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第6話 考えられない
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翌朝、所轄署の会議室にて捜査会議が開かれた。
「じゃあ、昨日一日動いて貰った訳だが、一組ずつ発表してくれ。じゃあ、先ず現場で社員に聞き取りした内容から……」
「はい」
後輩刑事が席を立ち、報告書を元に読み上げていくが、段々と回りの空気が「マジかコイツ」という風に段々と冷めていくのを感じながら、なんとか全てを言い終わり椅子に座ったところで「本気なのか?」と前方に座る管理官から声を掛けられる。
後輩刑事は「だからイヤだったのに」と先輩刑事の方を見れば「くくく」と笑いを噛み殺していたので、後輩刑事は挙手してから「全てはここにいる先輩の意見を元に報告書の形に纏めました」と言い、『してやったり』という風に先輩刑事を見れば、先輩刑事は驚いた顔をしている。
前に座っている管理官は「じゃあ、説明してみろ」と先輩刑事の顔を見ながら言ってくるので、先輩刑事も無視する訳にも行かず渋々と椅子から立ち上がる。
「大まかなことは先程の報告の通りですが、俺が注視したいのは……間崎修平に関してです」
「それは、今回の事件に関係すると……本気で思っているのか?」
「逆に聞きますが、関係していないと断言することは出来ますか?」
「……」
管理官に対し先輩刑事が少し強めに言うと管理官も思うところがあるのか、反論することも出来ずにいる。
「では、話を続けます。俺が気にしているのは、早々に間崎修平が被疑者として特定されたことです。一家四人……この場合、間崎修平を除けば三人ですが、その動機も何も解明されていません」
「……それは別に珍しいことでもないだろう」
「そうですかね。だから、俺は警察関係者が関係しているのではと思っているんですが……どう思われますか?」
「それこそ、妄想だろう」
「そう言い切れますか?」
「……分かった。もういい……他は?」
管理官は先輩刑事に対しまともに相手はしていられないとばかり話を一方的に終わらせられた。
「ナイスアシストでしょ!」
「やってくれたな!」
「お相子でしょ」
「ふん! だが、警察内部にもいるかも知れないというのは、なかなかいい線だろ」
「そうですね。さっきのやり取りからも管理官は何かを聞いているのかも知れませんね」
「ふむ……そうなると……」
「あ、終わったみたいですよ」
「じゃ、行くか」
「行くってどこに行くんですか?」
「間崎修平を調べるんだよ」
「はいはい、分かりました」
管理官は会議室から出る二人を背後からネットリとした視線で見ていた。
「ちょっとマズいか……」
「何か言われましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
車に乗り込んだ二人はどちらからともなく口を開く。
「見てましたね」
「ああ、見てたな。こりゃ当たりかもな」
「意外と近くを掘ってみたら当たったって感じですか」
「そうだな。まあ、その為にも間崎修平のことを調べられるだけ、調べてみようじゃないか」
「ですね。それで、どこに行けばいいですか」
「そうだな。先ずは親族から当たるか。確か、間崎の親類縁者はいないが、奥さんの方には弟がいたな」
「ですね。じゃ、出しますね」
「おう、頼む」
車を暫く走らせると古いアパートの前に停める。
「ここですね。名前は……前田敦 五十三歳と。二〇一号室だから……あ、あそこですね」
「居そうか?」
「テレビらしき音は聞こえてますから、多分いるでしょ。前田さん、前田さ~ん、ちょっといいですか?」
後輩刑事が玄関扉を叩きながら中にいる住人に声を掛ければ、面倒臭そうに「なんだよ」と玄関扉が乱暴に開かれる。
すかさず、後輩刑事が玄関の内側に身をスベらせ警察手帳を見せながら前田に自己紹介すれば「警察? 俺、なんもしてないぞ」と前田は身を強ばらせる。
「あ~今日、ここへ来たのはですね、二十年前のことを聞きたくてですね」
「二十年前……姉貴のことか?」
「そうです。覚えていますか?」
「ここじゃ、あれなんで……」
「「お邪魔します」」
前田は二人が自分の姉のことを聞きに訪ねて来たと言うことで、少し緊張が解れた様子を見せ、部屋の中へと招き入れる。
「それで、そんな昔のことを聞きたいって、何か分かったんですか?」
「いえ、お姉さん達の事件についてはまだ何も分かっていません。ですが、被疑者とされている間崎修平……つまりお姉さんの旦那さんの関連性が疑われる事件があったものですから」
