16 / 22
第三章 挑発
第二話 密室
しおりを挟む
「この辺りで」
「はい」
山本が坂本に対し、そう言うと坂本も了承し近くのコインパーキングに車を停める。
「で、どこに行くんですか?」
「近くですから。ほら、すぐそこですよ」と山本はそう言って、ビルを指差す。
坂本はビルに掲げられている看板から目的地がカラオケボックスであることは理解したが、なぜカラオケボックスなのか理由が分からず、戸惑い山本に質問をぶつければ「だって、静かでしょ」と言われる。
「静か? 五月蠅いの間違いじゃ」
「そりゃ、歌えばの話です。歌わないのなら、防音設備が整った密室じゃないですか」
「あぁ」
「納得出来ました? では、相手を待たせていると思うので」
「はい」
カラオケボックスに入るとカウンターの中にいる店員が山本に軽くお辞儀をすると同時に「もう、案内してあります」とだけ言えば、山本も軽く手を挙げ「ありがとう」と礼を言う。
坂本は山本の後ろから黙って着いて歩きエレベーターに乗り込んだところで「彼もお友達のひとりなんですか」と山本に尋ねれば「ええ」と短く答える。
エレベーターから降りるとある部屋の前に立ち、軽くノックをしてから山本が扉を開ければ、そこには先程電話で約束した太田が座っていた。
太田は山本達に気付くとソファから立ち上がろうとするが、山本はそれを制して「話の前に飲み物を頼みましょう」とメニューを広げる。
「アルコールはお互いに控えるとして……坂本さんは何にしますか?」
「コーヒーを」
「俺もそれで」
「分かりました。あ、コーヒーを三つお願いします」
山本は壁に取り付けてある電話機から受話器を持ち上げると、手短に注文を済ませソファに座る。
「で、なんでここなんだ?」
「まあ、先ずは飲み物が来てからにしましょう。その方が、話を中断される心配もありませんし」
「……分かったよ」
太田は山本から何かを聞けるかもと期待して来たのに、その山本が中々口を開かないことに少しイラッとするが、大人しく飲み物を待つ。
「お待たせしました」と部屋の扉がノックされ、先程の店員からコーヒーを載せたトレイを坂本が受け取る。
店員が退室したのを確認すると太田はボイスレコーダーのスイッチを入れ「さあ、話してもらいますよ」と山本に促せば、その前にとスマホを取り出し、どこかへ電話すると「あ、繋がりました」とスマホの画面が三人に見えるようにマイクなどが入れられた籠を背もたれにして置く。
『刑事さん、も少し三人の顔が見える様にしてくれるかな』
「はい……こんなもんでどうでしょ」
『うん、見える。じゃ話をお願い』
「分かりました「ちょっと!」……はい?」
「いや、誰だよコイツは!」
太田がスマホの向こう側にいる男を指差して山本に誰何する。
「おや、ご存じない?」
「知らないから、聞いている。で、誰だよ!」
『あんた達が会いたがっていた加藤健の兄だよ』
「あ!」
「では、互いの自己紹介も済んだところで始めましょうか。っと、その前に坂本さん。何か適当に流して貰えますか?」
「え、何をです?」
「何って、ここはカラオケボックスですよ。曲が流れていないと不自然でしょ」
「はぁ」
坂本は山本の言葉におじさん三人が密室にいる方が余程不自然ではと思ったが、それを口には出さずに適当な流行歌を選び流せば、山本は「知らない曲ですね」と言う。
「メンツが揃ったのなら、本題に入って貰えないか」
「あ、そうですね。そちらも準備はいいですか?」
『ああ、バッチリだ』
「では……」
太田が痺れを切らした様子で山本に話すように促せば、山本は持っていた資料をテーブルの上に広げる。
「おい、これって……」
「捜査資料という物ですね」
「マジか!」
「マジです」
太田はテーブルの上に広げられた捜査資料を一つずつ手に取りしっかりと目を通す。
「太田さん?」
「待て! もう少しで見終わるから!」
「そんなことしなくても写真に撮ればいいでしょ」
「え? いや、しかし……」
太田は山本の言葉に自分の耳を疑うが、山本は構わないといった様子で「さ、どうぞ」と太田が撮りやすいように資料を並べる。
『フハハ! やっぱあんた変わってるよ』
「そうですかね。撮り終わったら教えてくださいね」
「あ、ああ……」
太田は山本の気が変わらない内にと急いでスマホに納めていくが山本に「慌ててブレたら後で確認しづらいですよ」と太田は気が削がれ、改めて最初から撮り直していく。
「終わったよ」
「そうですか。あ、言わなくても分かっていると思いますが……」
「ああ、他のには見せないよ」
「あ、いえ。そうじゃなくてですね、太田さんが必要と思ったら見せても構いませんからって言おうと思いまして」
「はい? 俺の聞き間違いか?」
「いいえ。確かに太田さんの判断に任せますと言いましたよ」
山本の言葉をすんなりと呑み込むことが出来ない太田は坂本に対し確認する。
「……なあ、後でお縄になるってことはないよな?」
「えっと、諦めてください」
「やっぱり、罠か……」
「あ、そうじゃなくて……山本さんを理解することを諦めてくださいってことです」
『確かにな』
「……そうみたいだな」
太田は坂本の言葉に罠に嵌められたと思ったが、坂本の説明からそんなことはしないと山本だからと言えばスマホの向こう側の加藤兄も納得し笑ったのを見て太田も認めるしか無い。
「あれ、ひょっとして私の悪口言ってますか?」
「はい」
山本が坂本に対し、そう言うと坂本も了承し近くのコインパーキングに車を停める。
「で、どこに行くんですか?」
「近くですから。ほら、すぐそこですよ」と山本はそう言って、ビルを指差す。
