上 下
170 / 186
第3章 ただいま、放浪中

第45話 一種の通過儀礼だったり?

しおりを挟む
「ふん! まあよい。妾の可愛くも可憐な姿をここから見てるがよい」
「「「あ!」」」

 ルリは俺の言葉に嘆息しながらも自分の活躍を目に焼き付けるがいいと気付けば演舞場へと転移していた。

「やはり、守人なのですね」
「ああ、そうだな。でもよぉ~なんでこんな面倒なことするんだ?」
「力こそが正義と銘打っているからでしょ」
「ですが、時には間違った力かも知れませんよ」
「そこは自信があるんでしょ。ほら」

 ルリが転移したことで、リーアさんはルリを守人として再認識し、ガルちゃんはルリが戦う理由が分からないと言い、先輩がそれを肯定する。

 そしてオジーは間違った力が勝ってしまった場合を心配しているが、俺はそれを心配することはないだろうと演舞場を指差せば、そこには剣を手に獣人の男がルリに勇猛果敢に攻め込んでいるが、どれもルリには届いていないようだ。

 勇猛果敢と言ったが、見た目は少女なのに……ルリに対し剣や拳、時には蹴りまで放つのは男としてどうなのだろうかと思わなくもない。

 だが、そんな俺達の心配を他所にルリは面倒臭そうに手も使わず、その場から一歩も動くことなく躱し続けている。

 反対に一向に自分の攻撃が当たらないことに疲れたのか、既に両腕をだらんと垂らし肩で息をしている。

「なんじゃ。もう終わりか? 情けないのぉ~まだ、この前の狼のヤツの方がマシじゃったぞ」
「くっ……うがぁ!」
「ほぉまだやれるか。よし、相手にしてやるのじゃ。せめて、妾の手を使わせるか、この場から動かしてみるのじゃな」
「な、舐めるなぁ~! 俺は……俺はルリ様の伴侶になるんだぁ!」
「うむ、その意気やよし! さ、もう一度、もっと大きな声で言うのじゃ」
「へ?」
「ほれ、何をしておる! さっきの言葉をもう一度、言うのじゃ!」
「あ、いえ。さっきも相当な勇気がいったのですが……」
「あぁ~そういうのはよいから、もう一度じゃ! ほれ、あの世界樹の上にまで届くようにじゃ!」
「……では。コホン! 俺はこの勝負に勝ってルリ様を嫁に娶ってみせます」
「……興醒めじゃ」
「えぇ何故ですか?」
「妾は先程の言葉を求めたのじゃ。どうして、それを畏まって丁寧に言い直したのじゃ。これでは興醒めじゃ」
「……」
「ほれ、何をしておる。こんな余興はさっさと終わらせるのじゃ」
「くそっ! では、いきます。お覚悟を!」
「ふふふ、その意気やよし。遊んでやるのじゃ」
「うぉぉぉぉぉ!」

 ルリに良いようにあしらわれていたのは身長は当然の様にルリより大きく二メートルはあるんじゃないかと思える筋骨隆々緒獅子系の獣人らしい。

 らしいと言うのは、ここからじゃよく見えないが、相手の男性の顔の周りに立派なたてがみの様なものが見えたからだ。

 そんな男性がルリとの勝負に勝ちルリを娶ると宣言するが、回りの反応は渋いモノだった。

 それもそうだろう。さっきまでルリに良いように遇われ肩で息していたのに急に背筋を伸ばしてキリッとした表情で言うことではないんじゃないかと俺でも思う。

 それでもルリには何かが琴線に触れたのか、もう一度言うように男に要求しているが、一世一代のプロポーズではないが何度も要求するのはどうだろうか? まあ、実際には試合前にも宣言しているのだから初めてではないが、それでも相対して言うことにどれだけ度胸がいるのかルリには分かっているのだろうか。

 だが、ルリはそんな男の気持ちを汲み取るよりもどこか自分を軽視している俺達に対しよく聞こえるようにと、もう一度言えと要求しているが、男は姿勢を正しピシッとした態度で言葉を変えて宣言するが、ルリはそれに対し「興醒めじゃ」とだけ言葉を返すとさっさと終わらせようと男に対し手招きをする。

 男は今までのやり取りからルリには到底叶わないだろうと言うことは十分に理解していた。

 だが、ここはどうにかして一撃はムリでもルリを動かしてみせると大きく深呼吸を繰り返し、ゆっくりとした動作で構えると「いきます!」と宣言し雄叫びを上げながらルリへと向かう。

「もう少し修行が必要じゃな」
「え……」

 ルリはそう言うと少しだけ身体を捻ると同時に自分に振り下ろされた剣先を掴み、演舞場の外へと放り投げると同時に「サービスじゃ」と反対の手で男の腕を取り、先程と同じ様に演舞場の外へと放り投げる。

「悪くはないが、攻撃が単純じゃな。まあ、精進するのじゃな」
「ま、参りました……」

 演舞場の外へと放り投げられた男は仰向けの状態で息も絶え絶えに敗北を宣言すると同時に「死んじゃダメェ! らいおぉ~」と演舞場の観客席から女性らしき人が飛び下り男の元へと駆けつける。

「ライオ、死なないでぇ~」
「エルザ……心配するな……ルリ様もちゃんと加減してくれた様だ。ツッ……まあ、受け身を失敗し少しばかり痛いがな」
「もう、なんでこんなムチャをするのよぉ!」
「ムチャって……お前も知っているだろ。この村で一人前と認められるにはルリ様に挑戦する権利を得ることだと」
「そんなの分かってるわよ! でも、あそこまでいうことないじゃないの! 私と言う恋人がいるのに!」
「それは……まあ、盛り上げる為に必要だろう」
「……分かったわよ。でも、私には別の言葉でプロポーズしてほしいなぁ。ダメ?」
「ダメなもんか。お前に贈る言葉は俺の胸の奥底にちゃんとしまっている。だから「コホン!」……誰だよ! いいところなのに……ってルリ様……」

 演舞場の外へと放り投げられたライオの側にエルザが駆け寄り、イチャコラしていたところに空咳で邪魔されたと勘違いしたライオが誰だとその方向を確認すれば、そこには当て馬にされ今にも泣きそうな顔のルリが立っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...