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第3話 選ばれたのは
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「なあ、これって俺達の案件なのか?」
「先輩……気持ちは分かりますけどね。一応、変死事件ってことなんで」
「だけどよぉ人の口から土砂なんか出て来るか? 一体、どういうトリックなんだよ」
「知りませんよ。やる気にならないのも分かりますけど、現場にいる以上はマジメにやって下さいね」
「はいはい、分かりましたよ。で、目撃者がいるって言ってたな」
「ええ、時間的に昼休みだったので、ここには従業員の方が結構いたみたいですよ」
「そうか。じゃあ、よろしくな」
「え? 何言ってるんですか。先輩も一緒に聞くんですよ」
「え~だってよ~」
「いいから、マジメにして下さい。話の中から拾えることもあるんですから」
「はいはい、分かりました」
「ホントに……頼みますよ」
変死事件の現場となった田中土木事務所に現れた刑事二人は一人は変死事件に対しやる気が感じられない様子で、もう一人も仕事だから仕方がないという感じだが、とりあえずは事件には前向きに取り組むようだ。
「じゃあ、順番にお願いしますね」
「「「……はい」」」
後輩らしき刑事は事務所内に留まっている社員達に声を掛けると臨時の取調室として貸してもらった応接間へと入っていく。
刑事二人と書記として、もう一人の三人で聞き取りの準備を終えると、後輩刑事がドアの向こうに声を掛ければ「失礼します」と三十台前半と思われる社員が入ってくる。
「では、社長さんは若い社員が見ていたスマホの動画を見た後にああなったと……そういう訳ですか」
「ええ。他の連中にも聞いてもらえれば分かると思いますが、間違いないです」
「そうですか。他に何か気が付いたことがあればお願いします」
「他に……ですか。あ!」
「何かありましたか?」
「ほら、だから、その動画の撮影場所ですよ」
「撮影場所?」
「ええ、そのコンビニがある場所……と言うか通りなんですけどね。あの社長はどんな時でも絶対に通ろうとはしなかったんですよ。ね、不思議でしょ」
「どんな時もですか?」
「ええ、そうです。現場に間に合わなくなりそうだというのに『構わないから』と絶対に許してはくれませんでしたね」
「絶対に?」
「ええ。実は一回だけイタズラ心で、ハンドルをそっちの通りに向けた瞬間に走っている車のドアを開けて飛び降りようとしたんですよ。あの時はビックリしましたね」
「そんな、まさか」
「ホントにそう思いますよね。でもね、その時は俺と社長ともう一人の三人だったんで、聞いて貰えば分かりますよ」
「……」
一通りの話しを聞き終えた二人は社員にお礼を言ってから、次の人を呼んでもらう。
だが、次に呼んだ社員も先程の社員と同じ内容しか聞けなかった。因みに社長が嫌がる通りの話しを刑事から切り出せば「そうなんですよ。妙ですよね」と返されたことから、先程の社員の話がウソではなかったことの信憑性が上がる。
「次が最後の方ですね。そして、例のスマホの動画を社長に見せた社員ということです」
「第一容疑者ってことか?」
「そうは言えないのは分かってますよね」
「そうだな。どう頑張っても普通の人には無理な話だ」
『コンコンコン』
「来たみたいですね。どうぞ」
「失礼します」
そう言って応接室に入ってきたのは二十台前半と思わしき若者だった。
「えっと、何を話せばいいんですか?」
「そうだね。君が社長に動画を直接見せたと言われているけど、これはホントなのかな?」
「……はい。でも、俺は見せただけと言うか、見て貰っただけですから!」
「まあ、落ち着いて下さい。こちらもあなたを犯人とは思っていませんから」
「……そうなんですか?」
「ええ、その辺りは他の社員からも聞いていますし。仮にあなたが手を下したとしてもですよ。人の口からアレだけの土砂を吐かせることは出来ないでしょうから」
「そうですよね。あんなことはやっぱり……」
「やっぱり?」
それまで詰まらなさそうに聞き取りの様子を見ていた先輩刑事がソファから身を起こし若い社員が発した『やっぱり』という言葉に反応した。
「やっぱりとは、どういう意味ですか?」
「あ……すみません。なんでもありません」
「なんでもなくて、『やっぱり』とは言わないでしょ。下手に隠すようなマネはせずに正直に話した方がいいですよ」
「……バカにしたりしませんか?」
「私達はあなた方が話して下さる内容をちゃんと聞くことから始まるのです。そして話して頂いた内容を一つずつ検証して事実を確かめます。ですから、あなたが話して頂けることに対し頭からバカにするようなことはいたしません」
