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第二章 権力
第五話 依頼
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「で、なんの用ですか?」
「いきなりですね」
「山本さん、大丈夫なんですか?」
科捜研にとやって来た二人は歓迎されることなく主任と呼ばれる階級の女性が山本達の顔を面白く無さそうに一瞥すると、にべもない態度で山本と相対する。
坂本は山本と相対する白衣に身を包み、細目の銀縁フレームの奥から山本を睨み付けている切れ長の細目の女性を「綺麗なんだろうけど、ちょっと残念な感じかな」と心の中で思っていると、そんな坂本の視線に気付いたのか、女性にキッと睨まれる。
「ふぅ~それにしても相変わらずですね。佐藤さん」
「ふん! ええ、お久しぶりですね。出来れば、一生会いたくなかったのですが山本さん」
「まあまあ、そう言わずにちょっと観て頂きたい物がありましてね。これなんですけど」
「まだ、観るともなんとも言ってませんが?」
「おや、そうでしたか?」
「ええ、なのでお引き取り願えますか?」
「そうですか……ここでもダメとなると困りましたね。あぁ~そうなるとまた民間の方にお願いするしかないのか~でも、そうすると天下の科捜研様で見付けられなかったとまた世間に知らしめることになるのかぁ~あぁ残念だなぁ~」
「ぐっ……」
山本が佐藤にお願いしたいことがあると、鑑定して欲しい資料を出そうとしたところで、佐藤から待ったが掛けられ、佐藤は早く帰れとばかりに腕を組み顎で出口の方を指し示す。すると山本は「そうですか」とぼやきながらもいかにも佐藤が依頼を受けないせいで民間の鑑定業者に手柄を取られるどころか、科捜研ではこんな簡単な鑑定も出来ないと風評が広がるであろうと口にすれば、佐藤は組んでいた腕を下に下ろし思わず両拳をギュッと握りしめ、その口元は血が出るのではないかというくらいに下唇を噛んで悔しそうにしているのが坂本の目にもハッキリと映る。
「では、坂本さん。受け付けてもらえなさそうなのでお暇しましょうか」
「え? いいんですか?」
「いいも何もヤル気がないというのですから、こんな所にいるだけ時間の無駄です。なので、さっさと行きましょう」
「でも「待ちなさい!」……ほら」
「待ちません。行きましょう」
「待て!」
「もう、なんですか?」
「ソレを置いて行きなさい!」
「ダメですよ」
「は? 調べて欲しいんでしょ! なら、黙って置いて行きなさいよ!」
「おや? 先程は私からの依頼は受け付けないと仰ってましたが? 私の気のせいでしょうか?」
「ぐ……べ、別にあなたからの依頼じゃないわよ! そこの若い方に言ってるの!」
「若い? 佐藤さんからすれば私も若いと言えるのですが?」
「そこは黙って流しなさいよ! いいから、そっちの……え~と名前は?」
「あ、はい。坂本と言います」
いきなり流れ弾を喰らった坂本はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出し、その中の一枚を両手で持つと佐藤の前に差し出す。
「坂本……坂本……あ! あの坂本さん!」
「はい?」
「そうですね。どの坂本を言っているか分かりませんが、多分、考えている坂本さんで合っていますよ」
「じゃあ、やっぱりあの噂も本当だったんだ……」
佐藤は坂本の名刺を見るなり、少し前に二人が解決した冤罪事件に思い当たったのか手の中の名刺と山本と坂本の二人の間を言ったり来たりしている。
「では、気が変わらない内に坂本さん。資料と説明をお願いします」
「え? 私がですか?」
「はい、お願いします」
「来なさい」
坂本から受け取った名刺を胸ポケットにしまった佐藤が二人を自分の部屋へと案内する。
「で、調べて欲しいってのは何?」
「コレなんですが……」
「え? コレ?」
「はい。お願いします」
「えっと、言っちゃ悪いけど、コレに調べる価値があるの?」
