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第14話 宿は『梟の巣』

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「ほら、ここが俺のお勧めの宿だ。料金も心配することはないよう便宜してくれるはずだ。宿の場所なら、ドリーが知っているだろう。なあ、ドリー。あと、これは宿の女将に渡してくれ」
「どれ。ああ、『ふくろう』か。なら、ワシも知っている宿だ。ありがとうなギルマス」
 ドリーがギルマスから宿の名前と地図が書かれたメモと紹介状を受け取る。
「礼はいい。だが、明日の朝の訓練には遅れるなよ」
「「「「……はい」」」」
 ギルマスの言葉に恒達が返事をするが、その様子はなんとなく重い。そして、その様子を感じ取ったギルマスが気休めとも取れることを口にする。
「まあ、一週間の辛抱だ。それに訓練の成果次第では一週間より早くなるだろう。逆に成果が見られなければ、訓練期間の延長か……冒険者ライセンスの剥奪になるからな。気を付けろよ」
「「へぇ~」」
「「ヤバ……」」
 ギルマスの言葉に恒と明良はなんとなく訓練を早く終わらせられるかもと安堵し由香と久美は逆に不安になる。そして、由香と久美の様子から不安を感じ取ったギルマスが、そんな二人に声を掛ける。
「心配するな。訓練の成果は、ある程度の攻撃力と防御力があることを確認するだけだ。余程のことがない限り、落ちこぼれることはないぞ」
「なんだ~よかった~ね、久美」
「……」
「久美?」
「どうしよう。由香……私、自信がない」
「だから、そんなに悩むことはないと言ってるだろ。まずは軽い気持ちでやるんだな。こっちだってほぼ初心者のお前達を相手にするんだ。そんなに無茶なことはしないし、させない。取り敢えずは初日の基礎訓練を無事に終わらせることだな」
「無事にって……何をするつもりなの?」
「まあ、それも明日の楽しみだ。じゃあな、ほら出てった出てった」
 ギルマスがニヤリと笑った後に『シッシッ!』と追い払うような仕草で恒達をソファから立たせると執務室から追い出す。

 執務室から出ると、受付のお姉さんからそれぞれの冒険者ライセンスのカードを受け取る。カードの色はドリーと違って、冒険者初心者の『Gランク』を示す緑色だ。
「やっぱりな。これがラノベなら『うぉ! いきなりAランクだと!』とかなるんだけどね。現実はそうはならないよねぇ」
「由香、いつまでもラノベと混同していると痛い目にあうぞ。それに定番の絡みもなかっただろ?」
「まあ、そうよね。恒の言う通りよね。ラノベの中なら『おう! 姉ちゃん、酌でもしろよ』って絡まれるところなんだけどね」
「まあ、そうだな。だけど、絡まれているのは久美だけみたいだぞ。ほら」
 そう言って、脳内ドリームを語っていた由香に対し、恒が久美の方を指差すと由香は複数の男に絡まれている久美を目にする。
「え? なんで久美が?」
「さあ? 相手にも好みがあるんだから、その辺は知らないよ」
「そうか……じゃなくて、なんで助けないのよ! ああ見えても久美も女の子なんだよ!」
「落ちつけ、由香」
「明良まで……もう、あんた達最低!」
「だから、落ち着いてよく見ろとワタル達も言っているだろ! それなのにコイツは……」
「ドリーまで、そんなに悠長に……久美が助けを求める声が聞こえないの?」
「「「全然?」」」
 恒だけでなく、明良もドリーも身も知らぬ男の集団に絡まれている久美のことを心配する様子も見せず、ましてや助けようともしないのに由香は苛立ち、ならば自分がと、その集団に対し行こうとしたところで声を掛けられる。
「もう、いい! こうなったら私一人でも「どうしたの? 由香?」……え? 久美……無事なの?」
「何言ってるの由香? ほら、私のどこを見たらそんな風に思うの?」
「え? でも、さっきたくさんの男の人に絡まれて……」
「ああ、あれ? 別になんてことないわよ。そりゃ、最初はいきなりのことでビックリはしたけどね。でも、よく話を聞くと絡んできているんじゃなくて、『もし何かあったら俺に言え!』とか『何か食べたい物があれば、なんでも奢ってやるぞ!』とか『あっちのお兄さんを紹介して』とか、そんなんばっかりだったから、全然平気だったよ」
 由香の問い掛けに久美はあっけらかんとした様子で答えるが、ドリーだけが慌てる。
「いやいやいや、待て! クミよ。最後のはなんだ? 『お兄さん』ってワシのことか?」
「多分、そうじゃないかな。ちゃんとドリーの名前と宿の名前は伝えといたから、後は男の人同士で友情を深めてね」
「……マジ?」
「うん、マジ! やったね、ドリー。これで友達確保だよ!」
「……」
 ドリーが無言で久美に言い寄っていた男の集団に目を向けると、一人の男がドリーに向かってウィンクをしてくる。
「ワシだけ宿を替えようかな……」
「そんなこと言って、お金なんてないでしょ! ドリー、しっかりしなさいよ。大人なんでしょ!」
 意趣返しとばかりに全てを察している由香がドリーに対し何かを期待しているような視線を向ける。
「くっ……覚えてろよ!」
「覚えられる様なことをしたらね」
「くっ……ワタル、今日は一緒の部屋で寝てくれないか?」
「へ? 何言ってるの? 俺は一人じゃないと寝られないから無理!」
「そんな……じゃあ、明良は?」
「俺だって、イヤだよ。何が悲しくておじさんと同室なんて……」
「くっ……このままじゃワシの……が」
「はい、ドリー。諦めなさい。それより、早く宿に案内してよ。場所を知っているのはドリーだけなんだからさ。ほら、早く!」
「くっ……この小娘が!」
 ドリーは右手に持つメモ紙をクシャリと握りつぶすと「こっちだ」といい、冒険者ギルドから出ると宿を目指し、恒達を引き連れて行く。

「ここがギルマスから紹介された『梟の巣』だ。いいか、ここの女将は少々気難しいからな、暴れて怒らせるようなことはしないでくれよ」
「「「「はい!」」」」
「返事はいいんだよな~」
「ちょっと、そこの! デカい体で入口を塞がないでくれるかい。営業妨害だよ!」
 ドリーの背後から威勢のいい女性の声がしたので、ドリーが振り向く。
「久しぶりだな。女将よ」
「ドリー……」
 どうやら、この威勢のいい女性が宿の女将らしいと恒が感じた瞬間、その女将がドリーの頬に平手打ちを放つ。
「何するんだ、女将」
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