彼女はだれ?

ももがぶ

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第一章 再会?

やっと聞けた

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SIDE A.あれ?
真美との話を強制的に終わらせ、自分の部屋へと入り制服を脱ぎ部屋着に着替える。
「なんだか、今日一日いろんなことがありすぎだ。いったいどういうことなんだろうな」
机の前に立ち、色々考えてみるが、考えがまとまらない。椅子に座り、今日の課題と復習を済ませるべく鞄から筆記具と教科書、ノートを取り出す。

不意に部屋のドアがノックされると、同時に乱暴に開かれる。
「お兄ちゃん、ご飯出来たってば! もう、何度も呼んでいるのに!」
「おっ! もう、そんな時間か、父さんたちも帰って来たのか?」
「なに? 時計も見てないの? もう八時回ってるよ」
「あ、ホントだ。悪いな、すぐにいくから」
「早くしてよね」
真美が乱暴に『バタン!』と部屋のドアを閉めると、階段を下りていく足音が聞こえる。
俺は机の上を一旦片付けると、部屋を出て階段を下り、台所へと向かう。

父さんはすでに風呂上がりらしく晩酌をしながら、ご機嫌だ。
母さんは、そんな父さんの相手をしながら、食べている。
大は、まだ泣き腫らした目が赤いままだが、両親はいつものことと、気にしている素振りも見せない。
真美は俺の分のご飯を茶碗によそっていた。

「あ、やっと来た。ほら、お兄ちゃん!」
真美が俺にご飯をよそった茶碗を渡す。
「ありがとう。お、今日も美味そうだな」
「でしょ? 今度はちゃんと食べてよ。お昼に食べ損なった唐揚げにしたんだからね」
「あら? まー君は真美の作ったおかずが気に入らなかったの?」
俺の母さん『田中 晶たなか あきら』が、聞いてくる。
「そんなことないよ。真美にはいつも感謝してるし」
「じゃあ、なんで食べなかったんだ?」
母さんの質問を交わすと、今度は父さん『田中 一たなか はじめ』が聞いてくる。
「ほら! お兄ちゃん。お母さん達も聞きたいって! 話してあげなよ! アイツのしたことをさ」
「また、お前は……はぁ、母さん、父さん、俺が唐揚げを食べ損なったのはさ……」
お昼の出来事を真美に話したように掻い摘んで、父さん達に話す。

「なるほどね。で、真美ちゃんは、違った方向の『食べ物の恨み』で、唐揚げにしたわけね」
「で、昌一は由美ちゃんと付き合っているのか?」
「「なんで?」」
おや? 俺が言うのは分かるが、なんで真美まで?

「そんなこと、お兄ちゃんがするわけないじゃない! お父さん、頭大丈夫?」
「なあ、昌一。真美はこう言っているが、高校生男子としては、どうなんだ? 正直に言いなさい!」
だから、なんで真美が答えるんだ。それに父さんの言う『高校生男子として』はどういう意味なんだろう?

「なんで、命令なんだよ! まあ、どうでもいいけどさ。由美と俺は付き合っている訳じゃない。太なんかと数人で一緒に昼飯を食うくらいの仲だ。あと、俺は、お付き合いしている人もいなけりゃ、興味を持つ人もいないから」
「あら? まー君はそっちの人なの? 太君となの?」
「「はぁ?」」
また、真美が……

母さんが、また突飛なことを言い出した。俺はノーマルな筈なんだ。
「母さん、『そっち』って言うのが、どの方向なのかは分からないけど、俺はいたってノーマルだから」
「そうよ! お兄ちゃんは私のものなんだから!」

「あら? まー君。その方向には行っちゃダメよ!」
「だから、俺はノーマルだから! 普通に家族以外の女性にしか興味は向かないからね」
「なんで?」
「あら? 真美はこう言っているけど?」
「母親なら、止めろよ!」
「あら? これくらいの子は『お兄ちゃんと結婚する』って言うもんじゃないの?」
「もう、一般的にはその年齢は通り過ぎているからね」
いつも真美の発言に対し母さん達には何度も相談している訳だが、真美に対しハッキリとダメとは言ってない。
だから、こんがらがっている訳だが。

