上 下
2 / 53

第2話 では、聞いて下さい

しおりを挟む
「そんな、理由で俺は異世界転移を繰り返させられていたのか……」
 イスカからの説明を聞いた恒は両手で頭を抱える。
「申し訳ありません。私達にも詳しい理由は分からないのです。ですが、何千回と繰り返す内に一つだけハッキリとしたのが恒様が生きていることだったのです」
「そりゃどうも。でも、俺が死んだ後の話なんて俺にはどうでもいい話だ。いいから、俺を自由にしてくれ」
 恒はこれまで延々と繰り返されてきた異世界転移はもう十分だから、自由にしてくれと懇願するがイスカも恒に異世界転移してくれと懇願する。
「そこをなんとか異世界で……私の管理する世界で生きてもらえませんか?」
「もらえません! 今まで何千と繰り返してきた異世界転移だけど、何一ついいことなんかなかったからな!」
「では、私から恒様に異世界特典をいくつかお渡ししたいと思います。いかがでしょうか?」
「特典?」
 イスカから『異世界特典』と言われ少しだけ恒は興味を持つ。
「あら? 興味があります?」
「少しね。それでどんな特典が?」
 イスカは恒が乗り気になったと思い、思い付くままのチートスキルを並べていく。
「ちょっと待ってくれ。思い出した。そうだ俺達は異世界転移の時に何かスキルを渡されると聞いたぞ。でも俺はいつも転移者は必ずもらえるっていう『鑑定』のみだった。それも転移者なら誰でももらえるはずの『アイテムボックス』『異世界言語理解』もなく『鑑定』のみだったんだけど。これってどういうことかな?」
「あ……えっと、それは……ですね」
 恒の質問にイスカの様子がおかしくなる。
「どういうことなの? 納得のいく説明はしてもらえるんだよね?」
「そう……ですね。誠に申し訳ございませんでした!」
 イスカは椅子から降りると、恒に対し綺麗な土下座を決めてみせる。
「俺、言ったよね。俺に対して土下座は意味がないって」
「ぐぬぬ……」
「で、何か言うことは?」
 イスカは悔しそうな顔で黙って立ち上がると、椅子に座り直す。
「恒様のユニークスキルはちゃんと用意されていました」
「へぇ~あったんだ。じゃあ、なんで『鑑定』だけだったの?」
 恒にユニークスキルは用意されていたのに実際は『鑑定』だけだったのだから、不思議に思った恒がイスカに確認する。
「怒りません?」
「どういうこと?」
「だから、今から正直に話しますけど怒らないって約束してくれます?」
「イヤって言ったら?」
「話しません」
「はぁ?」
「怒られるのが分かっているのに話す馬鹿がどこにいますか!」
「はぁ? お前、何を開き直ってんだよ! いいから、話せよ!」
「だから、怒らないって約束してくれたら話しますよ」
「あぁ~もう分かったよ。怒らないからちゃんと正直に話せよ」
 これ以上、怒る怒らないで揉めても何時までも平行線を辿るだけだと察した恒は取り敢えずは怒らないとだけ、約束しイスカに先を促す。
「分かりました。では、話しますね。あのですね……」
 イスカが話した内容はこうだった。
 まず恒のユニークスキルは『コピペ』と記載されているがスキルの詳細としては『コピー&ペースト』でスキルを対象に操作出来るということだった。
 しかし、以前に他の世界で転移者がこのスキルを使って、『異世界ヒャッハー』したことで、関係者は気を利かせたつもりで恒のスキルを不可視にしてしまったそうだ。
 また、その時に転移者特典の『アイテムボックス』と『異世界言語理解』も合わせて不可視にしてしまったらしい。しかもそれに気付いたのがつい最近のことで、修正しようにも恒本人が転移先の異世界で一万回目の寿命が尽きる直前だったらしい。
「そういう訳で結果として、恒様のスキルにはどの鑑定装置を使っても転移者特典の『鑑定』のみが表示される結果となってしまったのです」
『ヨヨヨ』という風に嘘泣きで泣き崩れるフリをしながら、イスカが恒の様子を見ると、恒は背もたれに体を預け、顔は遥か上空というか真上を見据えていた。
 そして、そんな状態の恒からたった一言だけが発せられる。
「呆れた……」
「はい?」
「聞こえなかった? 『呆れた』って言ったの! 何、その自分勝手なヒューマンエラーは! いや、でも天界の人なら『ヒューマンエラー』とは言わないのかな? あ~もう、結局はその人、個人のせいで俺は一万回も無駄に過ごしたってことだよね」