坂本はビルに掲げられている看板から目的地がカラオケボックスであることは理解したが、なぜカラオケボックスなのか理由が分からず、戸惑い山本に質問をぶつければ「だって、静かでしょ」と言われる。
「静か? 五月蠅いの間違いじゃ」
「そりゃ、歌えばの話です。歌わないのなら、防音設備が整った密室じゃないですか」
「あぁ」
「納得出来ました? では、相手を待たせていると思うので」
「はい」
カラオケボックスに入るとカウンターの中にいる店員が山本に軽くお辞儀をすると同時に「もう、案内してあります」とだけ言えば、山本も軽く手を挙げ「ありがとう」と礼を言う。
坂本は山本の後ろから黙って着いて歩きエレベーターに乗り込んだところで「彼もお友達のひとりなんですか」と山本に尋ねれば「ええ」と短く答える。
エレベーターから降りるとある部屋の前に立ち、軽くノックをしてから山本が扉を開ければ、そこには先程電話で約束した太田が座っていた。
太田は山本達に気付くとソファから立ち上がろうとするが、山本はそれを制して「話の前に飲み物を頼みましょう」とメニューを広げる。
「アルコールはお互いに控えるとして……坂本さんは何にしますか?」
「コーヒーを」
「俺もそれで」
「分かりました。あ、コーヒーを三つお願いします」
山本は壁に取り付けてある電話機から受話器を持ち上げると、手短に注文を済ませソファに座る。
「で、なんでここなんだ?」
「まあ、先ずは飲み物が来てからにしましょう。その方が、話を中断される心配もありませんし」
「……分かったよ」
太田は山本から何かを聞けるかもと期待して来たのに、その山本が中々口を開かないことに少しイラッとするが、大人しく飲み物を待つ。
「お待たせしました」と部屋の扉がノックされ、先程の店員からコーヒーを載せたトレイを坂本が受け取る。
店員が退室したのを確認すると太田はボイスレコーダーのスイッチを入れ「さあ、話してもらいますよ」と山本に促せば、その前にとスマホを取り出し、どこかへ電話すると「あ、繋がりました」とスマホの画面が三人に見えるようにマイクなどが入れられた籠を背もたれにして置く。
『刑事さん、も少し三人の顔が見える様にしてくれるかな』
「はい……こんなもんでどうでしょ」
『うん、見える。じゃ話をお願い』
「分かりました「ちょっと!」……はい?」
「いや、誰だよコイツは!」
太田がスマホの向こう側にいる男を指差して山本に誰何する。
「おや、ご存じない?」
「知らないから、聞いている。で、誰だよ!」
『あんた達が会いたがっていた加藤健の兄だよ』
「あ!」
「では、互いの自己紹介も済んだところで始めましょうか。っと、その前に坂本さん。何か適当に流して貰えますか?」
「え、何をです?」
「何って、ここはカラオケボックスですよ。曲が流れていないと不自然でしょ」
「はぁ」
坂本は山本の言葉におじさん三人が密室にいる方が余程不自然ではと思ったが、それを口には出さずに適当な流行歌を選び流せば、山本は「知らない曲ですね」と言う。
「メンツが揃ったのなら、本題に入って貰えないか」
「あ、そうですね。そちらも準備はいいですか?」
『ああ、バッチリだ』
「では……」
太田が痺れを切らした様子で山本に話すように促せば、山本は持っていた資料をテーブルの上に広げる。
「おい、これって……」
「捜査資料という物ですね」
「マジか!」
「マジです」
太田はテーブルの上に広げられた捜査資料を一つずつ手に取りしっかりと目を通す。
「太田さん?」
「待て! もう少しで見終わるから!」
「そんなことしなくても写真に撮ればいいでしょ」
「え? いや、しかし……」
太田は山本の言葉に自分の耳を疑うが、山本は構わないといった様子で「さ、どうぞ」と太田が撮りやすいように資料を並べる。
『フハハ! やっぱあんた変わってるよ』
「そうですかね。撮り終わったら教えてくださいね」
「あ、ああ……」
太田は山本の気が変わらない内にと急いでスマホに納めていくが山本に「慌ててブレたら後で確認しづらいですよ」と太田は気が削がれ、改めて最初から撮り直していく。
「終わったよ」
「そうですか。あ、言わなくても分かっていると思いますが……」
「ああ、他のには見せないよ」
「あ、いえ。そうじゃなくてですね、太田さんが必要と思ったら見せても構いませんからって言おうと思いまして」
「はい? 俺の聞き間違いか?」
「いいえ。確かに太田さんの判断に任せますと言いましたよ」
山本の言葉をすんなりと呑み込むことが出来ない太田は坂本に対し確認する。
「……なあ、後でお縄になるってことはないよな?」
「えっと、諦めてください」
「やっぱり、罠か……」
「あ、そうじゃなくて……山本さんを理解することを諦めてくださいってことです」
『確かにな』
「……そうみたいだな」
太田は坂本の言葉に罠に嵌められたと思ったが、坂本の説明からそんなことはしないと山本だからと言えばスマホの向こう側の加藤兄も納得し笑ったのを見て太田も認めるしか無い。
「あれ、ひょっとして私の悪口言ってますか?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
虹の橋とその番人 〜交通総務課・中山小雪の事件簿〜
ふるは ゆう
ミステリー
交通総務課の中山小雪はひょんなことから事件に関わることになってしまう・・・無駄なイケメン、サイバーセキュリティの赤羽涼との恋模様もからんで、さて、さて、その結末やいかに?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる