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◆信じてもらえませんでした

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リーサさんのご家族が落ち着いたところで時間を確認するともう夕暮れを過ぎていた。
「すみませんが、今日はこの辺で帰らせていただきます。」
「おう、そうじゃな。ちと遅くなったな。アンジェお暇しよう。」
「はい、失礼しますね。」
「あ、リーサさんはこっちの実家に泊まるんでしょ?なら、明日一日は休みにするからご家族とごゆっくり。じゃ、ガンツさん行きましょうか。」
「待て、ケイン君。今から帰るというのか?もう森の中は暗くて歩くには危険じゃぞ。」
「ケイン、私を置いていくなんてひどいじゃないか。私も帰るぞ。じゃ父、母、また来るから。長よ研究者の件は頼んだぞ。」
「リーサさん、帰るの?」
「ああ、もう私の家はドワーフタウンだからな。」
「なら、長とご両親に携帯電話を預けておく?何か会った時に便利でしょ。」
「そうだな、長よ。これを渡すから…」
リーサさんが長とご両親に携帯電話の使い方を説明し終わるのを待つ。

すると肩をトントンと叩かれ振り向くと妹さんが立っていた。
「ねえ、あなたはリーサ姉さんの住んでいる所を知っているの?」
「ああ、知っている。それが?」
「私も行っていい?」
「それは本人に聞きなよ。」
「え~旦那様が言えば嫌とは言わないでしょ。ね、お願い。」
「正確には『仮』だから。まだ旦那じゃないよ。ごめんね。」
「え~私もお泊まりしたいのに~」
「僕も~」
「え~ガンツさん、どうする?」
「なら、家族ごと攫っちまえばいいじゃねえか。リーサの部屋なら一泊程度なら問題ないだろう。」
「それもそうだね、じゃちょっと待ってね、聞いてみるから。リーサさんいい?」
「ケイン、どうした?」
「実は…ってことなんだけど、どう?」
「まあ、泊まれるかと言われれば泊まれるが、どうする?」
ご家族に向かってリーサさんが確認するが、誰も『うん』とは言わない。
そりゃ今から森の中を歩くと思えばそうだろうね。
それじゃ種明かしと行きますかとゲートをリーサさんの部屋の玄関前にと繋げる。
「「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」」」
「リーサさんこれでいい?」
「ああ、助かる。さあ行くぞ。ん?どうした、行くんじゃなかったのか?」
「…………あ、ああ、何?何なんだ?これはどこなんだ?」
「どこって私の部屋の玄関前だが。さあ早く通ってくれないと。」
リーサさんが家族全員を連れてゲートを潜ったので、ゲートを閉じる。
「ケイン君、君はリーサのご家族をどこにやったんだ?」
「どこにってリーサさんの住む家ですよ。見てたでしょ?」
「ああ、見てた。見てはいたが、分からない。」
「なら、さっき教えてもらった携帯電話でリーサさんか、ご両親に掛けてみてはどうですか?」
「そうか、そういう使い方もあるのか。では…」
『…カーティスだ。誰だ?』
「カーティスか、無事か?無事なんだな?」
『その声は長ですね。大丈夫ですよ、皆んな揃っていますよ。ケイン君によろしくお伝えください。では。』
「切りよった。」
「どうです?いたでしょ?」
「疑って悪かった。だが、あんなものを見せられると信じられなくてな。なあベティもそう思うだろ?………あれ、ベティはどこだ?」
「さっきまでそこにいましたよね?」
「まさか…いやいや、それは考えすぎだ。きっとトイレにでも行っているんだ。」
「長さん、もう一度カーティスさんに電話して確認してもらえませんか?」
「…そうだな、はっきりさせないとな。」
カーティスさんにもう一度掛け、ベティさんがそっちに行っていないかを聞いてみると、一緒に夕食の準備をしていると言われたそうだ。
『行動力が凄いな、エルフってもっと保守的な種族だと思っていたよ。』

「長よ、色々と気苦労が多そうだな。ケイン、アレを渡してやってくれ。」
「え、いいの?アレってガンツさんがアンジェさんに取られないようにって俺に持っていて欲しいって頼んでたヤツでしょ。」
「あっバカ!そこまでいう「あなた!何を隠したの?」…ほらぁ…」
「ごめん、ガンツさん。長さん、これを。」
「これは?」
「酒精が強いので少しずつ飲んでくださいね。じゃ、俺らも帰りますね。」
ゲートをガンツさん達の家の前に繋ぎ一緒に潜って行く。

