彼女はだれ?

ももがぶ

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第一章 再会?

解れつつある関係

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SIDE A.まー君はこいつか?
パトカーに乗せられ警察署まで連れてこられた。ひょっとして、これから取調べが始まるのか?
顔に卓上ライトを当てられて『さあ、言うんだ!』とかされるのかな?
カツ丼は自腹だった様な……

「おい君。お~い、そこの少年!」
「え? あ、俺ですか?」
「そうだよ、まだ名前も聞いてないしね。いいから、こっちの部屋に入ってくれるかな?」
「はい。今から取調べですか?」
「取調べって……ドラマの見過ぎだよ。あのね、君には事情を聞くだけだからね。取調べ室は使わないよ。期待に応えられなくてごめんね」
「いえ、それはいいんですが。なにを聞かれるんでしょう?」
「まあ、いいから。まずは入ってくれるかな」
刑事さんらしき中年の男性に近くの部屋に入るように言われる。

部屋に入ると簡単なソファとテーブルと言う簡単な応接セットがそこにあった。
「なにか飲むかい?」
「あ、じゃあコーヒーで」
刑事さんが応接室の電話を手に取り、どこかに掛ける。
「分かった。あ、私だ。応接室にお茶とコーヒーを頼む。ああ、そんなに急がなくていいから。後、調書を取るから誰か寄越してくれ。ああ、頼む」

電話を切った刑事さんがソファに座るように勧めてくれたので、近くのソファに座り刑事さんと対面する。
「他のが来る前にお礼だけ言わせてくれ。ありがとう、君のおかげで娘が傷つけられることもなく無事でいられる。本当にありがとう」
「へ? な、なんのことですか?」
「ああ、そうか。まだ名前を言ってなかったね。私の名前は『土田 善夫つちだ よしお』だ。つまり土田 亜美は私の娘だ」
「え? あの子のお父さん?」
「そうだ。本来なら、私が守ってやりたかったんだがね。さっきの子に注意したから、もう大丈夫だと思っていたんだが……まさか、君が娘に注意してくれたお陰で娘が無事でいられるとはね。本当に感謝しているんだ」
「ああ、そのことですか。まあ土田亜美さんは俺の幼馴染の同級生なので、なんとかしたいと思ったんです。それにストーカーがしつこいってのもニュースとかで、なんとなく思っていたので」
「そこなんだよ。普通なら警察が少し強く言えばさ、少しはビビって躊躇するもんだろ? なのにあの子は止まらなかった。なんでだと思う?」
「なんでと俺に聞かれても困るんですけど?」
「ああ、そうだよな。スマンな」
「それだけ、彼女のことが好きだったんでしょうか」
「やっぱり、そこに落ち着くのか。だが、息子が……ああ、亜美の兄の一夫がな。亜美が絡まれているところを注意して追い返したそうなんだがな」
「それでも諦めきれなかったんですね」
「まあ、そんなことだろうな。しかし、俺にはよく分からん。一歩間違えば、短いとはいえ今までの生活を捨てることになるかもしれないんだぞ。それを亜美の為に……」
「それは本人にしか分からないでしょうね。俺もまだ、そこまで一人の人にのめり込んだことがないですし」
「ほう、それはまた珍しいな。高一と言えば、青春真っ盛りだろ? 同級生なんかと色恋で盛り上がったりとか一番楽しい時期だろ?」
「まあ、そうですね。親にも言われるくらいにヘタレだそうです」
「ヘタレか。ウチの一夫といい勝負かもな」
「一夫って言うんですか?」
「ああ、大学に通っている息子なんだが、こいつも奥手なのかなんなのか、未だに浮いた話を聞いたことがない。まあ、妹の方も昔の婚約者のことを言い出したりする始末だしな」
「へ~奇遇ですね。実は俺も昔小さい頃に遊んだことがある『カズオ』って友達に会えたらなって思っているんですよ。まあ、探し出そうとかまでは思っていないんですけどね。なんとなく会えたらいいな~って感じで」
「ほう、それも面白いな。なにか手掛かりはあるのかい? こう見えても人探しはプロだからね」
刑事さんがニヤリと笑う。そりゃ国家権力を使えばすぐに見つかるかもしれないけどね。
「今、手掛かりと言えるのはこの写真くらいですね。ほら、ここに『カズオ』って書いてあるんですよ。分かります?」
婆ちゃんから送られて来た写真を刑事さんに拡大して見せる。
「ん? おお、確かに『カズオ』って書いてあるな。ちなみにだが、これはどこで撮られた写真か分かるのかい?」
「父の実家の近くの川なので、ここから電車で二時間も掛からないぐらいのところでしょうか」
「おや、奇遇だね。私の実家も大体そんなもんだよ。近くに川も流れていてね。小さい娘を連れて……ん?」
「どうかしました?」
「いや、スマンが私も人に聞いてみるので、よければこの写真を私のスマホに転送してもらえないだろうか?」
「いいですよ。でも……」
刑事さんとメッセージを交換するのもなと思い、刑事さんのスマホを見ると同機種だったのでラッキーと思い刑事さんにスマホを少しだけ操作してもらう。
「これでいいのか?」
「はい、じゃ送りますね。はい、送りました。どうです?」
「ん? 来た……のかな?」
「はい、それでいいです。これでアルバムを起動したら、送った写真が見られるはずですから」
「どれ? お! 本当だ。さっきの写真だな。ありがとう」
「いえ、俺もカズオ君のことを出来れば知りたいですし、応援してくれるのならありがたいです」
「あ、ああ。まあ、任せときなさい」
「はい!」