「……あの」
先輩刑事が若い社員に対し思い掛けずに与えた圧を後輩刑事が途中から代わり若い社員が気まずさから口を噤むのを避けることに成功したようで、若い社員は少しおどおどした様子で話し始める。
だが、その内容に対し先輩刑事はあろうことか「はぁ?」と声に出してしまったことで、若い社員は「ほら、やっぱり!」といい口を閉ざしてしまう。
「もう、先輩! すみません、この人のことは気にせずに続きを聞かせて下さい」
「……」
「ほら、先輩も謝って下さいよ!」
「でもよ「いいですから!」……チッ、すまない。この通りだ」
「ね、先輩もこう言ってますから」
先輩刑事が形だけでも頭を下げて見せたことで、若い社員も納得してくれたのか、話を続ける。
「……分かりました。その後に社長は『マサキガ』と言ったんです」
「『マサキガ』ですか?」
「それはどういう意味だ? それは人の名前か? それとも何か物なのか?」
「さあ、そこまでは俺には分かりません。でも……」
「「でも?」」
若い社員が言うには社長はスマホの画面を見詰めたまま『マサキガ』と呟いたことから、動画の中に『マサキガ』が隠れているのではと推察することを話せば、後輩刑事は動画の提出を若い社員に求め、若い社員からスマホを受け取る。
「拝見しますね」
「ええ、どうぞ」
「これってアレだよな。確か、失踪女子高校生の事件を解決に導いたっていう」
「ええ、そうです。この動画は私も初めて見ますが……なんだか背中がゾクリとしますね」
「どうせ「CGじゃないですからね」……お、そ、そうか」
先輩刑事が動画を見るなり、ニセモノ扱いしたことで若い社員は昼休みの時と同じ様に憤慨する。
「あ! ここですね。確かにチラシの女性が笑ったように見えますね」
「でしょ! だから、これはニセモノなんかじゃないんです! 実際に社長もあんな死に方をした訳ですから!」
「ちょっと、落ち着いて!」
「あ、すみません。でも、これでさっきの俺の話も信じてもらえますよね」
「そう……ですね」
「だが、俺には『ミツケタ』なんて声は聞こえなかったぞ」
「聞こえていたら、ああなっていたんじゃないんですか。よかったですね、聞こえなくて」
「でも、アンタは聞こえたけど、今こうして生きているよな?」
「……それは社長の横にいたからだと思うんですよ! そして、俺は選ばれたんじゃないかと」
「「選ばれた?」」
「先輩……気持ちは分かりますけどね。一応、変死事件ってことなんで」
「だけどよぉ人の口から土砂なんか出て来るか? 一体、どういうトリックなんだよ」
「知りませんよ。やる気にならないのも分かりますけど、現場にいる以上はマジメにやって下さいね」
「はいはい、分かりましたよ。で、目撃者がいるって言ってたな」
「ええ、時間的に昼休みだったので、ここには従業員の方が結構いたみたいですよ」
「そうか。じゃあ、よろしくな」
「え? 何言ってるんですか。先輩も一緒に聞くんですよ」
「え~だってよ~」
「いいから、マジメにして下さい。話の中から拾えることもあるんですから」
「はいはい、分かりました」
「ホントに……頼みますよ」
変死事件の現場となった田中土木事務所に現れた刑事二人は一人は変死事件に対しやる気が感じられない様子で、もう一人も仕事だから仕方がないという感じだが、とりあえずは事件には前向きに取り組むようだ。
「じゃあ、順番にお願いしますね」
「「「……はい」」」
後輩らしき刑事は事務所内に留まっている社員達に声を掛けると臨時の取調室として貸してもらった応接間へと入っていく。
刑事二人と書記として、もう一人の三人で聞き取りの準備を終えると、後輩刑事がドアの向こうに声を掛ければ「失礼します」と三十台前半と思われる社員が入ってくる。
「では、社長さんは若い社員が見ていたスマホの動画を見た後にああなったと……そういう訳ですか」
「ええ。他の連中にも聞いてもらえれば分かると思いますが、間違いないです」
「そうですか。他に何か気が付いたことがあればお願いします」
「他に……ですか。あ!」
「何かありましたか?」
「ほら、だから、その動画の撮影場所ですよ」
「撮影場所?」
「ええ、そのコンビニがある場所……と言うか通りなんですけどね。あの社長はどんな時でも絶対に通ろうとはしなかったんですよ。ね、不思議でしょ」
「どんな時もですか?」
「ええ、そうです。現場に間に合わなくなりそうだというのに『構わないから』と絶対に許してはくれませんでしたね」
「絶対に?」
「ええ。実は一回だけイタズラ心で、ハンドルをそっちの通りに向けた瞬間に走っている車のドアを開けて飛び降りようとしたんですよ。あの時はビックリしましたね」