「何だったんじゃあれは。でも、いい物を貰ったの。ゴホン、お前達ももういいぞ。」
「長一人だけで、ソレを飲むんですか?」
「そうです!ずるいです。ケイン君がくれた物なら、私達にも権利があるはずです。」
「私もそう、思います。」
「…分かった。分かったから、ほら自分のグラスを持って来なさい。」
「「「は~い。」」」
グラスを持ち寄り、それぞれのグラスに瓶から注ぐ。
「酒精が強い言うてたからの、まずは一口をゆっくりとじゃ。」
「クイッ」とそれぞれがグラスを傾けると「「「「ぷはぁ~」」」」と声が出る。
「これは!」
「すごい!」
「うまい!」
「もっと!」
いつの間にか瓶を奪い合いグラスに注ぎ、気が付けば既に空っぽになっていた。
「「「「あ~なくなった。」」」」
「ワシが貰ったのに…」
「まあまあ、また貰えばいいじゃないですか。」
「そうは言うが、いつ来るとも言ってないんじゃぞ。気長に待つしかないじゃろ。」
「いやいや、何か頼まれていたじゃないですか。集めるとか何とか。」
「おお、そうじゃ!研究者じゃ、ソレを集めればまたご褒美…おほん、お礼にとまた、もらえるかもしれんの。」
「そうそう、さっさと集めて連絡しましょう!」
「でも、どんな人を集めるの?」
「固執する人?」
「研究者というくらいじゃから、まずは好奇心が必要だな、そして長く地味なことを真面目にやり抜くことが出来るやつじゃ。」
「あ~無理!私には無理。」
「私もだめだ。」
「…イケるかも。」
「お~いけそうか、だがもう少し頭数が必要じゃの。まあ明日から集めてくれ。頼むな。」
「「「は~い。」」」

~ところ変わってリーサの部屋~
「ふふんふ~ん。」
「ベティは親に黙って着いて来たけど大丈夫なの?」
「さっき父が長にここにいることを電話で伝えていたから、大丈夫とは思うぞ。」
「じゃここにいても大丈夫だね。リーサお姉さんとは久しぶりだから、もう少し一緒にいたかったんだ。」
「そうなのね、それなのにリーサったら里は放ったらかしでこんないい所に住んでいるなんてね~もう心配していた親の立場がないってもんよ。」
「母よ、ここはケインに用意してもらったんだ。凄いだろケインは。」
「ええ、何?あの子そんなにお金持っているの?」
「お金は確かに持っているとは思うが、ここはケインが作ったんだ。」
「『作った』ん?ええと、用意してもらったって言ったよね?その『用意』ってのは部屋を借りてくれたとか買ってもらったとか、そういう意味じゃないの?」
「違うな、正確にはケインが作ったこの集合住宅の一部をタダで借りているってことかな。」
「ええ!『作った』ってどういうこと?建設資金を出したってこと?」
「だから作ったって言っているじゃないか。それ以外の意味はないぞ。」
「…ええとつまり、言葉通りにケイン君がこの建物を一人で建てたってこと?」
「さっきから、そう言っているじゃないか。何がおかしいんだ?」
「「「全部よ!」」」
台所に立っていた女性全員からダメ出しをくらうリーサであった。

「とにかく信じられない!」
出来立ての夕食を頬張りながらベティが憤慨する。
「何をそんなに怒っているんだい?」
「ああ、父さん達は台所にいなかったから、分かんないよね。あのね…」
台所での話をメアリーが父達に聞かせる。
「そりゃ信じられないのは分かるが、ここに来たのもその信じられない魔法のおかげだろ。なら、あり得るんじゃないのかい。」
「ぐっ…」
「あら、ベティは言いくるめられちゃった?」
「でも、こんな建物を作ったって言われても信じられないでしょ。」
「ベティ、言いたいことは分かる。私も最初は信じられないことがたくさんあった。だが、今は全部受け入れることが出来ている。慣れたとも言うかな。それくらい、ケインの周りには非常識なことも多いが、楽しいことも多い。だから、こうやって家族にも数十年振りに会うことが出来た。だから、ケインには感謝しかない。」
「リーサ…でも、まだ襲っちゃダメだからね。いい?」
「………」
「リーサ、返事出来ないの?」
「………頑張る。」
「ハァ頑張らないとダメなのね。もういっそ私がここに住んで監視しようかしら。そうね、それがいいわ。ね、リーサ。いい考えでしょ?」
「母は何を言っているんだ?父よ、いいのか?」
「母さん、ずるい!私だってこんな所に住めるなら、私が監視する!母さんは子供達の世話を頼む。」
「あ~父さん、母さんだけずるいぞ。俺だって、ここに住みたいんだ。そうだ、父さん達はそのまま、里にいた方がいいって。急に親の片方がいなくなったらあそこの家は離婚したんじゃないかって悪い噂が流されるぞ。うん、そうだ。そうに違いない。だから、俺が監視でここに住む。」
「え~私もここに住みたい!」
「僕も!」
「里の何がそんなに嫌なんだ?」
「「「「「家出した奴が言うか?」」」」」
「ごめん。」
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