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第三章 旅の始まり

第五話 コワいしオモい

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 俺もタロとアオイを追って食堂へ行こうとすると「どこへ行く」とエミリーさんに引き留められる。

「どこって、食堂でしょ?」
「私みたいな立場の者が食堂に行ってみろ。どうなると思う?」
「どうなるって……あ~そういうことか。面倒な」
「分かったか。だから、お前の分もここに用意してやるから、話の続きを聞かせてくれ」
「はいはい、分かりました。ふぅ~」

 エミリーさんの言うように会社の社員食堂に突然、社長が現れたら緊張して食事どころじゃなくなるだろう。だから、エミリーさんは食堂に向かうことはしないで、ここで済ませているらしい。

「ちょっと、待ってろ」
「はい」

 エミリーさんは部屋の扉を開けると、近くにいた職員の人にお昼を二人分用意するように伝えると、ソファへと戻ってくる。

 そして、座る時に前に垂れてきた髪を掻き上げ耳の後ろへと回す。会った時も髪を掻き上げていて、その時に思ったんだけど耳が長い。それも横に。テンプレ通りのエルフだと上が尖った大きな耳が一般的だったけど、たまに横に長く尖った耳というタイプのエルフも出て来たなとエミリーさんの耳を見ながら思っていると「これが気になるか」とエミリーさんに聞かれたのでコクリと頷く。

「ふふふ、そうだ。お前が想像している通り私はエルフだ。触ってみるか?」
「え? いいの?」
「ああ、気になるのだろう。いいぞ」
「じゃあ……」

 エミリーさんがいいと言うので、ならとソッと手を伸ばしたところで、不意に思い出す。種族に因っては、その種族の特徴を示す部分を触るのは『求愛プロポーズ』の意味があるということを。獣人族の『耳』と『シッポ』がそうであるようにエルフにとって『耳』を触るのはそういうことであってもおかしくはないよなと思い、伸ばし掛けた手を引っ込める。

「ん? どうした? 触らなくていいのか? 今なら、誰もいないから触り放題だぞ、ほれ!」
「……」

 俺が手を引っ込めたものだから、エミリーさんはどうしたと聞いてくるが、その顔は俺が罠にハマるのを期待している様に口角の端が上がっている。

 俺はソレを見て確信した。やっぱりこれは罠なんだと。

「ねえ、エミリーさん。一つ聞いてもいい?」
「なんだ? 歳なら非公表だぞ」
「そんなの、結構いっているのは間違いないだろうから、興味はないよ」
「ぐぬぬ……じゃあ、なんだ?」

 エミリーさんがエルフだと分かる前から、その見た目からアラサーだろうなと思っていたので歳には興味がない。だから、ここでは種族特性のことを確認する。

「エルフの『求愛プロポーズ』ってどういう風にするの?」
「な、何を急に言い出すんだ……」
「どうしたの?」
「ど、どうもしないぞ。そ、それより、触らないでいいのか? ほらほら」
「……」

 エミリーさんは俺の質問に答えることなく、その大きな耳を俺の目の前でピコピコと動かしてアピールしてくる。

 思わず、手を伸ばし掛けたが、『』と自分に言い聞かせ、自分の右手を左手で抑えつけると「チッ」と聞こえてきた。これで確信した。

「ねえ、もしかしてだけどさ。耳を触るのが『求愛プロポーズ』なんでしょ」
「な、なんのことかな……それよりもほら、早くしないと人が来るぞ」
「……いい。怖いから」
「怖いってなんだ!」
「いや、怖すぎでしょ。なんでそんなに必死なの?」
「くっ……お前に私の気持ちが……」
「うん、分かりたくはないよ。重すぎるから」
「重いって言うなよぉ~」

 そう言ってエミリーさんはテーブルに突っ伏してしまった。まあ、冒険者ギルドのギルドマスター、しかも統轄という立場になれば、寄ってくる異性もいないだろうし、ここまでの立場になれるくらいの強さを持っているのであれば、自分より弱い相手だと我慢ならないだろう。そうなると、例えエミリーさんに好意を寄せたとしても誰もが二の足を踏むだろう。
『肯定します』

 だからと言って十二歳の俺にツバを着けるのも間違っていると思うんだけど、既に違う世界から来た二十六歳だと知られてしまっているし、エルフという長寿な種族だから俺が適齢期になるのもじっくり待っていられるという判断が出来たのだろう。
『肯定します』

「失礼します。……あの、これは?」
「えっと……」

 ワゴンに俺達の昼食を載せて部屋に入ってきたのはスージーさんが、テーブルに突っ伏して「えぐっえぐっ」と嗚咽にも似た声を発しているエミリーさんを指差してスージーさんが俺に聞いて来たので、さっきの話を微細に話す。

「あ~またですか」
「また?」
「はい。たまに有望な冒険者を見るとこうなるんです。でも、皆は引っ掛からないですけどね」
「え? 一人くらいは引っ掛かりそうだけど」
「まあ、有名ですからね。『エミリーの耳は罠だから』って」
「あ~やっぱり」
「ええ、コータさんの言う通り、エルフの人達の耳を触るのはそういう意味合いなので注意して下さいね」
「はい、ありがとうございます」
「スージー言うなよぉ~」
「はいはい、ちゃんと顔を拭いて下さいね。見られないですよ」
「だって……」
「だってじゃなくて、お昼を持って来たんですから、ほら。最初はお食事を一緒にするところからでしょ。マスターはなんでも一足飛びにことを済ませようとするから避けられるんですよ。こういうことは水も漏らさないようにミッチリと作戦を立てて挑まないとダメですよ。ソレこそ、気付いたら手足が雁字搦めで動けないくらいにしてから美味しく戴くのがオススメです」
「え? スージー、それは経験者からの助言アドバイスなのかな?」
「え? あ、違いますよ。口コミですよ。口コミですからね。あ、ほら、お昼なんでしょ。はい!」
「あ、どうも……」
「怪しい……」

 スージーさんは話はここまでとでも言うようにワゴンの上から皿を手に取ると俺に渡してくる。見た目はふんわりとした草食系な感じなのに中身が蜘蛛の様な手練手管な獰猛な肉食の女性ヒトなのかな。
『肯定します』

 おうふ……
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