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第3章 ただいま、放浪中

第28話 開けられないの……

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「ほら、何はともあれガル様の嫁入りなんだから。なら、やることは一つでしょ」
「お! そうだな。じゃ、皆を集めないと……アイタッ!」
「もう、だから少しは落ち着きなさいってガル様からも何度も言われているでしょ!」
「いや、そうは言うがな「よく見なさい!」……ん? お、そういやそうだったな」
「でしょ。そもそもアンタは……」

 サリアさんがガルちゃんと俺のことを歓迎してくれ、ならばと宴を催すしかないよねと言った所でデュダがまた、暴走してどこかへ行こうとしたのをサリアさんが慌てて引き留めた後は、ここぞとばかりに説教が始まってしまった。

「まあ、アイツらはいつものことじゃて」
「だな。では、改めてガルディア様、おめでとうございます!」
「「「おめでとうございます!」」」
「ああ、ありがとうな。と、言いたいが俺達には何もないのか?」
「お、そうでしたな。では、直ぐにでも「ちょっと待ってくれ」……ん? 何ですかガルディア様の旦那様」
「長いな……俺のことはヒロでいいから」
「ヒロ……ん、覚えた。で、そのヒロが何用だ?」
「いや、軽いな。まあ、それはいい。これは俺からの振る舞い酒だ。皆で呑んでくれ」
「ん? 呑めというなら呑むが……これはどうやって呑むんだ?」
「これはね……」

 デュダ達が中々帰って来ないので側にいた長老っぽいドワーフの老人が俺達の前に立ち、俺とガルちゃんのことを祝ってくれ、それぞれが持っているジョッキを高々と挙げるが、俺達は何も持っていなかったのでガルちゃんが何もないのかと、零す。

 その言葉に長老がすぐに用意させようと動き出すのを止め、俺はインベントリから発泡酒を取り出し呑んでくれと並べるが、プルタブの開け方が分からずどうやって呑めばと首を傾げる。

「もう一つ見せたい物がこれだ! どうだ? お前達はこんな金属を見たことがあるか?」
「ふむ……ガルディア様。正直、申しますと私達はこんな金属は見たこともありませんし、どんな鉱石から精製されるのかも想像出来ません。これは一体……」
「これはな、ヒロだ」
「え?」
「だからな、ヒロはまれびとだ。それにこれだけじゃないぞ。ヒロ、見せてやれ」
「別にいいけどさ。ガルちゃんの手柄みたいに……」
「小さいな……」
「ぐ……」

 ガルちゃんに発泡酒のアルミ缶を見たことがあるかと問われた長老は一度も見たことがないと正直に言えば、ガルちゃんは他にもあるぞと俺に出す様に言う。

 俺はまるでガルちゃんの手柄見たいじゃないかとボソッと呟けば、ガルちゃんに小さいぞと言われ、ちょっとだけ凹む。

「じゃあ、ご希望の品はこれでいいのかな?」
「おう、これだ、これ! どうだ?」
「こ、これは……」
「どうだ、凄いだろ!」
「いや、だからガルちゃんの手柄じゃないし……」
「ああもう、そういう細かいことはいいじゃないか。ついでに言えばお前の物でもないのだろ?」
「うぐっ……」

 俺がインベントリからワイングラスを取り出しテーブルの上に並べるとガルちゃんはそれを手に取り長老達に自慢するように見せる。

 長老達はガラスの存在は知ってはいるが、これだけ透明で薄く作る技術は持っていないといい、その場にいるドワーフ達で手に取りながら「これは……」「この薄さはどうやって?」と考察が始まった。

「驚くのはまだ早いぞ。ヒロ、準備はいいか?」
「はいはい、じゃお願いします。冷やしてちょうだい!」
『『『は~い!』』』

 俺はインベントリから新たにジョッキグラスを取り出し、側にいるであろう精霊達に冷やして貰うように頼むと見る見るうちにジョッキの表面に霜が付きキンキンに冷えたであろうことが分かる。

 ガルちゃんはそれを見て満足そうに頷くと手に持った発泡酒をプシュッと開けてから飲み口をジョッキに近付けトクトクトクと注ぎ込み、泡が三センチほどになるとジョッキを傾けて今度は泡を崩さないように静かに注ぎ込む。

 やがてジョッキをなみなみと満たすと我慢が出来なかったのか徐に口を近付けゴキュッゴキュッと喉奥に流し込み一気に飲み干すと「プハァ!」と空になったジョッキをテーブルに置く。

 そんなガルちゃんの様子を見ていたドワーフ達は、その美味そうな様子に思わずゴクリと喉を鳴らし「が、ガルディア様……」と長老が声を掛ける。

「おう、お前達も呑め!」とガルちゃんは言うが、長老達にはジョッキグラスが用意されていなかったので俺は慌ててジョッキグラスを追加し精霊達にお願いする。

 だが、本当の問題はそこじゃなかった。

 キンキンに冷えたジョッキグラスを目の前にしながら見た目はお爺さんみたいな人達皆が涙目になって発泡酒のプルタブをカシカシと指で引っ掻いている。

 俺はそんな様子に思わず可愛いと呟いたが、そのままじゃ可愛そうだと思い直す。

「ごめんなさい。気付かなくて」
「いや、こちらこそ申し訳ない。だが、モノ作りを生業とするドワーフとしてはこのくらいの苦難……ガルディア様から戴いた苦難くらい乗り越えて見せねば! ふぅ~開かない……」

 言っていることは立派だが、その太い人差し指でカシカシとプルタブを引っ掻いて涙目で上目遣いに俺を見るのはどうかと思う。

 俺が開けてやるのは簡単だが、いくら可愛く見えたからと言ってもオジさんなのには変わりない。それにどれだけの人数なのかは分からないが、たくさんなのは間違いない。

 だから、俺はスチール製の十センチ定規を取り出し、プルタプと缶の隙間に射し込み「こうやれば開けられるでしょ」と教えてやれば、直ぐにドワーフ達に囲まれ定規を奪われる。

 定規は結構な数を用意したのであぶれる人はいないと思うが、これでやっと缶が開けられるという思いからか圧が凄かった。

「ふふふ、これでヒロも此奴らに認められたな」
「え? お酒を提供しただけだよ」
「だからさ」
「ん?」
「知らない酒に作れないグラス、見たことがない金属に手軽に呑める缶、それと……ここが一番大事だな」
「何? 勿体ぶってないで教えてよ」
「ああ、それはな。美味しい酒の飲み方だ。見ろ!」
「あぁ~やっちゃったかな……」
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