを貸して。」
「何じゃいきなり、ワシから取り上げるのか?」
「違うよ。今回の様にどこに行ってるか分からないのは面倒だから、位置を共有出来る様にしとこうと思ってね。」
「何だか、ケインが保護者みたいじゃの。ほれ。」
「え~何でこんなじい様の保護者なの。」
「『みたい』じゃ、実際の保護者ではないのは分かっとる。それに『じい様』言うな。」
「はいはい、終わったよ。」
「これで何が分かるんじゃ?」
「渡したタブレットは持ってる?」
「ああ、ここに。」
「じゃあ、ついでこれとカメラも収納対象にしとくね。…はい、これで出来るから試して。」
「どうやるんじゃ?」
「収納は触れて、『これ』って認識してから『収納』でいけるよ。」
「ちょっと待て。触れて、意識して、『収納』…お、おお、出来た。で、出す時はどうするんじゃ?」
「出す時は手の平に出す様にイメージしてから、『解除』だね。」
「手の平じゃな。『解除』!出た!」
「問題ないみたいね。」
「待て!ホーク号はどうなるんじゃ?収納は良くても手の平に出ても困るんじゃが…」
「(一瞬ホーク号に潰されるガンツさんを想像してしまう。ぶふっ)それは手の平をかざした方向に出る様にイメージすればいいから。」
「本当じゃな、試すぞ。」
「ここではやらないでよ。門の外で試しなよ。」
「それもそうだな。よしちょっと試してくる!」
「あ~あ、行っちゃったな~」
「ケイン、終わったか?」
「あ、ダリルさんおはようございます。」
「ああ、おはよう。それでさっきのは何なんだ?」
「さっきの?」
「ガンツと何やら出したり引っ込めたりしていただろ?」
「ああ、あれですか。あれはブレスレットに少しばかり収納を追加したんですよ。」
「そんな簡単に言える程度の物じゃないと思うがな。」
「そうですか。俺は魔法や魔道具は単に生活を便利にする道具や手段でしかありませんからね。これで世界をどうこうしようなんて思わないですし。」
「出来そうだけどなぁ。」
「嫌です。面倒臭いし。」
「そうかぁ世界を手に入れれば、大概のことは好き放題出来ると思うけどな。」
「手に入れた後はどうなるの?誰かが管理してくれるのかな。」
「そりゃ側近とか、そういうのに任せるんじゃないのか?」
「なら、俺はその人達から見て邪魔者ってことになるよね。」
「そうだな、そういう見方もあるわな。」
「じゃ、俺は世界を手に入れた後は、他の人からの暗殺対象になるわけだね。」
「…そこまで考えてなかったな。」
「ね、世界を手に入れたっていいことないでしょ?」
「そうだな、すまん。」
「いいですよ。謝られることじゃないですし。」

そこへガンツさんが戻って来て「ケイン、出てきた!これでワシも収納持ちだ。」とか騒いでいた。


「じゃガンツさんも戻って来たことだし、昨日の話の続きでもしますか。」
「いいんだが、何だか軽いな。」
「どうしてです?単なるお引越しでしょ?」
「そうは言うが俺にとっては初めて里の外に出るんだぞ。それも一家揃ってな。」
「ドズさんにとってはそうですね。」
「そうだ、俺にとっては大事だ。」
「でも、家を移すだけでドズさんはこっちに毎日帰るというか働きに戻る訳ですし。日常的には大きな違いはないでしょ?」
「それはそうだが…」
「それにダズ達も、この里の周囲よりドワーフタウンの方が安全だと思うんですけどね。あとドズさんのケースが上手くいけば後に続くご家族もいると思うんだけど、どう?」
「…」
「もしかして、まだ奥さんにも話していないとか?」
「何じゃそうなのか?」
「実は…」
「そうか。まあ、あのカミさんじゃ無理ないか。」
「え~と、俺達だけ話が見えないんですけど?」
「そうじゃな、当事者なんじゃし、あの娘だけ無視する訳にはいかんな。ドズちょっと呼んでこい。」
「え、俺が言うんですか?」
「心配するな、里長のワシが呼んでいるとでも言って連れて来れば、ワシが話してやるから。」
「約束ですよ!絶対ですからね、後でナシはやめて下さいよ!」
「いいから、行ってこい。」
ドズさんが慌てて、出ていくのを見送りダリルさんに聞いてみる。

「ダリルさん、何でドズさんはあんなに怯えているんですか?」
「まあ、ケインにはまだ分からんかもしれんが、昔は可憐な少女と思っていた女性が子を産み育てていくうちに妻を母に変え、この世で一番強い存在へと変えるんじゃ。」
「え~と、ダリルさんに聞いたのに何でガンツさんが説明を?」
「まあ、『経験者は語る』じゃな。」
「あれ?ガンツさんにお子さんていたんですか?」
「ああ、いるにはいるがな。」
「へ~で、さっきのことはアンジェさんに報告しても?」
「ん?ケイン、お前は何を言ってるのかな?」
「それでダリルさん、ドズさんの怯えは何なんですか?」
「まあ、ガンツさんの言うことも半分は合ってるかもな。」
「後の半分は?」
「多分、稼ぎのことだな。」
「そんなに悪いんですか?」
「いや、この里なら十分に暮らせると思うぞ。」
「なら、何でそこまで怒るんですか?」
「そこそこじゃ嫌なんだと。だから、レイラは…ああ、レイラってのはドズのカミさんな。そのレイラがもっと稼げるはずの外に出たいと言っているんだが、ドズは嫌がっているんだよ。ここを出ても食べていける保証もないしな。」
「うわぁこりゃ誘ったのは失敗だったかな。」
「まあ、外で稼ぐことの大変さをレイラが分かってくれるのが一番なんだがな。」
「却って逆効果かも知れませんよ。」
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。