上 下
12 / 53

第12話 話を聞こうじゃないか

しおりを挟む
「お前達は、あの『ネマン教皇国』に召喚されたんだな?」
 ギルマスからの問い掛けに恒達は黙って頷く。
 そして、それを見たギルマスは「そうか」と言って、そのまま俯く。

『コンコンコン』
「失礼しますね。ギルマス、揃えてきましたよ。じゃあ、まずは女子から着替えましょうか。ってことでギルマス達は出て下さいね」
「え? 俺の部屋で着替えさせるの?」
「しょうがないでしょ。ここには更衣室なんて物はないのですから」
「分かったよ。じゃあ、なるべく早く頼むな」
「女子の準備には時間が掛かるんです! いいから、さっさと出て下さい」
「もう、俺の部屋なのに……」
 ギルド職員のリリーが用意した着替えと一緒に恒達はギルマスの執務室から追い出される。
「俺達はどこで着替えれば?」
「あ~その辺の隅で勝手にしろ」
「「え~」」
「なんだ? 見られて困る物でもあるのか? まあ、下着まで替えなくてもいいから、見られることもないだろ。それとも人目にさらせないほど恥ずかしい物をぶら下げているのか?」
「な、もういい! なら、ここで着替える。それならいいんだろ!」
 ギルマスの言葉にカチンときたのか、明良がギルドの事務スペース……カウンターの内側で着替えを始めようとすると、カウンターに座っているお姉さん達が興味深そうに椅子ごと体を振り向かせて見ている。さすがにこれはマズいかと恒は明良にそっと耳打ちする。
「明良、もう少し考えようよ」
「恒はギルマスに言われたように恥ずかしいのか?」
「そういう訳じゃないけどさ。でも、男が男の裸を見ても見せられてもそんなに気持ちがいいものじゃないでしょ。だから、ここはギルマスの言うようにさ。隅で大人しく着替えようよ」
「まあ、恒がそこまで言うんなら……」
 恒の言うことに渋々ながら頷き、部屋の隅に行くと恒が『遮断ブラインド』と唱えると、回りからは恒達が見えなくなっていた。
「あん、もう!」
「チッ……」
「あら、意外と使えるのね」
 それと同時にお姉さん達から苦情の様な声が聞こえるが、恒達は気にすることなく着替えを済ませる。
「え~と、脱いだのはアイテムボックスにしまうとして……時間経過がな~」
「そうだね。早く洗わないと、とんでもないことになりそうだね」
 恒は自分のは時間経過無しのインベントリだから、心配はないが明良達はアイテムボックス持ちで、そのアイテムボックスに入れた物は普通に時間が経過する。
 だから、早く取りだして洗わないととんでもないことになることは楽に予想出来る。

 その頃、ギルマスの執務室では坦々と由香と久美が着替えをしている……予定だったが、リリーが由香達の下着に興味を持ってしまい、上着を着ようとするのを悉く邪魔をしてくる。
「あの、リリーさん? もう少し離れてもらわないと着替えることが出来ないんですけど?」
「あら、気にしなくてもいいのよ。ほら、続けて続けて」
「いや、続けてと言われても、その手を放してもらわないと……」
「え~放さないとダメ?」
「ダメ? って、聞かれてもほぼ鷲掴みされているんですけど……」
 由香は自分の胸をガシッとブラごとリリーに鷲掴みにされている状態だったので、さっきからやんわりと放すように言っているのだが、なかなか放してくれない。
 その間に久美はさっさと自分の着替えを済ませてしまう。久美は何故自分には言ってこないかなと思ったが、下を向くとキレイに自分のつま先が見えている状態では、言わずもがなだ。そして、自分に暗示を掛けるように言い聞かせる。
「ふん! 私は成長途中なの。だから、いいの!」

 そして、リリーはと言えば、自分と同じ様なサイズの由香の胸をほぼ鷲掴みしながら、由香におねだりする。
「ねえ、これもらえない?」
「はぁ? 何言ってるんですか! 今はこれ一つしかないんですよ! なのにこれを渡しちゃったら、私はどうなるんですか? ビーチクを晒し者にして、垂れ乳になれって言うんですか!」
「もう、そんな意地悪なこと言わないでよ。ねえ、いいでしょ?」
「だから、イヤですって! そもそも、こんなのどこにでもあるんじゃないんですか?」
「ないわよ!」
「え?」
「だから、そんなにキレイに胸を包んでくれる物なんてないのよ。ほら、こんなのしかないのよ!」
 そう言ってリリーが上着を勢いよく脱ぐと、そこにはサラシのような物で巻かれた胸があった。
「はぁ~それはお気の毒です」
 由香はそう言って、今の内にとばかりに急いで上着を着る。
「あ~くれるって言ったのに!」
「言ってません!」
「なら、作ってよ!」
「はい?」
「だから、同じ物を作ってちょうだいって言ってるの」
「えっと、何を言ってるのか分からないんだけど?」
「もう、察しが悪い子ね。くれないのなら、それと同じ物を作ってって言ってるの。ついでにその下に履いているのもね」
「「え~」」
 リリーの言葉に由香ばかりか、久美まで驚いてしまう。
 そして、リリーは驚く二人の腕を掴み執務室の外に出ると「さあ、行きましょう!」とそのまま、ギルドから出て行こうとするのを恒とギルマスに止められてしまう。
「ちょっと、何するんですか!」
「何するじゃない! お前こそ、その二人をどこに連れていくつもりだ」
「そうだよ。二人から手を放して!」
「え~困るんですけど~」
「「助けて! 恒!」」
 ギルマスと恒にリリーが止められている隙にと明良とドリーが二人をリリーから救い出す。
「あ! もう、ドリーさんまで」
「ワシはコイツらの保護者だ。何か用事があるのなら、ワシが用件を聞こうじゃないか」
「え~ドリーさんに言うんですか~ちょっと、話しづらいんですけど……」
『ねえ、ワタル。ワタルがちゃちゃっとスキルを使って、この場をなんとかしなさいよ』
『え? スキルを使えって、どういうこと?』
『あのね……って具合にね』
『え~なんで俺がそんなことを……』
『でも、そうしないと終わらないよ。どうするの?』
 ミモネに言われた恒は一瞬悩むが、意を決した様な顔付きになると、「ごめん」と由香に声を掛け、由香の背中とお尻を触ると『複製コピー』と呟き、ある物が恒の手の平の上に現れると瞬時に『クリーン』を唱える。
「きゃっ! 恒。何いきなり触ってきて。もう、エッチなんだから! ん? 恒、その手に持っているのは……あ~私の下着! え? なんで? あれ? ある……」
 由香が自分の下着が抜き取られたと思い、自分の体を触って確かめるが、ちゃんと下着は身に着けている。
 そして恒は由香にごめんと謝ると、手に持っていた下着をリリーに渡す。
「はい。これを参考に作ってもらってね」
「ありがとう! 少年!」
 リリーは恒から下着を受け取ると、その嬉しさから恒をギュッと抱きしめる。
「あ! もう、放しなさいよ! 恒も嬉しそうにしないで! ちょっとは抵抗しなさいよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...