「私も認めたくはありませんが、そういうことになります」
「それで?」
「はい?」
「だから、それでお終いなの? 俺の一万回に対する謝罪と賠償はそれでお終いなのかって聞いているんだけどさ」
「あ、ですから。今回は異世界転移者特典の三つのスキルの他にも色んなチートスキルをお渡しする用意があります」
「それ、キャンセルでいいからさ、元に戻してくれない?」
「はい?」
「だから、もう異世界はたくさんだから、謝罪するつもりがあるのなら、元の世界に戻してくれって言ってるの。日本のごく普通のモブな高校生として日常を送らせて欲しいって言ってるの!」
「あ~何度も申し上げているようにそれだけは出来ません。すみません」
「え~じゃあ、このまま異世界に連れて行かれて何も出来ない分からない世界で生きて行けと……そう言うの?」
「ですから、そうならないように、ここに用意したチートスキルを好きなだけお選び下さい」
 一万回も無駄な異世界転移をさせられた恒に対し、形だけの謝罪はあったが、それに対する賠償らしいことはない。だから、地球に日本に戻して欲しいと言えば、それは出来ないと突っぱねられる。
 そして、イスカからの提案と言うのが山盛りのチートスキルを贈呈するということらしい。
「ダメだよね」
「はい?」
「そんな、チートスキルを山盛り持っていたら、すぐに捕獲されてどっかのお偉いさんに飼い殺しだよね」
「いえ、そんなことは……ないとも言えませんね」
「でしょ。だから、そんなのはいいからさぁ、戻してよ」
「ですが、そうなると私達の世界が衰退し、果てには壊滅するのでそれにはお答えすることが出来ません」
「でも、それって俺が死んだ後の話でしょ。なら俺には関係ない話じゃない」
「そうですか。では、次は一万と二回目の異世界転移の時にお会いすることになりますね」
「なにそれ。俺と、この世界の因果関係が分かるまでは俺はずっと異世界転移を繰り返すってことなの?」
「まあ、端的に言えばそうなりますね」
「イヤにならない?」
「私は女神ですよ。一応、これでも神として存在しているので私にとっては恒様の一生など一秒にも満たない感覚です。なので、さほど苦にはなりません」
「くっ……神のクセに随分と汚いやり口だな」
「恒様一人と世界の運命なら、世界を選ぶのも当然のことと思えますが」
「俺達の国では人の命は地球より重いって教えられて来たんだけどな」
「残念ながら、ここは異世界なので日本の教えはほとんど役に立ちません」
「くそっ! 分かったよ。受け入れるよ」
 スキルも何もいらないからと、もう一度元の世界に戻して欲しいとお願いすると、イスカからは『一万と二回目の異世界転移で会いましょう』と言われた恒は、ここで何を言っても終わらないことを悟り、異世界転移を受け入れる。
「分かってくれましたか! では早速「待て!」……はい? まだ何か。気が変わらない内に手続きを済ませたいのですが」
「さっき、言ってた特典の話だ」
「大丈夫ですよ。一応、確認してみましたが、異世界転移者の三つのスキルの他に恒様のユニークスキルも可視化されてましたから」
「そうじゃない。チートスキルの方だ」
「やはり、『異世界ヒャッハー』したくなりましたか?」
「違う! くれるのなら貰うだけだ。それとスキルは不可視でも使えるんだよな?」
「ええ、ちゃんと使えますよ」
「なら、俺にだけ見えて、他の奴からは見えなくすることは出来るのか?」
「ああ、それなら不可視のままでもスキル保有者には見えますよ。なんなら、この場で『ステータス』と唱えれば恒様にも見えますので、試して下さい。あと、お望みのチートスキルも入れときましたのでご確認下さい」
 イスカに試すように言われた恒が恐る恐る『ステータス』と呟くと恒の視界いっぱいに保有スキルの一覧が並べられる。
 恒の視界いっぱいに広がっているスキル一覧だが、イスカは本当に現存するスキルを全て恒に持たせたようで、恒の視界ではスキル一覧が勝手にスクロールされている。
「一体、いくつあるんだか」
「あ、それと転移先では、ちゃんと恒様のサポートを付けますからご安心を。では、よい人生を」
 イスカがそう言うと恒の視界が暗転し、足下がなくなったような浮遊感に襲われる。
「アイツ、いつか泣かす!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...