「あら? そうなの。なら、真美ちゃん諦めなさい。ね?」
「なんで!」
「だって、兄弟姉妹は結婚出来ないのよ。覚えてなさいね」
「頑張れば、ワンチャンあるんじゃないの?」
「あら? どこでそんな言葉を覚えたのかしら? そうね、母親としては娘の恋愛は応援したあげたいけどね」
「なら、いいじゃない!」
「でも、報われない恋愛に進むのなら、止めるわよ?」
「え~」

真美は急には変わらないだろうが、母さんから一応、止めるように言ってくれたので、これでよしとしよう。
「はい、この話は終わり。それよりさ、父さんに聞きたいんだけど」
「俺にか? なんだ、言ってみろ! 彼女の気の引き方なら、多少はレクチャー出来るぞ!」
「ホント! まあ、それは後で聞くとして。俺が聞きたいのはさ」
「おう、なんだ?」
「多分、俺が二、三歳の頃だと思うんだけどさ。どこの山かは分からないけど、そこの小川で同じくらいの歳の子と遊んでいたと思うんだ。なにか覚えてない?」
「お前が、二、三歳か。ってことは十二、三年前か。なら、真美が生まれる前後だな」
「あら、お父さん。その頃なら確か、お父さんの実家でまー君を数ヶ月預かってもらっていた時期じゃないの?」
「あ! そうか、言われてみればその頃だな」
「思い出した? それで、相手の子は分かる?」
「ちょっと待て! 今、思い出すから。それにしてもなんで今頃、そんなことを言いだすんだ?」
「いや、ちょっと不意に思い出してね。俺と同じ歳なら、『あーちゃん』いや今なら『あー君』かな。どんな男になっているのかなって思ってさ。それに、もし近くにいるのなら友達になれるかもしれないしさ」
「まー君、やっぱりそっちに行くの?」

母さんは、どうしても真っ当な道を歩ませたくないのかな。
「俺はどの方向にも行かないから、母さんはややこしくなるから、しばらく黙っといて」
「父さん、まー君がいじめるぅ……」
「お前、俺の女を泣かすのか?」
「父さん、酔うのが早いよ。さっきの会話のどこに俺の落ち度があるのさ。それより、相手のことを思い出してよ」
「ノリが悪いな~まあ、いい。で、名前が『あー君』なんだな」
「そう、記憶の中ではあーちゃんなんだけど、多分男だから、あー君だね」
「なんで、男って分かるんだ?」
「だって、裸でパンツ一枚で遊んでいたけど、あー君もブリーフ履いてたのは覚えているから?」
「そうか。ん? 待てよ、確か写真が残っていたと思うんだが。なあ、母さん。その頃の写真って、残っているか?」
「真美が生まれた頃でしょ? もしかしたら、真美以外のは捨てたかもね」
「だとよ。残念だったな」
「え? それだけ? 実家に残ってないの?」
「そんな急に言われても分からんよ。なにか思い出したら教えるから、今はここまでだな」
「そんな~」
「悪いな(しかし、相手の子は女の子と聞いていたハズだが、そんなこと真美の前で話せる訳がないだろ。許せよ)」
父さんがなにかを思い出したのか、少し思案顔で黙り込む。そんな父さんに不信感を抱いた真美が話しかける。