部屋の扉がノックされ、若い刑事さんが入ってくる。
「土田さん。調書を取りにきました」
「おお、頼むな。じゃ、始めようか。まずは名前を聞かせてくれ」
「はい。名前は『田中 昌一』です。歳は十六歳……」
刑事さんに自分のことを話した後に吉田との関係とかを一通り話した後にやっと解放される。
「長くなってすまなかったな。送ってやることは出来ないんだ。悪いな。ここまで来てもらったのに」
「あ、いいですよ。元々ランニングでもしようかと、家を出てきたところだったので、このまま走って帰りますから」
「そうか、悪いな」
「いえ、こちらこそなにか分かったらお願いしますね」
「ああ、任せとけ」
「じゃ、失礼します」

応接室を出ていく少年を見送ると、そのままソファに座る。
「あの子、今どき珍しいくらいに朴訥な感じの子ですね」
「まあな、色恋は未経験らしいぞ」
「だからですかね、妙に擦れた感じがしないのは。で、さっきのお願いってなんなんですか?」
「ああ、まあ簡単な人探しだ」
「へ~土田さんが引き受けるなんて珍しいですね。宿直以外の残業や飲み会も断るくせに」
「なんだよ。俺だってたまには、人助けくらいするし」
「まあ、いいですけどね」


SIDE B.運命なのかな?
奈美の家でゆっくりしていると、お父さんからの電話が鳴る。
「もしもし、お父さん?」
『亜美か。あの子はさっき家に帰したぞ』
「本当! で、ちゃんと送ってくれたの?」
『……』
「なに? 送ってないの?」
『スマン。勝手に呼んどいてなんだがパトカーを使うことは出来ないんだ』
「え~なにそれ! ひどくない!」
『それについては謝るしかないが。あの子も文句も言わずに走って帰ったぞ』
「なにそれ! 文句の一つくらい言えばいいのに!」
『まあ、こっちは国家権力だからな。言いたくても言えないだろうな』
「もう、後で私から謝っとくから!」
『スマンな。じゃあ、切るな「ちょっと、待って!」……なんだ?』
「あいつは? 吉田はどうなったの?」
『ああ、それはまだ言えないんだ。悪いな』
「なら、私はまだ家には帰れないの?」
『ああ、それは大丈夫だ。後で山田さんには俺からもお礼に伺うと言っといてくれ』
「分かった。ありがとうね、お父さん」
『ああ、じゃ気を付けて帰るんだぞ』
「うん。じゃ切るね」
電話を切ると山田姉妹が『どうなの?』とお父さんとの通話内容の結果を聞きたくてしょうがないって感じだ。

