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第二章 権力
第三話 家族
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翌朝、いつもの様に資料室で捜査資料を確認している山本だったが「やはり、これは……」と呟くのを聞き、坂本が「どうしました?」と山本が読んでいる捜査資料を横から覗き込む。
「ほら、これ……ね、ヤバいでしょ」
「あ~確かに。これはマズいですね」
山本が読んでいたのは捜査資料の被害者の家族構成の欄で、そこには被害者の父である宇都宮隆の勤務先が書かれていた。そして、それを見た山本は思わず唸ってしまったのだ。
「山本さん、これって……そういうことなんですよね」
「そうですね。そうなりますよね。これは困りましたね」
「おう、持って来たぞ。って、何かあったか?」
「主任、いいところに。どうでしたか?」
「ああ、お前の読み通りだな。ほら」
資料室に入ってきた捜査一課主任が山本達の前に山本に頼まれていた資料を机の上に広げる。そこには西村一家の家族構成が書かれており、『次男 西村勇二 十五歳 市立中学卒業』と書かれていたのだ。
「ビンゴですか?」
「そう、思えますが……もう少し検証しないと難しいですね」
「で、お前達が難しい顔していたのは何が理由なんだ?」
「あ~それはこれです」
「ん?」
捜査一課主任は山本達が何に対し難しい顔をしていたのかと確認すれば、山本は捜査資料の被害者の父親の欄を指す。
「父親の勤務先か。なになに、『西村不動産勤務』……って、おい!」
「はい。もし、被疑者が加藤健ではなく、その次男である場合は色々と難しくなるのでしょうね」
「……父親としては、例え犯人が違うと分かっていても自分の家族を守る為には偽証すら厭わないか」
「そう……でしょうね」
「じゃあ、本当の被疑者を地域ぐるみで庇っていることになるんですか」
「簡単に言えば、そういうことかも知れません。だから、ここは慎重に一つずつ証拠を積み重ねないと、途中で横槍が入るかも知れませんね」
「また、そんな難しいことを」
「なら、止めますか?」
「いいえ、止めません! これで冤罪の可能性がグンと高くなった訳でしょ。止められる訳ないじゃないですか! 冤罪の苦しみは誰より分かっているんですから」
「「……」」
「ふぅ~」と捜査一課主任は溜め息を吐くと山本達に「一つ良くない知らせがある」と言う。
「あ~その感じは早速横槍が入りましたか」
「察しがいいな。まあ、そんなところだ。上に呼び出されてな、やんわりと『余計なことをするな』と釘を刺されたよ」
「因みにそれはどこから?」
「まあ、考えられるのは、あの地区から選出された議員達だろうな」
「「達?」」
「ああ、国会に都議会、市議の面々が言ってきたそうだ」
「それって……」
「ああ、そうだな。見るヤツが見れば肯定しているのも同じだ。まあ、あっちも『それでやれるモノならやってみろ』とでも思っているんだろうな」
「で、そのお鉢を私達に回して来たってことは、主任もそう思っていたということですか」
「その辺はご想像にお任せするとしてだ。俺は、ここで戦線撤退だ。悪いな」
「じゃあな」と捜査一課主任は資料室から出て行くと山本は坂本と顔を合わせて嘆息する。
「主任はどこで、ヤバいと思っていたんでしょうね」
「そうですね。多分、資料の改竄を感じたからなんでしょうね」
「改竄って、あ~足跡とか」
「それだけではないと思いますが、見る人が見ればおかしな点が幾つも上がって来るのですから、黙っていられなかったんでしょう」
「でも、それで私達に任せるのは……」
「ふふふ、それは私達が出世を望んでいないからこそでしょう」
「あ~」
二人は机の上の捜査資料を片付けると、今日の目的である被害者の親に会いに行くために車に乗り込む。
「ここですね」
「運転、お疲れ様」