「お父さん、なにか隠してる?」
「な、なんだよ。真美。人聞き悪いこと言うなよ」
「ふ~ん、まあ、いいけどね。明日のお弁当が楽しみだね」
「はぁ? なんで、俺の弁当が人質になるんだよ!」
「さあ? イヤなら自分で作ればいいじゃない!」
「母さん、真美が反抗期だ! どうしよう?」
「なに言ってんの。この子にはまー君以外はどうでもいい存在になっているんだから。今は、その熱が冷めるまで待つしかないのよ。だから、明日は自分で用意しなさい」
「それって、俺の小遣いからってことか?」
「そりゃそうでしょ」
「くっ、小遣いをとるか、得体の知れないお弁当を取るか……」
「さ、父さんは放っといて。大のコレはどう言うことか、大は話してくれないんだけど。まー君か真美は話してくれるの?」
母さんが大の顔を指して、俺達に説明を求めてくる。が、いくら弟でも俺から話していいのだろうか? それは真美も同じ気持ちだったらしく母さんからの質問に答えられずにいる。
「「……」」
「あら、誰も話してくれないのかしら? 困ったわね。学校に電話して、先生に確認しないとだめかしら?」
「母さん、待ってよ! 分かったから。大、話すがいいな? 学校に連絡入れられるよりもマシだろ?」
「……」
「なにも言わないか。なら、話すぞ。母さん、実は……」
昼間、真美に話した内容をそのまま母さんに伝える。
「あら、まー君と違って、積極的に行き過ぎて失敗したのね。う~ん大が悪いわね」
「どうして!」
母さんの言葉に大がやっと口を開くが、それは大自信が悪いと言われたことへの反論だった。

「あのね、好きな子にはなにしてもいいって訳じゃないのよ。この場合には奈美ちゃんが言っていることが正しいわ。大は呼び捨てを直さない限り、奈美ちゃんは相手にしないわよ?」
「なんでだよ!」
「お話ちゃんと聞いてるのかしら。困ったわね。まー君はこんな話は分からないだろうし。真美は間違った方向に突き進んでいるし。もう一人は酔ってて、明日のお弁当が心配なだけだし。ふぅどうしましょ? よし、まー君。一度、奈美ちゃんを家に呼んで」
「「「はぁ? なんで?」」」
「一度、三人で。いや四人ねまー君も入れて。ちょっと話しましょ」
「呼ぶのはいいけど、なんで俺まで」
「だって、当事者じゃない」
「いや、当事者っていうか、目撃者だし」
「それでもいいから、一緒にいなさい」
「お母さん、ダメ! お兄ちゃんが意識しちゃったら……」
「ふふふ、それは大丈夫よ。ここまで言っても分からないニブチンだし」


SIDE B.期待してたのに
夕食の準備を済ませ、お父さんの帰宅を待つ。
するとタイミングよく玄関が開く音がして「ただいま~」とお父さんの声がする。
「おかえりなさ~い!」
「お! 珍しいな。亜美が出迎えてくれるなんてな。なにかおねだりか?」
「へへ、ちょっとね」
「お前、俺のお小遣いは少ないんだぞ。それを分かってくれよな……」
「大丈夫! 私のおねだりは、お父さんにちょっと聞きたいことがあるだけだから」
「そうか。じゃ、先に風呂に入ってからでいいか?」
「うん。分かった」
お父さんが靴を脱いで、玄関を上がる。
「もう、靴くらい揃えればいいのに。ウッダメ!」
鼻を摘んだままで、お父さんの靴を並べる。
「まあ、職業病だから言いたくはないけど、臭い!」

台所へと戻り、テーブルに座るとお父さんに聞きたいことをもう一度、考えてみる。
「まずは、どこかだよね。後はマー君の歳と居場所、それと連絡先。もし、『付き合って下さい』って言われたら、どうしよう! きゃっ……やっぱり、一度はお断りして『私はそんなに軽い女じゃないの』とか言うでしょ。すると相手は『昔、結婚の約束をしたじゃないか!』って、迫ってきたり……きゃ」
「お~い! 亜美、どうした?」
そんな妄想に耽っているとお兄ちゃんの声で現実に戻される。いいところだったのにさ。