「「で、どうなったの?」」
「ちょっと、待って!」
「「いいから、まー君はどうなったのよ!」」
「もう、ちゃんと話すから落ち着いて」
山田姉妹を落ち着かせてから、二人と向き合い話す。
「ええと、まずはまー君なんだけど」
「あ~! まー君って言った!」
「由美、よしなさい」
「でも……」
「あ~ごめんね。二人に話すにはまー君の方が田中君って言うよりも分かりやすいかなと思ってさ」
「まあ、そうよね」
「そうだけどさ~なんか一人増えた気がして嫌だ」
「由美? なに、その増えたってのは?」
「別に。なんとなく、そう思っただけだから」
「ねえ、話を続けてもいいのかな?」
「「ごめんね。続けて」」
まー君呼びがダメだったのか、由美が納得してないようだけど、話を続けさせてもらう。

「え~と、まー君はお話を聞かせてもらった後に解放され、家に走って帰りましたとさ」
「「え~! なにそれ!」」
「私に言われても困るんだけどね」
「そうだよね、でもなんか横暴だよね」
「なんか、ごめんね」
「じゃあ、今はまー君は家に帰ってるんだよね?」
「うん、そのはず」
「じゃあ、電話掛けてみようかな」
「由美、なんで?」
「なんでって、いつも奈美が掛けているんだから、たまには私が掛けてもいいじゃないの!」
「え~」
「え~じゃない! ほら、私が掛けるんだから静かにしててよね」
『プルル……プルル……なんだ、今度は由美か? どうした?』
「どうしたじゃないよ! まー君。心配したんだからね」
『だから、心配することじゃないって奈美にも言っただろ? 現にこうやって、解放されて走っているところなんだし。あ、そうだ。土田さんは? 特に怖がってたりとかしてないか?』
「なに? まー君は私と電話で話しているのに他の子を心配するの!」
『由美? お前、なにを言ってるんだ? 土田さんはお前の友達だろ?』
「そうだけどさ~なんでまー君が心配するの?」
『なんでって、成り行きとはいえ、俺のクラスメイトが迷惑掛けたみたいだし、それにお前達の友達でもあるからな』
「へ~じゃあ、私達の友達じゃなかったら、心配はしないってことなの?」
『なんで、そういう捉え方をするかな~まあ、知り合いでもなければ、知らないところで起きていることだと思うだろうな』
「ふ~ん、そっか。私達の友達だからなんだね」
『ああ。もういいか。じゃあ切るぞ』
「あっ! まー君……切られちゃった」
由美がまー君と電話で話すのを見ていると、これがゲームなら『テレッテレ~ ユミハヤキモチヲオボエタ』とかメッセージが流れているんだろうなとか思っていると、奈美が聞いてくる。
「それで、ストーカーはどうなったの?」
「それはね、規定で話せないそうなんだけど、家には帰っても大丈夫だってさ」
「じゃあ、もう安心ってことなの?」
「うん、多分ね」
「え~もうちょっと、いいじゃない。ねえ?」
「由美。あまり引き止めるのもよくないよ」
「そうだけどさ~」
「ふふふ、ごめんね。じゃあ、もう帰るね」
「え~もう?」
「うん、今お母さんがいないからさ、家の中がどうなっているか心配だし」
「そっか、お母さんは入院中だったもんね」
「そうなんだ。退院はもうすぐなんだけどね」
「じゃあ、駅まで送るよ」
「それいいね。朝の続きみたいにまー君がいたりしてね」
「まさか?」
「まあ、そんなことがあれば、運命だよね~」

一階に下りて奈美のお母さんたちにお礼を言い、家に帰れるようになったことを話す。
「大丈夫なの?」
「ええ、相手はまだ警察にいるみたいなので」
「そう、怖かったわね。また、なにかあったらいつでもいらっしゃい。ね?」
「はい、ありがとうございます。あ、後で父からもお礼に伺いたいと言っているのですが、いいですか?」
「あら、そんなこと。別にいいのに」
「母さん、相手も親だから立場とかあるんだよ。いいじゃないか。お父さんにも、あまり気を使わないで下さいって言っといてもらえればいいからさ」
「ありがとうございます。では、本当にお世話になりました」
「いつでも来てね」
「ああ、待っているよ」
「はい!」
「じゃあ、駅まで行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい」

奈美のご両親にお礼を言って、家を出てしばらくは三人でお喋りしながら歩いていると、あの曲がり角が近付いてくる。
確かにまた、ここで会ったら運命なのかもしれないね。まあ、今はパンを口に咥えて走ったりとかしてないけどね。
「あ! まー君だ!」
「へ?」

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