「そうですよ。都内とは言っても、遠いですよね」
「まあ、そう言わずに……えっと」
「こっちにもマスコミの連中はいなさそうですね」
「ええ。どうやらちゃんと言うことを聞いてくれているみたいですね」
山本は坂本に対しお礼を言って、目的である宇都宮家の周辺の様子を確認すればマスコミと思われる人影は見られなかった。
「後はご在宅かどうかだけど……」
「とりあえず、押してみますか」
「そうですね。ここで問答していてもしょうがないですし」
「じゃ、押します」
坂本が山本に断ってから玄関横の呼び鈴を押すと『ピンポ~ン』と鳴った後に「はい」と返事があり、カチャリと鍵を開ける音に続き、ゆっくりと玄関扉が開かれる。
「あの……」
「あ、すみません。私……こういう者です。警視庁の……山本と言います」
「同じく坂本です。少しお話をお聞かせ願えないでしょうか」
「話って……もう、お話しすることはありませんが」
「ええ、それは分かっていますが、もう少し補填したいことがありまして」
「はぁ~分かりました。こんな所ではなんですから、中へどうぞ」
「では、お邪魔させていただきます」
「お邪魔します」
家の中から現れたのは、少し疲れた様子の痩せた中年女性だった。恐らく宇都宮裕一の母親である『宇都宮 広美』であるだろう。
「どうぞ」と家の中へと案内され通されたのは、ソファが置かれた応接間だった。
「今、お茶を用意しますね」と広美が言えば「お構いなく」と山本達は口にするがそれを気にすることなくお茶の用意をしに台所へと向かう。
「話してくれますかね」
「そうですね。父親と違い、母親は関連企業に勤務してはいませんが……家族のことですからね」
「情に訴えるのはマズいですかね」
「それは家庭崩壊に繋がりかねないですよ」
「なら……」
「だから、ここはちゃんと積み重ねてから一気にいくしかないと思います」
「……なんだか、もどかしいですね」
「そうですか? 十年も我慢していたのに比べればそうでもないでしょ」
「いや、それとこれとは「お待たせしました」……あ、はい」
広美がお茶を用意してくれたのにお礼を言い、お茶を口に含んでから山本が話しかける。
「今日、お伺いしたのは……」
「ほら、これ……ね、ヤバいでしょ」
「あ~確かに。これはマズいですね」
山本が読んでいたのは捜査資料の被害者の家族構成の欄で、そこには被害者の父である宇都宮隆の勤務先が書かれていた。そして、それを見た山本は思わず唸ってしまったのだ。
「山本さん、これって……そういうことなんですよね」
「そうですね。そうなりますよね。これは困りましたね」
「おう、持って来たぞ。って、何かあったか?」
「主任、いいところに。どうでしたか?」
「ああ、お前の読み通りだな。ほら」
資料室に入ってきた捜査一課主任が山本達の前に山本に頼まれていた資料を机の上に広げる。そこには西村一家の家族構成が書かれており、『次男 西村勇二 十五歳 市立中学卒業』と書かれていたのだ。
「ビンゴですか?」
「そう、思えますが……もう少し検証しないと難しいですね」
「で、お前達が難しい顔していたのは何が理由なんだ?」
「あ~それはこれです」
「ん?」
捜査一課主任は山本達が何に対し難しい顔をしていたのかと確認すれば、山本は捜査資料の被害者の父親の欄を指す。
「父親の勤務先か。なになに、『西村不動産勤務』……って、おい!」
「はい。もし、被疑者が加藤健ではなく、その次男である場合は色々と難しくなるのでしょうね」
「……父親としては、例え犯人が違うと分かっていても自分の家族を守る為には偽証すら厭わないか」
「そう……でしょうね」
「じゃあ、本当の被疑者を地域ぐるみで庇っていることになるんですか」
「簡単に言えば、そういうことかも知れません。だから、ここは慎重に一つずつ証拠を積み重ねないと、途中で横槍が入るかも知れませんね」
「また、そんな難しいことを」
「なら、止めますか?」