「ハァ~警察はまだ義兄さんを犯人扱いしているんですか」
「そう考えているってことは、あなたは真犯人は別にいると思われているんですか?」
「ええ、そうですよ。あの義兄さんが姉さんだけでなく子供まで殺すなんて到底無理です」
「それは警察には?」
「当然、言いましたよ!」
「……そうですか」
前田は二人と同じ様に間崎修平が犯人だとは到底思えず、何度も訴えたが相手にされなかったと二人に話す。二人もなぜ、そこまで断定出来るのかと前田に問い掛ける。
「あの次の日、俺は義兄さんからお金を貸してもらえるハズだったんです」
「お金を?」
「失礼ですが、具体的な金額をお聞きしても?」
「ええ、いいですよ。あの時は五千万を貸してもらえる話になっていました」
「それは現金で?」
「そうですね。そっちの方がいいだろうと言われたので」
前田からの話を聞き、刑事二人はお互いに「おや?」と不審に思う。何故ならば、そんな話は当時の捜査資料には一言も記載されていなかったからだ。
「失礼ですが、その話は当然ながら当時の担当刑事にはお話しされたんですよね」
「しましたよ。ですが、テレビや新聞の報道記事にはそんなこと一言も載ってませんでしたけどね。だから、警察は何か他の理由があって義兄さんを犯人にしたいんだなと思ってましたよ」
「そうですか。因みにですが、そのお金を間崎さんが持っていると他に知っていたのは誰か分かりますか?」
「さあね。姉貴以外に誰かがいるとは考えにくいですけどね」
「……分かりました。貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました」
「いえ……お二人はまだ義兄さんが犯ったと思っているんですか?」
「私達は別の案件を捜査中ですが、当時の捜査資料を読む限りでも間崎さんが犯行に及んだとは思えません」
「そうですか。いえ、それが聞けただけでもありがたいです」
「「失礼します」」
二人は前田に礼を言ってから車に戻る。
「こりゃ、内部に潜んでいる可能性大だな」
「そうですね。でも、どうします?」
「どうするって何をだ?」
「だから、二十年前とは言え、もう時効は撤廃されていますよね。犯人としては、今さら捕まるつもりなんてないでしょうし」
「そりゃそうだろうな」
「そうなるとですよ。私達の出した『間崎修平の呪い』説なんて頭から潰しに来るんじゃないんですか?」
「そうなりゃ、楽でいいじゃないか」
「え~」
「じゃあ、昨日一日動いて貰った訳だが、一組ずつ発表してくれ。じゃあ、先ず現場で社員に聞き取りした内容から……」
「はい」
後輩刑事が席を立ち、報告書を元に読み上げていくが、段々と回りの空気が「マジかコイツ」という風に段々と冷めていくのを感じながら、なんとか全てを言い終わり椅子に座ったところで「本気なのか?」と前方に座る管理官から声を掛けられる。
後輩刑事は「だからイヤだったのに」と先輩刑事の方を見れば「くくく」と笑いを噛み殺していたので、後輩刑事は挙手してから「全てはここにいる先輩の意見を元に報告書の形に纏めました」と言い、『してやったり』という風に先輩刑事を見れば、先輩刑事は驚いた顔をしている。
前に座っている管理官は「じゃあ、説明してみろ」と先輩刑事の顔を見ながら言ってくるので、先輩刑事も無視する訳にも行かず渋々と椅子から立ち上がる。
「大まかなことは先程の報告の通りですが、俺が注視したいのは……間崎修平に関してです」
「それは、今回の事件に関係すると……本気で思っているのか?」
「逆に聞きますが、関係していないと断言することは出来ますか?」
「……」
管理官に対し先輩刑事が少し強めに言うと管理官も思うところがあるのか、反論することも出来ずにいる。
「では、話を続けます。俺が気にしているのは、早々に間崎修平が被疑者として特定されたことです。一家四人……この場合、間崎修平を除けば三人ですが、その動機も何も解明されていません」
「……それは別に珍しいことでもないだろう」
「そうですかね。だから、俺は警察関係者が関係しているのではと思っているんですが……どう思われますか?」
「それこそ、妄想だろう」
「そう言い切れますか?」
「……分かった。もういい……他は?」
管理官は先輩刑事に対しまともに相手はしていられないとばかり話を一方的に終わらせられた。
「ナイスアシストでしょ!」
「やってくれたな!」
「お相子でしょ」
「ふん! だが、警察内部にもいるかも知れないというのは、なかなかいい線だろ」
「そうですね。さっきのやり取りからも管理官は何かを聞いているのかも知れませんね」
「ふむ……そうなると……」
「あ、終わったみたいですよ」
「じゃ、行くか」
