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第一章 旅立ち
第二十一話 それでも友達だから
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「最悪だ……」
気付けばベッドの上で窓の外はすでに明るい。昨夜のアレはなんだったのかと考える。出来れば夢であって欲しいと。
『否定します』
「ハァ~最悪だ。お気楽に異世界を冒険したかったのにな~なんだよ使徒って……最終的には人型の何かに滅ぼされるんだろうか」
『否定します』
「そういうことはすぐに答えてくれるんだな。それで俺は具体的に何をすればいいんだ?」
『……』
「だんまりかよ。ハァ~いいよ、もう。俺は俺で好きにすればいいんだろ」
『肯定します』
まあいいかと俺は考えるのを止め体を起こしてから腕を上にあげ、「ふぁ~」と欠伸をしながら周りを見回す。すると横で真っ直ぐに伸びてヘソテンで寝ているタロが目に入る。
「ハァ~気楽でいいな、お前は……」
『クハァ~』
タロの腹を手で撫でると気持ち良さそうな声を出す。なんだか楽しくなりタロの腹を両手でぐしゃぐしゃに揉みながら「タロ、朝だぞ。起きろ!」と声を掛けるが、起きる気配がない。
『クフゥ~』
「気持ち良さそうに寝てるな。おいタロ、メシだぞ!」
『え! ご飯……どこ?』
「メシ」の一言でタロがガバッと起き上がる。
「メシはここにはない。もう朝だから起きるぞ。ほら、ベッドから降りて」
『え~もう少し寝ようよ。二度寝は気持ちいいよ~スゥ~』
「おい! 寝るなよ」
『寝てないよ~』
確かに二度寝は気持ちいいが、今日は冒険者ギルドに行くようにクリフさんに言われているんだからとタロを起こし、身支度を済ませてから部屋を出たところでメイドのお姉さんと鉢合わせる。
「コータ様、おはようございます。もう、起きられたのですね」
「はい、さっき起きたところです。お姉さんはどうして?」
「あ、いえ。私はコータ様の起こして身支度を手伝うように言われたものですから……その必要はなさそうですね」
「はい、ありがとうございます」
「……ちょっと、残念ですが」
「え?」
「いえ、この役目も他のメイドと少しばかり競って得た権利だというのに……ホントに残念です」
「はい?」
見ると両拳をギュッと握って白くなり悔しそうにしているメイドのお姉さんが少しだけ怖くなり、その場から急いで離れる。
食堂に行けばご飯を貰えるかなと思ったけど、あのテーブルに座るとまた面倒だなと思い、隣の厨房を覗くと、忙しそうに動いている料理人が目に入る。
「こりゃ無理かな?」
『お腹空いたね』
「どうしましたか?」
「あ……」
厨房の様子が忙しそうだったので声を掛けるのを諦め、引き返そうとしたところで朝食を乗せているのであろうワゴンを押しているメイドさんに声を掛けられた。
「えっと、朝ご飯が欲しくてここに来たんだけど……」
「ああ、そういうことですね。分かりました。では、食堂にてお待ち下さい」
「あ……出来れば一人で食べたいんだけどダメ?」
「ふふふ、そういうことですね。分かります。堅苦しいですものね。では、お部屋でお待ち下さい。タロ様の分と一緒にお持ちしますので」
「ありがとうございます」
『ワフッ』
「いいえ、これで一歩近付けるのですから」
「え?」
「あ、いえ。こちらのことですから」
「はぁ」
なんだろうなんとなくメイドさんの目が怖い。背筋にゾクリとくるものを感じるが、今は部屋に戻って大人しくしていようと思う。
だけど、そうは行かなかった。
「遅い!」
「えっと、なんでいるの?」
部屋のドアを開けるといきなり俺に向かって文句を飛ばしてくるのは姫さんだった。その横では専属メイドのお姉さんとクリフさんが申し訳なさそうに立っている。
「なんでって朝食のお誘いよ」
「あ~悪いけど、さっき部屋まで持って来てくれるように頼んできたところだから、ごめんね」
「はい?」
そう言って姫さんの誘いを断ると、姫さんの肩に手を回し部屋の外へとエスコートするが「ちょっと待ってよ!」と姫さんは部屋から出て行かない。
「クリフ、私もここで食べるわ」
「承知しました」
「え~」
「え~って何よ。私と食べるのがイヤなの? 友達でしょ?」
