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第2章 新天地を求めて
第57話 出るのはため息ばかり
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「さて、予定外の報告もあったがもう一つ知らせておきたいことがある。では……」
王はクリスとヒロとの婚約発表をサラッと流して、注目するお貴族様達に近々コスメウララの製品発表会を行うと宣言した。
「詳細は、これから発送する招待状に記載されているだろうから、ここでは省かせてもらう。是非、細君を快く送り出して欲しい。では、私はこれで失礼する」
「「「は!」」」
王が壇上から退席する時に伯爵に目配せをし、伯爵もそれに応え軽く会釈する。
王が謁見の間から出ると伯爵や俺達に対しお貴族様達が群がろうとするが直ぐに衛士が間に入り「ジャミア伯爵様は退室されますのでご遠慮下さい」と声を出し制する。
ならばと俺や先輩なら無礼にはなるまいと考えたのか、ある貴族は先輩の腕を掴もうと手を伸ばしたところで衛士がそれを阻む。
「貴様! 私が誰かを知ってのことか!」
「失礼ながら、私共は陛下より客様達の警護を言い付かっております。例えどの様な立場の方であろうと陛下の命を優先させて頂きます」
「ぐ……」
そんな風な衛士と少しばかり若い貴族とのやり取りを黙って見ていたセドリックとダエスは「若いな」と嘆息する。
無事に謁見の間から退室することが出来た俺達は伯爵、クリス、先輩と一緒にこじんまりとした部屋へと通されると「やあ、無事に来られたみたいだね」とソファに座ったままの王が出迎えた。
「陛下、色々と申したいことはありますが、これにて客のお披露目は済んだものと考えてよろしいでしょうか」
「ああ、そうだね。とりあえず客としてのお披露目は無事に終わったね」
「そうですか。では「安心するのはまだ早いかな」……え?」
「もう、忘れた? さっきクリスがやらかしたでしょ」
「お兄様、やらかしたってなんですか! 祝ってはくれませんの?」
「祝う祝わないの前に発作的に発表したのはクリスだよね」
「……そうですが」
「私も妹のことだから祝いたいよ。祝いたいけど……ねえ」
「どういう意味ですの?」
客としてお貴族様達の前に出されたことでお披露目としての役目は終えたと思い安堵していた伯爵と俺達だったけど王はまだ安心出来ないと言う。
その一つがクリスがやらかしてくれた俺との婚約を電撃発表してくれたことだ。
先日、魔力量が増えたと浮かれ俺に対し『吊り橋効果』に似た感情を覚えたのか『絶対に離しません!』って感じだったけど冷静になり考え直した結果、掴んでいた俺の手を振り解き嘗て恋い焦がれていた異性へと手紙を認めたが、全敗し「やっぱりヒロ様が運命の人だったのだわ」となっての婚約発表だったらしい。
クリスは婚約を済ませたのだから早く挙式をと焦っているようだが、俺としては名前しか知らない異性と「はい、いたしましょう」とはならないので『婚約(仮)』である。
そして俺は伯爵預かりの身であるため一応形式上は伯爵が保護者となり、このまま話が進めば何をするにしても伯爵を通してのやり取りとなるため、暇とはならないだろうとのこと。
そして、もう一つが……と、いうよりは控えている最大のイベントがコスメウララの製品発表会だ。
「ホントにやるんですか?」と先輩も嘆息しつつ王の言葉を待つ。
「やるよ。逆にもし、やらなかったらどうなると思う?」
「……考えたくありません」
「だよね。だから、頑張って」
「ハァ~」
「大変だねウララも」
「は? なんで他人事?」
「え? だって体制さえ整えば俺がやることなんて「あるわよ! ってか、作るわよ!」……えぇ!」
まあ先輩が俺にも出来ることを無理にでも探すと言うのなら、付き合ってやらないでもないけど、正直気が乗らない。
「まあ、いいですけど。そもそも製品発表会ってどんなのを出すんですか?」
「どんなのって……どんなの?」
俺は先輩がどんな製品を扱っているのか全くと言っていいほど知らなかったので素直に聞いてみたのだけど、先輩自体もよく分かっていないみたいで伯爵、王と視線を動かすが伯爵は顔を横に振り、王は笑っている。
「ふふふ、ウララ嬢が心配することはないよ。ジャミアの奥方が中心となって準備を進めているからね」
「分かりました。では、後ほど奥様に確認致します」
「うん、そうしてもらえると助かるかな」
これで話は終わりと席を立とうとすると王から「ヒロはちょっと残ってもらえるかな」と言われたので「???」となり伯爵と先輩は部屋を出るが、クリスは俺の腕を掴んだまま横に座っている。
「クリス、何をしているんだい?」
「婚約者の横にいることが何かおかしいですか?」
「私はヒロ殿にだけ残って欲しいとお願いしたんだが?」
「はい。それは分かっております。だから、こうしてヒロ様と一緒に残っていますが?」
「……クリス、いい子だから」
「お兄様、私はもうお子様ではありません」
「なら、聞き分けよくなってもらえないだろうか」
「……分かりました。ではヒロ様。少しの間、離れ離れとなり淋しいでしょうが我慢してくださいね」
「え?」
「我慢してくださいね」
「あ……はい」
「では、お兄様。少しの間だけヒロ様をお貸ししますのでご無体なことはしないでくださいね」
「するか! いいから早く出なさい!」
「……ヒロ様、何かありましたら大きな声で助けを求めるのですよ」
「……はい」
王が俺に何するとは思えないが、ここは素直に頷くしかないのだが、そんな様子を見て何を納得したのかようやっとクリスが部屋から退室すると王が大きくハァ~と嘆息する。
