上 下
6 / 13
第一章 ようこそ異世界へ

第六話 知りたい! 魔法のこと

しおりを挟む
「ふふふ、ではあちらの方へ行きましょうか」
「うん!」

 ジュリが指差した先には庭園内に用意された休憩所『ガゼボ』である。和風であれば東屋であろうか、その建物は塔の上部の様な形をしており、少し段差を付けた高台の上に立てられている。そして、その下には大人六人が輪になって座れるように椅子が用意されており、中央には小さなテーブルが用意されていた。

 ジュリはラフィを一つの椅子に座らせると、自身も近くの椅子に座り「いいですか」と前置きをしてから話し始める。

「私も一般教養としての知識しかありませんので、私が言うことが全てではないと言うことは了承してもらえますか」
「うん、いいよ。それでそれで!」
「ふぅ~ホントに魔法が見たいんですね。では、ケガしないように『ウォーター』からお見せしますね」
「うん!」
「では……『ウォーター』……と、こんな感じですが……どうでしょうかガッカリされました?」
「あ……そんなことはないよ」

 ジュリは両手で掬うような形にすると『ウォーター』を唱えると、その両手の平からちょろちょろと水が溢れ出す。だが、それは本当に水が手の平から溢れ出るだけで、ドバッとかいう感じでもなくちょろちょろとしか出てこないのを見てラフィがガッカリしていたように見えたのでジュリも申し訳なさそうにしている。

「ラフィ様、これは生活魔法の一部です。なのでラフィ様が思われているような敵や魔物を攻撃出来る威力はありません。期待させてしまいましたね」
「そ、そんなことはないよ。でもさ、その生活魔法って誰でも使えるの?」
「ふふふ、興味津々ですね」
「だって、魔法だよ!」
「まあ、そうですよね。中には適正がないと魔法を使えない人もいるのですから」
「え? じゃあ、そういう人はその生活魔法も使えないってことなの?」
「ええ、そうなります。ご心配ですか?」
「ちょっと……」
「ふふふ、その辺りはご心配は不要だと思いますよ。なんせ伯爵家なんですから」
「ん? それはどういうことなの?」
「まだ、伯爵様からはお聞きになっていないのですか?」
「えっと、まだ教えてもらってないけど……」
「そうなのですね。では、僭越ながら私から……」
「うん!」
「ふふふ、いいですか……」

 魔法に興味津々なラフィに対しジュリはゆっくりと話し始める。まず、ラフィの生家でもある『ティグリア伯爵家』は代々魔法使いを輩出してきた家柄であることから、ラフィが魔法を使えないということはないだろうと言うことだったが、ラフィは魔法神とも言うべきサリアの加護持ちなので『魔法を使える』ことは確信しているので魔法を使えるかどうかの心配はしていない。ただ一般教養として知っておくべきだろうとジュリの話を黙って聞いている。

「そして生活魔法についてですが……」

 続いてジュリは生活魔法について話し始める。ジュリが説明してくれたのは生活魔法を覚えるにはまず教会に行き対価を払い、その場で司祭から生活魔法を授けて貰うという。だが、ここで魔法に対し適正がない場合は生活魔法を覚えることは出来ない。しかも払った対価を返してもらうことも出来ずにそのまま帰される。従って対価を惜しむ人は生活魔法を覚えたいが『もし使えなかったら』という思いが拭えないため、生活水準が低い一般家庭では生活魔法を取得するまでのハードルが高くなってしまう。だが、ジュリのように貴族家に侍女として働く場合は、勤め先の貴族が対価を支払い生活魔法を授けさせる場合が殆どだと言う。なぜならば、生活魔法が使えるか否かで家事の出来具合が左右されるかららしい。それに『貴族の義務ノブレス・オブリージュ』としても当然だということも関係している。

「じゃあ、他の魔法はどうなの?」
「他の魔法と言うと攻撃系とかですか」
「そう、ソレ!」
「ふふふ、それはですね……」

 ラフィが生活魔法以外の魔法はどうやって覚えるのかとジュリに問い掛けると、ジュリが話し出す。曰く魔法は産まれた時に持っている場合もあるが、持っていない場合には『スクロール』を取得することで覚えると。では、そのスクロールとはとなり、続けて説明されたのはそのスクロールを広げて読み取ることで魔法を覚え、スクロールは消失する。だが、ここでも魔法適正がない場合はただスクロールが消失するだけである。では、そのスクロールはどこで入手されるのかと言えば、魔法ギルドで売り買いされているらしい。

 魔法の種類、属性としては『水』『火』『土』『風』『光』『闇』『時空』の七つがあるが、時空魔法は既に遺失した魔法なため、現時点での使用者は誰もいない。また聖属性でもある光魔法の使い手は光魔法が使えると判明した時点で教会へと招聘される為、教会所属者以外での使用は基本認められていないことになる。また、闇魔法も呪術などに使用される為、例え持っていたとしても口外することはないと言われている。

 では、スクロールとは何かと言うとその魔法を所持している者が、魔法紙と呼ばれるスクロール専用の紙に特殊なインクを用いて自身が持つ魔法を魔法陣へと書き写す。そして、そのスクロールに書かれた魔法陣を読み取ることで脳内へと魔法陣が転写され、その魔法が使えるようになると説明された。

「へ~魔法を覚えるにも大変なんだね」
「そうですよ。ですが、火球ファイアボールの様な初歩的な魔法は安価で買えますが、それ以上に威力や効果を高めたい場合には更に高価なスクロールが必要となります。ですから、冒険者の間ではダンジョンの中でスクロールを見つけようとする者もたくさんいるそうです」
「え? ダンジョン?」
「はい、ダンジョンです。あら、また興味があるようですね」
「うん!」
「ふふふ、残念ですが時間切れの様です」
「え?」

 ジュリの視線の先にはラミリアが立っており、ラフィに向かって手招きをしていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...