「もう、お兄ちゃん、なに? 今いいところだったのに!」
「はあ? お前が宙を見ながら、なにかぶつくさ言っていると思ったら、急に身悶えして自分の腕を掴んで抱き締めるようにしていたからな。妹のそんなへきを見せられたら、心配にもなるだろう」
へきってなによ! ちょっと、マー君のことを考えていただけじゃない! ほっといてよ!」
「マー君て?」
「もう、昼間話したでしょ! この鶏頭! 一日も持たないじゃない!」
「そうか、お前の婚約者のマー君か」
「あら、覚えているの?」
「ああ、切っ掛けがあれば思い出すんだ」
「不便な頭ね」
「それこそ、放っとけ! それより飯はまだか?」
「もう、お父さんがお風呂に入っているでしょ。出るまで待ちなさいよ」
「父さん、帰ってきたんだ」
「分かったなら、戻る。大人しくテレビでも見てなさい!」
「はいはい」
お兄ちゃんを視界から追い出すと妄想の続きへと入り込む。

「おい、亜美。亜美? 亜美!」
「うわぁ、なにお父さん。大きな声で?」
「お前が呼んでも返事しないからだろう」
「え? 呼んでた?」
「呼んでたよ。父さんが何度もな」
「お兄ちゃん……」
「正気に戻ったのなら、飯にしてくれ。今日は動き回ったから腹が減ってな」
「亜美! 俺は特盛でな!」
「はいはい、ちょっと待ってて」
妄想に入り込み過ぎていたのかな。自分ながら『マー君』っていう名前だけでよくあれだけの妄想が出来るもんだよね。これも才能かな。とりあえず今は腹を減らした現実の男達のご飯を用意しますか。

仕込んでいたトンカツを揚げ、玉ねぎをだし汁で煮込んで火が通ったところで刻んだトンカツを投入し溶き卵でとじる。溶き卵が半熟になったところで、丼によそったご飯の上にかける。
「はい、どうぞ」
「お、美味そうだな。なんで、今日はカツ丼なんだ?」
「お兄ちゃんからのリクエストでね」
「そうか。で、亜美の聞きたいことってのはなんだ?」
「あのね、私が小さい頃にどこかの山の小川で同じ歳くらいの男の子と遊んだ記憶があるの。でも、名前がマー君ってことしか覚えてなくてね。連れていってくれたのが、お父さんなら、なにか覚えているかなと思ってさ」
「小さい頃ね~それはいつ頃だ?」
「多分、二、三歳かな」
「父さん、俺が空手の大会でさ、こっちに母さんと残って、父さんと亜美と二人で帰省かなにかしたんじゃなかったっけ?」
「亜美が二、三歳で、一夫が空手の大会があった頃ね~う~ん……」
「どう、お父さん。ちゃんと思い出して!」
私とお兄ちゃんからの話を聞いた、お父さんがなにかを思い出そうと考え込んでいるようだ。

「う~ん、分からん。亜美と一緒に実家に帰ったのは、確かに覚えているんだが、その男の子のことは覚えていない」
「え~なんで? お父さんが川に連れて行ったんじゃないの?」
「いやぁ俺もな実家だから、気が緩んでな。地元の同級生やなんかと飲み歩いていたりしてな、お前の世話はお袋に任せっきりだったんだ。すまん!」
「もう! 期待してたのに!」
お父さんが知っているとばかり思っていたのに、まさかの育児放棄だったとは。もう、どうしよう。

「亜美、なら婆ちゃんに聞けば分かるんじゃないのか?」
「お兄ちゃん、ナイス! じゃ、早速「待て!」……お父さん、なんで止めるの?」
「もうお袋は寝ている時間だ。止めとけ」
「え? もう? 八時回った頃だよ?」
「それがお年寄りだ。聞くなら、昼前にしとけ」
「それはいいけど、なんで昼前なの?」
「昼からはサスペンスの再放送があるからだ」
「再放送? そんなの見てるの?」
「まあ、田舎だし。放送局も少ないしな。再放送枠で普段は見られない局のが流れるんだよ」
「ああ、そういうこと。確かにお婆ちゃんなら、夢中で電話に気付かないだろうし、話もまともに聞いてくれそうにないかもね」
「そういうことだ」
「父さんは写真かなにかは持ってないの?」
「俺か? う~ん、もらったような、もらってないような……」
「なんだ? 父さんにしてはハッキリしないな」
「まあ、そういうこともあるさ。それで話は終わりか?」
「うん。お父さんの記憶だけが頼りだったのにな~むぅ~」
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