「いいえ、止めません! これで冤罪の可能性がグンと高くなった訳でしょ。止められる訳ないじゃないですか! 冤罪の苦しみは誰より分かっているんですから」
「「……」」
「ふぅ~」と捜査一課主任は溜め息を吐くと山本達に「一つ良くない知らせがある」と言う。
「あ~その感じは早速横槍が入りましたか」
「察しがいいな。まあ、そんなところだ。上に呼び出されてな、やんわりと『余計なことをするな』と釘を刺されたよ」
「因みにそれはどこから?」
「まあ、考えられるのは、あの地区から選出された議員達だろうな」
「「達?」」
「ああ、国会に都議会、市議の面々が言ってきたそうだ」
「それって……」
「ああ、そうだな。見るヤツが見れば肯定しているのも同じだ。まあ、あっちも『それでやれるモノならやってみろ』とでも思っているんだろうな」
「で、そのお鉢を私達に回して来たってことは、主任もそう思っていたということですか」
「その辺はご想像にお任せするとしてだ。俺は、ここで戦線撤退だ。悪いな」
「じゃあな」と捜査一課主任は資料室から出て行くと山本は坂本と顔を合わせて嘆息する。
「主任はどこで、ヤバいと思っていたんでしょうね」
「そうですね。多分、資料の改竄を感じたからなんでしょうね」
「改竄って、あ~足跡とか」
「それだけではないと思いますが、見る人が見ればおかしな点が幾つも上がって来るのですから、黙っていられなかったんでしょう」
「でも、それで私達に任せるのは……」
「ふふふ、それは私達が出世を望んでいないからこそでしょう」
「あ~」
二人は机の上の捜査資料を片付けると、今日の目的である被害者の親に会いに行くために車に乗り込む。
「ここですね」
「運転、お疲れ様」
「そうですよ。都内とは言っても、遠いですよね」
「まあ、そう言わずに……えっと」
「こっちにもマスコミの連中はいなさそうですね」
「ええ。どうやらちゃんと言うことを聞いてくれているみたいですね」
山本は坂本に対しお礼を言って、目的である宇都宮家の周辺の様子を確認すればマスコミと思われる人影は見られなかった。
「後はご在宅かどうかだけど……」
「とりあえず、押してみますか」
「そうですね。ここで問答していてもしょうがないですし」
「じゃ、押します」
坂本が山本に断ってから玄関横の呼び鈴を押すと『ピンポ~ン』と鳴った後に「はい」と返事があり、カチャリと鍵を開ける音に続き、ゆっくりと玄関扉が開かれる。
「あの……」
「あ、すみません。私……こういう者です。警視庁の……山本と言います」
「同じく坂本です。少しお話をお聞かせ願えないでしょうか」
「話って……もう、お話しすることはありませんが」
「ええ、それは分かっていますが、もう少し補填したいことがありまして」
「はぁ~分かりました。こんな所ではなんですから、中へどうぞ」
「では、お邪魔させていただきます」
「お邪魔します」
家の中から現れたのは、少し疲れた様子の痩せた中年女性だった。恐らく宇都宮裕一の母親である『宇都宮 広美』であるだろう。
「どうぞ」と家の中へと案内され通されたのは、ソファが置かれた応接間だった。
「今、お茶を用意しますね」と広美が言えば「お構いなく」と山本達は口にするがそれを気にすることなくお茶の用意をしに台所へと向かう。
「話してくれますかね」
「そうですね。父親と違い、母親は関連企業に勤務してはいませんが……家族のことですからね」
「情に訴えるのはマズいですかね」
「それは家庭崩壊に繋がりかねないですよ」
「なら……」
「だから、ここはちゃんと積み重ねてから一気にいくしかないと思います」
「……なんだか、もどかしいですね」
「そうですか? 十年も我慢していたのに比べればそうでもないでしょ」
「いや、それとこれとは「お待たせしました」……あ、はい」
広美がお茶を用意してくれたのにお礼を言い、お茶を口に含んでから山本が話しかける。
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