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第2章 新天地を求めて

第16話 もう、お腹いっぱいですから

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 ケリーさんがなかなか帰って来ないなぁとぼんやり考えていたら、ギルドの奧の方から『バタン!』と大きな音がすると同時に「ヒロォ!」と名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだろうと思い込みまだかなぁ~と再びケリーさんを待っていると「無視シカトはよくないぞ!」とギルマスから声を掛けられる。

「どうしたんですか?」
「どうした……だと、婚姻届コレはどういうことだ?」
「ん?」
「あ……」

 ギルマスはケリーさんが記入済みの婚姻届を俺の目の前でヒラヒラさせながら「私という者がありながら」とか妙なことを口走っている。

「それはケリーさんの暴走です。お願いですから、破棄して下さい」
「そうか、そういうことなら「あ!」……どうしたケリー、何か問題でも? ん?」
「……いえ」
「じゃあ、代わりにヒロにはこれを書いてもらおうか」
「……なんですか、コレ」
「何って見ての通り婚姻届だが? 私はもう記入済みで不備がないのは確認済みだ。さ、遠慮無く書くがいい。さあ!」
「……」

 ギルマスは俺の目の前にバシッと婚姻届ソレを広げると「さあ、思いっ切り書くがいい」とペンを握らせるが、俺はそれをソッと横に置き広げられた婚姻届ソレをビリリと縦に裂けば「あぁ~」「ヨシッ!」と声が聞こえる。

「まったく、どういうつもりですか! いつからここは斡旋所になったんですか!」
「すまん!」
「ごめんなさい!」
「……で、覚え書きは?」
「それが……」

 さっきの条件を覚え書きにしてギルマスの署名捺印を貰うだけだと言うのにケリーさんは押し黙りギルマスをチラリと見れば、「それはムリな話だ」とギルマスが言う。

「分かりました。では、依頼はナシと言うことで」
「それは困る!」
「そうです! 困ります!」
「え?」

 交渉は決裂したと席を立とうとしたら二人から困ると言われ困ってしまう。

「困ると言われても俺も困ります」
「分かっている。分かっているが、そこをなんとか頼めないだろうか」
「イヤです」
「ヒロ様、しょうがないですね。では、やはりここは私を「いりません!」……ぐすっ」
「ふふふ、小娘が出しゃばるからだ。ここは私の「それもいりません!」……ぐはっ!」
「他に用がないなら「待ってくれ! くっ……」……ホントに帰りますよ?」

 ギルマスもケリーさんも俺に依頼を受けてもらいたいが、出せる物がないと自分達を差し出してこようとするのを「いらないから!」と撥ね除けたまではいいが、本当に依頼を受ける人がいないのなら困る人もいるよなと考えてしまい逡巡してしまう。

 そんな俺の様子を見て好機と受け取ったのか、ギルマスが「籍を入れるのがイヤなら一夜限りワンナイト・ラヴァーでも構わないのだぞ」と言ってくるが答は変わらずノーサンキューだ。

「お金も出さない。代わりの条件も出さない。なのに単体ソロの俺にそこまで執着するのでしょうか?」
「ダメなのか?」
「ダメでしょ」
「そこをなんとかお願い出来ないか。頼む。なんなら私の身体を「絶対にいりませんから!」……そこまで強く言われると悲しくなるぞ……泣くぞ」
「なら、言わないで下さい」
「だが、依頼料を上げるのは正直難しくてな……なあ、どうすれば受けてもらえるのだろうか」
「いいですよ」
「「え?」」
「だから、依頼料の割増しはムリそうなので、もうそれでいいです」
「「じゃ……」」
「だから、他の特典も絶対にいりませんから!」
「「あ……」」

 少し無下に断れば二人が悲しそうに沈み込んだ表情になるので少し言い過ぎたかなと反省してみるが、ここで下手に謝れば追い込まれるだけだと思い「じゃ、それで」と依頼書の束を手に取り席を立つ俺に二人が「「頑張って、貴方あなた!」」と声を掛けて来るので周囲の暇人が「おい、どういうことだ?」「ギルマスはいいとして」「ああ、ケリーさんが?」と騒めく。

「やってくれたな……」と嘆息しつつ、これ以上はいくら弁解しても蜘蛛の巣に引っ掛かり藻掻くだけだと大人しく冒険者ギルドを後にする。

「なんだか凄く疲れたよ、セツ」
『ピィ!』
「ああ、セツだけだよ。俺の癒やしは……」
『ピピピィ!』
「そうだな。じゃ、頑張って依頼を済ませますか」
『ピ!』

 領都の門を出て、依頼書に示されたゴブリンの巣を討伐すべく足を進める。

「場所的にはこの辺りのハズだけど……『空間把握』! あ、いた!」

 蜘蛛の巣状に魔力を展開し、周辺の状況を確認するとチョロチョロと動く赤いマーカーが多く点在している箇所が少なくとも分かる範囲で七,八箇所あった。

「結構、近くにあるのに……もしかして共存出来ているのか? いや、まさかね……でも、もしそうなら……」

 脳内地図で確認出来るゴブリンのコロニーは一キロと離れていない。

 それなのに争うこともなく互いの勢力圏で過ごしているらしい。

 そんな様子にイヤな予感を覚える。

 もしかしたら、バラバラの魔物達の意思を統一する何者かがいるのではないかと。

 そして、それはその次に起こるであろう魔物の集団暴走スタンピードを予想させる。

「コレって結構、マズいんじゃないかな……」
『ピ?』
「うん、そうだね。俺に出来ることは少しでも被害を少なくすることだ。と、いうことでお仕事しますか!」
『ピィ!』

 袖捲りをしてから、セツと一緒に近くのコロニーへと飛び込んで行く。
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