「行くってどこに行くんですか?」
「間崎修平を調べるんだよ」
「はいはい、分かりました」
管理官は会議室から出る二人を背後からネットリとした視線で見ていた。
「ちょっとマズいか……」
「何か言われましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
車に乗り込んだ二人はどちらからともなく口を開く。
「見てましたね」
「ああ、見てたな。こりゃ当たりかもな」
「意外と近くを掘ってみたら当たったって感じですか」
「そうだな。まあ、その為にも間崎修平のことを調べられるだけ、調べてみようじゃないか」
「ですね。それで、どこに行けばいいですか」
「そうだな。先ずは親族から当たるか。確か、間崎の親類縁者はいないが、奥さんの方には弟がいたな」
「ですね。じゃ、出しますね」
「おう、頼む」
車を暫く走らせると古いアパートの前に停める。
「ここですね。名前は……前田敦 五十三歳と。二〇一号室だから……あ、あそこですね」
「居そうか?」
「テレビらしき音は聞こえてますから、多分いるでしょ。前田さん、前田さ~ん、ちょっといいですか?」
後輩刑事が玄関扉を叩きながら中にいる住人に声を掛ければ、面倒臭そうに「なんだよ」と玄関扉が乱暴に開かれる。
すかさず、後輩刑事が玄関の内側に身をスベらせ警察手帳を見せながら前田に自己紹介すれば「警察? 俺、なんもしてないぞ」と前田は身を強ばらせる。
「あ~今日、ここへ来たのはですね、二十年前のことを聞きたくてですね」
「二十年前……姉貴のことか?」
「そうです。覚えていますか?」
「ここじゃ、あれなんで……」
「「お邪魔します」」
前田は二人が自分の姉のことを聞きに訪ねて来たと言うことで、少し緊張が解れた様子を見せ、部屋の中へと招き入れる。
「それで、そんな昔のことを聞きたいって、何か分かったんですか?」
「いえ、お姉さん達の事件についてはまだ何も分かっていません。ですが、被疑者とされている間崎修平……つまりお姉さんの旦那さんの関連性が疑われる事件があったものですから」
「ハァ~警察はまだ義兄さんを犯人扱いしているんですか」
「そう考えているってことは、あなたは真犯人は別にいると思われているんですか?」
「ええ、そうですよ。あの義兄さんが姉さんだけでなく子供まで殺すなんて到底無理です」
「それは警察には?」
「当然、言いましたよ!」
「……そうですか」
前田は二人と同じ様に間崎修平が犯人だとは到底思えず、何度も訴えたが相手にされなかったと二人に話す。二人もなぜ、そこまで断定出来るのかと前田に問い掛ける。
「あの次の日、俺は義兄さんからお金を貸してもらえるハズだったんです」
「お金を?」
「失礼ですが、具体的な金額をお聞きしても?」
「ええ、いいですよ。あの時は五千万を貸してもらえる話になっていました」
「それは現金で?」
「そうですね。そっちの方がいいだろうと言われたので」
前田からの話を聞き、刑事二人はお互いに「おや?」と不審に思う。何故ならば、そんな話は当時の捜査資料には一言も記載されていなかったからだ。
「失礼ですが、その話は当然ながら当時の担当刑事にはお話しされたんですよね」
「しましたよ。ですが、テレビや新聞の報道記事にはそんなこと一言も載ってませんでしたけどね。だから、警察は何か他の理由があって義兄さんを犯人にしたいんだなと思ってましたよ」
「そうですか。因みにですが、そのお金を間崎さんが持っていると他に知っていたのは誰か分かりますか?」
「さあね。姉貴以外に誰かがいるとは考えにくいですけどね」
「……分かりました。貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました」
「いえ……お二人はまだ義兄さんが犯ったと思っているんですか?」
「私達は別の案件を捜査中ですが、当時の捜査資料を読む限りでも間崎さんが犯行に及んだとは思えません」
「そうですか。いえ、それが聞けただけでもありがたいです」
「「失礼します」」
二人は前田に礼を言ってから車に戻る。
「こりゃ、内部に潜んでいる可能性大だな」
「そうですね。でも、どうします?」
「どうするって何をだ?」
「だから、二十年前とは言え、もう時効は撤廃されていますよね。犯人としては、今さら捕まるつもりなんてないでしょうし」
「そりゃそうだろうな」
「そうなるとですよ。私達の出した『間崎修平の呪い』説なんて頭から潰しに来るんじゃないんですか?」
「そうなりゃ、楽でいいじゃないか」
「え~」
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