そして俺もつられるようにハァ~とデッカい溜め息を吐く。
王はクリスとヒロとの婚約発表をサラッと流して、注目するお貴族様達に近々コスメウララの製品発表会を行うと宣言した。
「詳細は、これから発送する招待状に記載されているだろうから、ここでは省かせてもらう。是非、細君を快く送り出して欲しい。では、私はこれで失礼する」
「「「は!」」」
王が壇上から退席する時に伯爵に目配せをし、伯爵もそれに応え軽く会釈する。
王が謁見の間から出ると伯爵や俺達に対しお貴族様達が群がろうとするが直ぐに衛士が間に入り「ジャミア伯爵様は退室されますのでご遠慮下さい」と声を出し制する。
ならばと俺や先輩なら無礼にはなるまいと考えたのか、ある貴族は先輩の腕を掴もうと手を伸ばしたところで衛士がそれを阻む。
「貴様! 私が誰かを知ってのことか!」
「失礼ながら、私共は陛下より客様達の警護を言い付かっております。例えどの様な立場の方であろうと陛下の命を優先させて頂きます」
「ぐ……」
そんな風な衛士と少しばかり若い貴族とのやり取りを黙って見ていたセドリックとダエスは「若いな」と嘆息する。
無事に謁見の間から退室することが出来た俺達は伯爵、クリス、先輩と一緒にこじんまりとした部屋へと通されると「やあ、無事に来られたみたいだね」とソファに座ったままの王が出迎えた。
「陛下、色々と申したいことはありますが、これにて客のお披露目は済んだものと考えてよろしいでしょうか」
「ああ、そうだね。とりあえず客としてのお披露目は無事に終わったね」
「そうですか。では「安心するのはまだ早いかな」……え?」
「もう、忘れた? さっきクリスがやらかしたでしょ」
「お兄様、やらかしたってなんですか! 祝ってはくれませんの?」
「祝う祝わないの前に発作的に発表したのはクリスだよね」
「……そうですが」
「私も妹のことだから祝いたいよ。祝いたいけど……ねえ」
「どういう意味ですの?」
客としてお貴族様達の前に出されたことでお披露目としての役目は終えたと思い安堵していた伯爵と俺達だったけど王はまだ安心出来ないと言う。
その一つがクリスがやらかしてくれた俺との婚約を電撃発表してくれたことだ。
先日、魔力量が増えたと浮かれ俺に対し『吊り橋効果』に似た感情を覚えたのか『絶対に離しません!』って感じだったけど冷静になり考え直した結果、掴んでいた俺の手を振り解き嘗て恋い焦がれていた異性へと手紙を認めたが、全敗し「やっぱりヒロ様が運命の人だったのだわ」となっての婚約発表だったらしい。
クリスは婚約を済ませたのだから早く挙式をと焦っているようだが、俺としては名前しか知らない異性と「はい、いたしましょう」とはならないので『婚約(仮)』である。
そして俺は伯爵預かりの身であるため一応形式上は伯爵が保護者となり、このまま話が進めば何をするにしても伯爵を通してのやり取りとなるため、暇とはならないだろうとのこと。
そして、もう一つが……と、いうよりは控えている最大のイベントがコスメウララの製品発表会だ。
「ホントにやるんですか?」と先輩も嘆息しつつ王の言葉を待つ。
「やるよ。逆にもし、やらなかったらどうなると思う?」
「……考えたくありません」
「だよね。だから、頑張って」
「ハァ~」
「大変だねウララも」
「は? なんで他人事?」
「え? だって体制さえ整えば俺がやることなんて「あるわよ! ってか、作るわよ!」……えぇ!」
まあ先輩が俺にも出来ることを無理にでも探すと言うのなら、付き合ってやらないでもないけど、正直気が乗らない。
「まあ、いいですけど。そもそも製品発表会ってどんなのを出すんですか?」
「どんなのって……どんなの?」
俺は先輩がどんな製品を扱っているのか全くと言っていいほど知らなかったので素直に聞いてみたのだけど、先輩自体もよく分かっていないみたいで伯爵、王と視線を動かすが伯爵は顔を横に振り、王は笑っている。
「ふふふ、ウララ嬢が心配することはないよ。ジャミアの奥方が中心となって準備を進めているからね」
「分かりました。では、後ほど奥様に確認致します」
「うん、そうしてもらえると助かるかな」
これで話は終わりと席を立とうとすると王から「ヒロはちょっと残ってもらえるかな」と言われたので「???」となり伯爵と先輩は部屋を出るが、クリスは俺の腕を掴んだまま横に座っている。
「クリス、何をしているんだい?」
「婚約者の横にいることが何かおかしいですか?」
「私はヒロ殿にだけ残って欲しいとお願いしたんだが?」
「はい。それは分かっております。だから、こうしてヒロ様と一緒に残っていますが?」
「……クリス、いい子だから」
「お兄様、私はもうお子様ではありません」
「なら、聞き分けよくなってもらえないだろうか」
「……分かりました。ではヒロ様。少しの間、離れ離れとなり淋しいでしょうが我慢してくださいね」
「え?」
「我慢してくださいね」
「あ……はい」
「では、お兄様。少しの間だけヒロ様をお貸ししますのでご無体なことはしないでくださいね」
「するか! いいから早く出なさい!」
「……ヒロ様、何かありましたら大きな声で助けを求めるのですよ」
「……はい」
王が俺に何するとは思えないが、ここは素直に頷くしかないのだが、そんな様子を見て何を納得したのかようやっとクリスが部屋から退室すると王が大きくハァ~と嘆息する。
そして俺もつられるようにハァ~とデッカい溜め息を吐く。
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