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第16話 この子は誰の子?

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 ドリーが女将にだけ聞こえるように耳打ちして告白した内容に女将はさっきからニヤニヤが止まらない。
「それにしてもドリーがね~」
「女将だけに言ったんだからな! 絶対に言うなよ!」
「あら? それはフリなの?」
「んなワケないだろ! いいから、忘れてくれ!」
「もう、冗談よ。でも、困ったわね」
「何がだ?」
 女将はそう言って、さっきまでニヤけた顔がいつの間にか真面目な顔になり、ドリーに向かって、困ったことを話す。
「だって、今までドリーの子だと思っていたから育ててきたんだけど……」
「けど?」
「ドリーがあの子の父親じゃないのは分かったけど。それなら、あの子の本当の親は誰なの?」
「そうか。そういう問題が残るか……」
「それなら、心配ご無用!」
 女将はミリーを今までドリーの子だと思って大事に育ててきたが、ここに来て実はドリーの子じゃないということが発覚した。そして、ドリーが本当の父親じゃないとしたら、誰が本当の父親なのかという疑問に対し、恒はドリー達に心配するなと話す。
「ワタル?」
「ちょっとね、ミリーを鑑定みたんだ。そしたらさ、父親はドリーじゃなくてモリー。母親はサリーだってさ。知ってる?」
「知らないな」
「私も聞いたことはないね。本当なら実の両親に返すのが一番なんだけど、あの子はもう私の娘も同然だしね。どうしたらいいの……」
「じゃあ、このまんまドリーと女将さんの子供ってことでいいんじゃない?」
「おい、由香。いくらなんでもそれはどうかと思うぞ」
「でもさ恒、よく考えてよ。ミリーちゃんは女将さんのことを『お母さん』って呼んでいるでしょ。それにドリーのことも、もう『お父さん』として認識しているみたいだし」
「そうは言ってもさ、二人の気持ちってもんがあるだろ?」
「あら? 恒がそんなことを気にするなんてね。でも、それなら心配はいらないみたいよ。ほら!」
 由香がそう言って指差す方向を見ると、そこではいつの間にか戻っていたミリーを挟んで女将は身をくねらせ、ドリーはミリーを優しい目で見ている。
「あ~そういうこと。女将さんの様子がおかしいと思ったら、要はヤキモチだったってことなのね」
「マジかよ!」
 由香の発言に対し、久美は納得という風に頷き、明良は信じられないといったような感じだ。
 そして、恒はと言えば、そんなことはどうでもいいとばかりに女将に対し、問い掛ける。
「それで俺達は泊めてくれるの?」
「え? あ、ああ、そうだったわね。でも、あなた達は冒険者になったばかりでしょ? なら、先立つものがないんじゃないの?」
 女将にそう言われた恒はドリーを軽く小突き、ミリーと遊んでいる場合じゃないでしょと現実に引き戻し、ギルマスから受け取ったハズの紹介状はどうしたのかと聞いてみる。
「あ! 忘れてた。女将、これを見てくれ」
「何? これ?」
 ドリーはギルマスからの紹介状を女将に渡すと、女将は訝しげに渡された紹介状をその場で開き読み出す。
「あ~そういうこと。分かったわ。好きなだけ泊まりなさい。部屋はミリーに案内させるわ。ミリーお願いね」
「はい、お母さん。お姉ちゃん達、こっちだよ」

 ミリーに案内された部屋は三階に恒と明良で一室、ドリーで一室を与えられ、二階に由香と久美で一室を与えられる。

「これでなんとか寝床は確保出来たな」
「そうだね」
 部屋に入った恒と明良はそれぞれのベッドの上で横になり安堵していると、部屋の扉が開かれると、ミリーが入ってくる。
「おにいちゃんたち、ごはんだよ」
「ああ、もうそんな時間なんだ。ありがとう、ミリー。明良、行くよ」
「おう、分かった」

 廊下に出るとそこにはドリーが待っていて、ミリーがトコトコとドリーに近付くと、その手を取る。
 そして、そのままドリーを見上げ話しかける。
「おとうさん、きょうのばんごはんなにかな? たのしみだね!」
「ああ、そうだな」
 二人が手を繋ぎ歩いて行くのを恒と明良は後ろから、黙って見ている。
「こうして見ると本当の親子にしか見えないよな」
「明良もそう思う?」
「思う思う。どう見ても親子以外には見えないでしょ」
『でもさ~そのモリーってのが曲者なんだよね~』
「え? どういうことなの?」
「恒、どうした?」

 突然、ミモネがそんなことを言うから恒も直ぐに反応してしまい、それを明良にどうしたと心配されるが、今は話せないだろうとお茶を濁すとミモネにさっきのはどういうことなのかと確認する。

「いや、なんでもない。後で話すから」
『ミモネ、それってどういうこと?』
『それは後で皆の前で話すからさ』
『分かった。じゃあ、後で』
『うん、後でね』

 食堂に入ると既に由香と久美が席に着いていたので、恒達も同じテーブルに座る。
「ねえ? 恒達の部屋はどうなの?」
「どうなのって、作りは一緒だろ?」
「あ~もう、そうだけど、そうじゃない所があるかも知れないじゃない」
「由香、修学旅行のノリになっているよ。少し、落ち着こうよ。ちょっと目立っているし」
「……なんかごめん」
 久美に言われた由香が回りを見渡すと確かに自分達の動向を注目している視線を感じて、久美に謝る。
「はい、お待たせ! 食事が済んだら、男の子は皿洗い。女の子は配膳を手伝ってね」
「「「「え?」」」」
「何、驚いた顔しているの? もしかして、タダで泊めてもらえると思ったの?」
「いや、でもギルマスが料金は心配するな……って」
「ああ。アイツ……そんなことを言ったのね。でも、私への紹介状には『ちゃんと払えるようになるまでこき使ってくれ』って書いてあったわよ?」
「あぁ~そう言うことね」
「恒! 何を納得しているの! 私達は、あのギルマスに売られたのよ!」
「由香、落ち着いて。ギルマスは確かに『料金は心配するな』って、言ったけどさ。その手順までは教えてくれなかったでしょ。だから、ここでは不足分を労働という対価で返すってことなんでしょ」
「え? でも、ギルマスは冒険者活動するようになってからでもいいって言ってたんじゃ?」
「そうでも言わないと俺達はここに来なかったんじゃない? 『働くなんてごめんだ!』ってね」
「「「うっ……」」」
 恒以外の三人は図星みたいで、何も言えなくなる。
「でも、ドリーはなんで働かないの?」
「ワシか? ワシは明日にでも依頼を受けて獲物を分ける約束したからな」
「なにそれ! ちょっとずるくない?」
「由香、止めるんだ」
「でも、それならドリーが払ってくれてもいいんじゃないの?」
「で、それをずっと続けるの?」
「……いや、それは」
「いいから、今はさっさと食べて食器を下げておくれ。テーブルも早く空けて欲しいしね」
「「「「「「は~い!」」」」」」
「じゃあ、女将さんの言う通りに早く食べてしまおう! いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
「ます?」
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