坂本が調べて欲しい捜査資料を並べ佐藤に説明したところで、佐藤は頭の中にクエスチョンマークをいっぱい並べながら、そんな言葉を口にすると、山本が右手を軽く上げ「喋っても?」と佐藤に断ると、佐藤もフンと鼻を鳴らした後に「いいわよ。話して」と促す。
「では、いいですか。佐藤さんも仰るように誰が見てもおかしいんですけど、所轄の鑑識ではこれは『二人の足跡』だと鑑定済みです」
「えぇ!」
「ですから、『天下の科捜研様』にソレが間違いだとお墨付きを頂きたいと、はい。そういう次第です」
「お願いします」
「ハァ~なるほどね。要はこれも冤罪の臭いがプンプンするって訳ね」
「そういうことですね」
「お願い出来ますか?」
山本が持って来たのは如何にもな訳有り物件だが、コレをそのままスルーしてもいいことはないと佐藤は考えるが、コレを再鑑定することで所轄だけでなく事件を隠蔽したいと考えている輩とも相対することになり、二つを天秤に掛けた結果、自分の正義感と山本に対し少しだけ意趣返しというか恩に着せることも出来るだろうと考え、依頼を受けることにした。
「いい? 貸しだからね」
「貸しですか」
「そうよ。分かった?」
「だそうですよ、坂本さん」
「え? 私ですか?」
「だって、私からの依頼は受けないと言われたので」
「いや、確かにそうですけど……」
「フン! 別にどっちでもいいわよ。それより、用が済んだのならさっさと帰りなさいよ!」
「そうですね。では……あ! で、結果はいつ出ますか?」
「……今日と言いたいけど、明日。明日の昼前に来なさい。ちゃんと一式揃えて渡すわ」
「分かりました。では、明日」
「よろしくお願いします」
「はいはい、じゃあね」
佐藤は二人を追い立てるように自室から出すと、改めて手元の資料を眺める。
「まったく面倒なことを持ち込むんだから……でも、面白いじゃないの。こうなりゃ、文句が出ないくらいに完璧に仕上げてやろうじゃないの! 見てなさいよ。この世に私がいる限り悪が栄えることはないのよ!」
「あ~」
「あ……ほら、ちゃんとノックしないから」
佐藤がテーブルに足を掛け、右手で天を突くようにポーズを決めていたところでドアを開けたまま目がテンになっている山本と坂本と目が合う。
「「……失礼しました」」
「……」
「いきなりですね」
「山本さん、大丈夫なんですか?」
科捜研にとやって来た二人は歓迎されることなく主任と呼ばれる階級の女性が山本達の顔を面白く無さそうに一瞥すると、にべもない態度で山本と相対する。
坂本は山本と相対する白衣に身を包み、細目の銀縁フレームの奥から山本を睨み付けている切れ長の細目の女性を「綺麗なんだろうけど、ちょっと残念な感じかな」と心の中で思っていると、そんな坂本の視線に気付いたのか、女性にキッと睨まれる。
「ふぅ~それにしても相変わらずですね。佐藤さん」
「ふん! ええ、お久しぶりですね。出来れば、一生会いたくなかったのですが山本さん」
「まあまあ、そう言わずにちょっと観て頂きたい物がありましてね。これなんですけど」
「まだ、観るともなんとも言ってませんが?」
「おや、そうでしたか?」
「ええ、なのでお引き取り願えますか?」
「そうですか……ここでもダメとなると困りましたね。あぁ~そうなるとまた民間の方にお願いするしかないのか~でも、そうすると天下の科捜研様で見付けられなかったとまた世間に知らしめることになるのかぁ~あぁ残念だなぁ~」
「ぐっ……」
山本が佐藤にお願いしたいことがあると、鑑定して欲しい資料を出そうとしたところで、佐藤から待ったが掛けられ、佐藤は早く帰れとばかりに腕を組み顎で出口の方を指し示す。すると山本は「そうですか」とぼやきながらもいかにも佐藤が依頼を受けないせいで民間の鑑定業者に手柄を取られるどころか、科捜研ではこんな簡単な鑑定も出来ないと風評が広がるであろうと口にすれば、佐藤は組んでいた腕を下に下ろし思わず両拳をギュッと握りしめ、その口元は血が出るのではないかというくらいに下唇を噛んで悔しそうにしているのが坂本の目にもハッキリと映る。
「では、坂本さん。受け付けてもらえなさそうなのでお暇しましょうか」
「え? いいんですか?」
「いいも何もヤル気がないというのですから、こんな所にいるだけ時間の無駄です。なので、さっさと行きましょう」