「そんな、まさか」
「ホントにそう思いますよね。でもね、その時は俺と社長ともう一人の三人だったんで、聞いて貰えば分かりますよ」
「……」
一通りの話しを聞き終えた二人は社員にお礼を言ってから、次の人を呼んでもらう。
だが、次に呼んだ社員も先程の社員と同じ内容しか聞けなかった。因みに社長が嫌がる通りの話しを刑事から切り出せば「そうなんですよ。妙ですよね」と返されたことから、先程の社員の話がウソではなかったことの信憑性が上がる。
「次が最後の方ですね。そして、例のスマホの動画を社長に見せた社員ということです」
「第一容疑者ってことか?」
「そうは言えないのは分かってますよね」
「そうだな。どう頑張っても普通の人には無理な話だ」
『コンコンコン』
「来たみたいですね。どうぞ」
「失礼します」
そう言って応接室に入ってきたのは二十台前半と思わしき若者だった。
「えっと、何を話せばいいんですか?」
「そうだね。君が社長に動画を直接見せたと言われているけど、これはホントなのかな?」
「……はい。でも、俺は見せただけと言うか、見て貰っただけですから!」
「まあ、落ち着いて下さい。こちらもあなたを犯人とは思っていませんから」
「……そうなんですか?」
「ええ、その辺りは他の社員からも聞いていますし。仮にあなたが手を下したとしてもですよ。人の口からアレだけの土砂を吐かせることは出来ないでしょうから」
「そうですよね。あんなことはやっぱり……」
「やっぱり?」
それまで詰まらなさそうに聞き取りの様子を見ていた先輩刑事がソファから身を起こし若い社員が発した『やっぱり』という言葉に反応した。
「やっぱりとは、どういう意味ですか?」
「あ……すみません。なんでもありません」
「なんでもなくて、『やっぱり』とは言わないでしょ。下手に隠すようなマネはせずに正直に話した方がいいですよ」
「……バカにしたりしませんか?」
「私達はあなた方が話して下さる内容をちゃんと聞くことから始まるのです。そして話して頂いた内容を一つずつ検証して事実を確かめます。ですから、あなたが話して頂けることに対し頭からバカにするようなことはいたしません」
「……あの」
先輩刑事が若い社員に対し思い掛けずに与えた圧を後輩刑事が途中から代わり若い社員が気まずさから口を噤むのを避けることに成功したようで、若い社員は少しおどおどした様子で話し始める。
だが、その内容に対し先輩刑事はあろうことか「はぁ?」と声に出してしまったことで、若い社員は「ほら、やっぱり!」といい口を閉ざしてしまう。
「もう、先輩! すみません、この人のことは気にせずに続きを聞かせて下さい」
「……」
「ほら、先輩も謝って下さいよ!」
「でもよ「いいですから!」……チッ、すまない。この通りだ」
「ね、先輩もこう言ってますから」
先輩刑事が形だけでも頭を下げて見せたことで、若い社員も納得してくれたのか、話を続ける。
「……分かりました。その後に社長は『マサキガ』と言ったんです」
「『マサキガ』ですか?」
「それはどういう意味だ? それは人の名前か? それとも何か物なのか?」
「さあ、そこまでは俺には分かりません。でも……」
「「でも?」」
若い社員が言うには社長はスマホの画面を見詰めたまま『マサキガ』と呟いたことから、動画の中に『マサキガ』が隠れているのではと推察することを話せば、後輩刑事は動画の提出を若い社員に求め、若い社員からスマホを受け取る。
「拝見しますね」
「ええ、どうぞ」
「これってアレだよな。確か、失踪女子高校生の事件を解決に導いたっていう」
「ええ、そうです。この動画は私も初めて見ますが……なんだか背中がゾクリとしますね」
「どうせ「CGじゃないですからね」……お、そ、そうか」
先輩刑事が動画を見るなり、ニセモノ扱いしたことで若い社員は昼休みの時と同じ様に憤慨する。
「あ! ここですね。確かにチラシの女性が笑ったように見えますね」
「でしょ! だから、これはニセモノなんかじゃないんです! 実際に社長もあんな死に方をした訳ですから!」
「ちょっと、落ち着いて!」
「あ、すみません。でも、これでさっきの俺の話も信じてもらえますよね」
「そう……ですね」
「だが、俺には『ミツケタ』なんて声は聞こえなかったぞ」
「聞こえていたら、ああなっていたんじゃないんですか。よかったですね、聞こえなくて」
「でも、アンタは聞こえたけど、今こうして生きているよな?」
「……それは社長の横にいたからだと思うんですよ! そして、俺は選ばれたんじゃないかと」
「「選ばれた?」」
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