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第2章 新天地を求めて

第19話 何か忘れている気がする

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 平たくビロ~ンと伸びてしまったセツの身体をまだ信じられないといった感情で黙って見ていたが、セツの身体がゆっくりと膨らみを取り戻し、心做しか少し脈動している様に思えたので「セツ?」と声を掛けた所で、またセツの身体がまばゆく光り出す。

 今度は前みたいに淡い光りではなく強烈なLEDの光りを浴びせられた様に感じ、目が痛い。

 それでもセツの身体に何が起きているのかハッキリと見ないとダメだと両手で光りを遮りながら指の隙間から細目でセツの身体を確認する。

 やがてセツの発光が納まると俺は直ぐにセツの容態を確認する為に「セツ!」と大きな声で呼び掛けるが、返事はない。

 それでも、死んではいないハズだと確信めいたものを信じ諦めずに「セツ! セツ!」と呼び続けると『うるさい!』とどこからか声が聞こえてきたので「へ?」と思わず間抜けな声が出る。

『もう、聞こえてるからさぁ~そんなに怒鳴らないでよぉ~主ぃ~』
「え? 誰?」
『僕だよ。分からないの主ぃ~』
「え?」
『もう、僕のこと分からないのぉ~なんかショックなんだけどぉ~』
「も、もしかしてセツ……なのか?」
『やっと分かってくれたぁ~そうだよぉ~セツだよぉ~』
「いやいやいや、セツは話せなかった。そうだ、意思の疎通は出来たけど話すことは出来なかったハズだ……いや、でも……」

 いきなり頭の中に聞こえてきた声の主がセツだと分かりセツが生きていることにホッとするよりも驚きの方が大きかった。

「だけど、どうして?」と頭の中で大きな『?』がグルングルンと回り続けている。

 そして「あ!」と思いセツの身体を鑑定してみると種族名が『エレメンタル・マジカル・スライム』と変わっていたというか、進化していたと言う方が正しいのだろう。

『主ぃ?』
「セツなんだよね?」
『そうだよぉ~セツだよぉ~』
「でも、頭に直接聞こえるのは『念話だよぉ~』……念話?」
『そうだよぉ~進化してから使えるようになったみたいなんだぁ~』
「そうか」
『そうだよぉ~主ぃ~嬉しいぃ~?』
「うん、嬉しいよ。これからも宜しくねセツ!」
『えへへ、僕も嬉しいよぉ~主ぃ~』

 いきなり光ったり萎れたりしたセツに慌てたものの終わってみれば、セツが一段階進化しただけだった。

 しかも念話も使えるようになりセツと会話することも可能になった。

 だけど、そこでふと気になったことがある。

 本体であるセツが進化したことで、分体への影響はないのだろうかと。

「セツ、セツは進化したけど他の子達はどうしたの?」
『あ! えっとねぇ~、ちょっと待っててねぇ~……うん、大丈夫みたいだよぉ~』
「そっか。今まで通りなんだね。よかった~」
『ん~ちょっと違うかなぁ~』
「え?」
『え?』

 本体であるセツがグッタリしたことで、分体である他の子達はどうなっているのか心配になりセツに確認してみたが、分体の子達は特に変わったことはないとセツから教えて貰い安堵していたが、セツから「ちょっと違う」と言われ不安になる。

 それと同時に部屋の扉が激しく叩かれ、何事かと慌てて扉を開けると子供達が手の平にセツの分体を乗せて泣いていた。

「お兄ちゃん、グスッ……あのね……」
「動かなくなったの!」
「なんとかじでぇ~! うわぁぁぁ~ん」
「ちょ、ちょっと落ち着こうか。ね、泣かなくてもいいから。ほら、ね?」
「だって……だって……グスッ」
「「……」」

 子供達の後ろで付き添っているメイドさん達も俺の顔を見て、どうにかして欲しいと両手で拝んでくるが、俺は子供達をソファに座らせ落ち着かせる。

 そして対面に座りセツに挨拶をしてもらうと「「「え?」」」と驚きから泣き止み不思議そうにセツをジッと見ている。

「セツ、お願いね」
『うん、任せて主ぃ~』
「「「???」」」

 セツにお願いするとセツは分体に向かって『そろそろ起きなよぉ~』と声を掛ければ子供達の手の平でグッタリとしていた分体達もモゾモゾと動き出す。

『もう、きもちよくねてたのに……』
『なんだかすごくすっきりしてます』
『ごはん?』
「「「へ?」」」

 子供達は自分の手の平の上で動き出した分体に喜んだが、その後から頭に直接響いた声に驚いたのか貴族の子息が出してはいけない間抜けな声が漏れ出る。

「ふふふ、驚いた? セツが進化した為に分体の子達も巻き添えくったみたいだね。でも、もう大丈夫だよ。ほら、話し掛けてみて」
「「「うん!」」」

 それから三人の子供達は自分達の手の平の上で飛び跳ねたりうねうねとしたり三者三様に動いているスライムを愛でている。

 俺は後ろに控えていたメイドさん達に目で合図すれば、それぞれに担当している子供達を促すと「「「お兄ちゃん、ありがとう!」」」と俺に礼を述べてから部屋を出る。

 子供達を送り出してから、何か忘れている様な気がしないでもないが、思い出せないのならムリして思い出す必要もないかなとセツとお喋りを楽しんでいると先輩がバンと大きな音を立てて扉を開けると「出来たわよ!」と言うので「へぇ」と生返事を返せば「それだけ?」とこめかみのあたりをひくつかせながら眉尻を上げ睨み付けてくる。

「よかったじゃないですか」
「……ええ、そうね。よかったわよ。で?」
「で?」
「だから、頑張った私に何か言うことはないの?」
「あ~ご苦労様でした」
「は?」
「ん? お疲れ様でした」
「……違うでしょ!」
「えぇ~」

 先輩は俺の対応に不満があるのか、俺の横に座ると頭をズイッと差し出す。

「こういう時は撫でるの!」
「あ~はいはい」
「ハイは一回!」
「はいはい」
「もう……でも、今は気分がいいから許すわ!」
「それはどうも」

「ヨシ!」と言われるまで俺は先輩の頭を撫で続けるマシンと化した。

 途中からセツに代わってもらったのは秘密だけどね。

 そして、その頃のオジーは動かなくなったぷぅを抱きしめ泣き崩れていた。
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