探しもの

ももがぶ

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第2話 事件としての終息

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「ほら! これ見て下さいって。ね、俺が言うとおりでしょ?」
「ウッソだぁ~これってあれだろ。フェイク動画ってやつじゃないのか」
「ああ、そうだな。今時、CGで簡単に出来るんだろ」
「なら、こっちはどうです。これは店の監視カメラの動画ですよ」
「あ~はいはい。分かりました、分かりました。認めるよ、本物だ本物」
「なんですか、その言い方は! ちゃんと見てくださいよ」
「もう、しつこいな~」
「どうした?」
「「「社長!」」」

 ある会社の昼休みに若い社員が職場仲間の若い連中と何やら騒いでいたのが気になった社長と呼ばれた男が、騒動の中心と思われる社員に声を掛ける。

「さっきから随分と賑やかだが、一体どうした?」
「社長、聞いて下さいよ。コイツってば、フェイク動画をさっきから本物だからってしつこいんですよ。社長からも一言言ってやって下さいよ」
「だから、本物だって言っているじゃないですか! 先輩達こそどうして信用してくれないんですか!」
「ね、この調子なんですよ」
「社長なら、分かってくれますよね!」
「は?」

 鼻息も荒くスマホの画面を社長に向けてくる若い社員の勢いに巻き込まれてしまい社長は「まずは落ち着け」と言うのが精一杯だった。

「そうだ! 社長なら分かるでしょ。ここの監視カメラの映像は、あの通りのコンビニのヤツなんですよ。ほら、通りの向こう側に映っているの見て下さいよ。ね、分かるでしょ」
「おい、その通りなら社長は知らないぞ」
「え?」
「そうか。お前は知らないんだな。社長はその通りは絶対に通らないので有名だぞ。ね、社長」
「……ああ、そうだな」

 その先輩社員が言うように社長は頑なにその道を通ることはなかった。どんなに現場に遅れることが分かっていても、そこだけは通るなと懇願されては従うしかなかったのだ。

「え~そんな~でも、ほら。これだけでも見て下さいよ。監視カメラもこっちの動画でもハッキリと映っているのが分かりますよね」
「……」

 若い社員が向けてきたスマホの画像には車のハッチバック部分に文字が刻まれている映像が流れていた。

 少し前にニュースで騒がれた高校卒業と同時に失踪したと思われた女子高校生の事件が実は誘拐殺人事件だったことが犯人逮捕と同時に判明したと報道された。そして、その犯人が捕まった原因とされるのが、この若い社員が先程から熱弁している監視カメラとその場に居合わせた個人のスマホで撮影されたものだったのだ。

 通報自体はスマホで撮影した者からだったと報道されていたが、通報した本人は「何故かその時に通報しないと」と思ったからだと説明している。

 通報された後は、車のナンバープレートから個人情報は直ぐに判明し、何故女子高校生を襲ったのかも解明された。被疑者は学校卒業間近だが、就職先も見つからずに何故自分ばかりと不満に思っていたところに屈託なく笑う彼女を見て、全てを壊してやりたいと思ったからだという単純なものだった。

 そこまでを説明して若い社員は一層熱を帯びたように社長に訴える。

「ね、分かりました? 車のハッチバックに『コノヒトガシッテイマス』って刻まれたのが映っているんですよ。監視カメラと個人のスマホに同時に映っているのに先輩達はフェイクだって言うんですから。どうにかしていますよね」
「ヒッ……」

 確かに若い社員が言うように車のハッチバックに『コノヒトガシッテイマス』と一文字ずつ書かれた後にスマホ動画の方では映り込んだチラシの女性が笑っている様に見えたのだ。そして、その通りの向こうからはコンビニを監視するように見ていた男性が映り込んでいた。

 若い社員は社長の悲鳴はてっきり刻まれた言葉とチラシの女性が微笑んだからだとばかり思っていたのだが、社長はそことは違う何かに気付いたようで悲鳴の後に「まさか」と呟き、その後に「何故、マサキが」と呟いた。

 そして、そう呟いた瞬間に若い社員にも『ミツケタ』と声が聞こえた。それは社長も同じだった様で耳を押さえ、床に蹲った。

 その場にいた社員が社長の様子に気付き「社長、どうしました? 社長!」と声を掛けるが、社長は「許せ! 許してくれ!」と呟くばかりで両耳を押さえる手を外そうとはしなかった。

「社長!」と声を掛け続けていたが、社長は抑えていた両耳を解放すると今度は急に口を抑えたが、その口を抑えることが出来ずに『ゲボッ!』という音と共に社長の口から大量の土砂が溢れ出す。

「え……しゃ、社長?」
「きゅ、救急車! 早く救急車だ!」
「は、はい!」

 社長は口を抑えるが、それでも抑えることが出来ずに大量の土砂を掃き出し、その場で絶命した。

「……社長?」
「おい!」
「え?」
「お前、何をしたんだ!」
「何って……」
「お前が社長に何かをしたから、こうなったんだろうが!」
「え? でも、俺は……」

 その若い社員は先輩社員達に社長がこうなったのはお前のせいだと詰め寄られるが、自分はただスマホの動画を見せただけなので自分が悪いと言われても合点がいかない。だが、頭に響いた『ミツケタ』と言う言葉と社長が発した「何故、マサキが」だけが胸に残る。



 いつもの様に通りの向こう側を観察している俺の横で彼女は笑っていた。

「ありがとう。オジサンのお陰で私はキレイなまま逝けます。でも、オジサンはそれでいいの?」
「俺のことは気にするな。それに俺はもう手遅れだ」
「そうなんだ……」
「俺のことは気にするな。それに君は向こうで親御さんを安心させないとダメだろ」
「うん、そうだね。私も見付けてもらえたし。これでやっと旅立てるよ。ありがとうね、オジサン」
「ああ、俺も楽しかったよ」

 そう言って俺は天へと昇っていく彼女に手を振るのだった。
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