「でも「待ちなさい!」……ほら」
「待ちません。行きましょう」
「待て!」
「もう、なんですか?」
「ソレを置いて行きなさい!」
「ダメですよ」
「は? 調べて欲しいんでしょ! なら、黙って置いて行きなさいよ!」
「おや? 先程は私からの依頼は受け付けないと仰ってましたが? 私の気のせいでしょうか?」
「ぐ……べ、別にあなたからの依頼じゃないわよ! そこの若い方に言ってるの!」
「若い? 佐藤さんからすれば私も若いと言えるのですが?」
「そこは黙って流しなさいよ! いいから、そっちの……え~と名前は?」
「あ、はい。坂本と言います」
いきなり流れ弾を喰らった坂本はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出し、その中の一枚を両手で持つと佐藤の前に差し出す。
「坂本……坂本……あ! あの坂本さん!」
「はい?」
「そうですね。どの坂本を言っているか分かりませんが、多分、考えている坂本さんで合っていますよ」
「じゃあ、やっぱりあの噂も本当だったんだ……」
佐藤は坂本の名刺を見るなり、少し前に二人が解決した冤罪事件に思い当たったのか手の中の名刺と山本と坂本の二人の間を言ったり来たりしている。
「では、気が変わらない内に坂本さん。資料と説明をお願いします」
「え? 私がですか?」
「はい、お願いします」
「来なさい」
坂本から受け取った名刺を胸ポケットにしまった佐藤が二人を自分の部屋へと案内する。
「で、調べて欲しいってのは何?」
「コレなんですが……」
「え? コレ?」
「はい。お願いします」
「えっと、言っちゃ悪いけど、コレに調べる価値があるの?」
坂本が調べて欲しい捜査資料を並べ佐藤に説明したところで、佐藤は頭の中にクエスチョンマークをいっぱい並べながら、そんな言葉を口にすると、山本が右手を軽く上げ「喋っても?」と佐藤に断ると、佐藤もフンと鼻を鳴らした後に「いいわよ。話して」と促す。
「では、いいですか。佐藤さんも仰るように誰が見てもおかしいんですけど、所轄の鑑識ではこれは『二人の足跡』だと鑑定済みです」
「えぇ!」
「ですから、『天下の科捜研様』にソレが間違いだとお墨付きを頂きたいと、はい。そういう次第です」
「お願いします」
「ハァ~なるほどね。要はこれも冤罪の臭いがプンプンするって訳ね」
「そういうことですね」
「お願い出来ますか?」
山本が持って来たのは如何にもな訳有り物件だが、コレをそのままスルーしてもいいことはないと佐藤は考えるが、コレを再鑑定することで所轄だけでなく事件を隠蔽したいと考えている輩とも相対することになり、二つを天秤に掛けた結果、自分の正義感と山本に対し少しだけ意趣返しというか恩に着せることも出来るだろうと考え、依頼を受けることにした。
「いい? 貸しだからね」
「貸しですか」
「そうよ。分かった?」
「だそうですよ、坂本さん」
「え? 私ですか?」
「だって、私からの依頼は受けないと言われたので」
「いや、確かにそうですけど……」
「フン! 別にどっちでもいいわよ。それより、用が済んだのならさっさと帰りなさいよ!」
「そうですね。では……あ! で、結果はいつ出ますか?」
「……今日と言いたいけど、明日。明日の昼前に来なさい。ちゃんと一式揃えて渡すわ」
「分かりました。では、明日」
「よろしくお願いします」
「はいはい、じゃあね」
佐藤は二人を追い立てるように自室から出すと、改めて手元の資料を眺める。
「まったく面倒なことを持ち込むんだから……でも、面白いじゃないの。こうなりゃ、文句が出ないくらいに完璧に仕上げてやろうじゃないの! 見てなさいよ。この世に私がいる限り悪が栄えることはないのよ!」
「あ~」
「あ……ほら、ちゃんとノックしないから」
佐藤がテーブルに足を掛け、右手で天を突くようにポーズを決めていたところでドアを開けたまま目がテンになっている山本と坂本と目が合う。
「「……失礼しました」」
「……」
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