「いや、友達だけど、友達だから線引きは必要だと思うよ」
「線引きって何よ。言っとくけど、目に見えない物の話をされても分からないわよ」
「……」
「ふふふ、コータ様。今日は一緒にお食事して下さい」
「えっと、それはどういうことですか?」
「はい。聞けば、コータ様は今日から依頼で数日間留守にするとクリフさんから聞いています。ですから、ソフィア様がコータ様とお食事する機会は今を逃せば数日後になりますよね。それがソフィア様には「ちょ、ちょっと……私は……そこまでは……」……ね。こういうことですからお願いします」
そう言えば、クリフさんからリザードマンとの交渉を冒険者ギルドへ指名依頼を出すと言われていたなと思い出す。確かに地図を見ただけでも日帰りは難しいだろう。そしてそれをクリフさんから聞いた姫さんが、この機会を逃せばまた一人になるからと寂しくなったのだろう。
専属メイドのお姉さんが全部ではないけど、今も恥ずかしそうに頬を赤らめ俯いている姫さんの様子から間違ってはいないと思う。まあ、このまま突き放すのは悪手だろうな。
『肯定します』
はいはいとメッセージに返事をしながら「分かりました。朝食を一緒にどうですか?」と右手を姫さんに差し出せば、俯いていた姫さんも顔を上げ、にぱっと微笑み俺の手を取る。
「そ、そうね。コータが是非にと言うのなら、し、仕方ないわね」
「別に……」
「なに?」
「いや、ほらこんな所に立ってないで座ろう」
「うん!」
その後は終始笑顔の姫さんと一緒にクリフさんと専属メイドのお姉さんに見守られながら朝食を取り、俺とタロが『口腔洗浄』を済ませると、姫さんが興味深そうに見ていたので「やってみる?」と問い掛ければ「うん!」と言うので俺はニヤリと笑い姫さんの口を右手で押さえる。
専属メイドのお姉さんは慌てて俺を止めようとするがクリフさんはそれを笑って止めていた。なので俺は姫さんに体の力を抜いて決して暴れないようにと耳元で言うと姫さんは目を瞑り体の力を抜いて俺に預けてくる。
俺は「これは何か勘違いされているな」と思ったが、気にせずに『口腔洗浄』を姫さんに実行するといきなり口の中に大量の水が発生したものだから、姫さんも驚き目を見開く。だが、口の中で行き場のない水がどこに行くかと言えば……。
姫さんは俺に口を抑えられ鼻から水分を垂れ流し涙目になっている。専属メイドのお姉さんは姫さんのそんなあられもない姿に驚いているが、クリフさんに止められているのでどうすることも出来ない。
「タロ」
『ワフ!』
そろそろ時間だなとタロに桶を持ってきてもらうと姫さんの口元に桶を持ち上げ口を抑えていた手を離すと同時に姫さんの口から大量の水が吐かれる。
「ぜぇ~ぜぇ~死ぬかと思ったわよ! 何するのよ!」
「でも、口の中はスッキリしたよね」
「な、そんなわけ……あれ? あ、確かに……」
「ソフィア様、そんなことよりもお顔が……」
「え? 顔?」
「失礼します」
そう言って専属メイドのお姉さんは姫さんの顔をタオルでゴシゴシと拭き取っている。クリフさんは、それを見ていた俺の隣にススッと近付く。
「コータ様のお陰でお嬢様は楽しく過ごすことが出来ております。ありがとうございます」
「ははは、アレを見てもそうやってお礼を言われるとは思いませんでした」
「いえいえ、お嬢様はこれからお見舞いに向かわれる奥様のことをずっと気にして塞ぎ込んでいましたが、コータ様達と会われてから気分が高揚したようです」
「まあ、友達ですから」
「はい。お嬢様の唯一のご友人です」
気付けばベッドの上で窓の外はすでに明るい。昨夜のアレはなんだったのかと考える。出来れば夢であって欲しいと。
『否定します』
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『……』
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『肯定します』
まあいいかと俺は考えるのを止め体を起こしてから腕を上にあげ、「ふぁ~」と欠伸をしながら周りを見回す。すると横で真っ直ぐに伸びてヘソテンで寝ているタロが目に入る。
「ハァ~気楽でいいな、お前は……」
『クハァ~』
タロの腹を手で撫でると気持ち良さそうな声を出す。なんだか楽しくなりタロの腹を両手でぐしゃぐしゃに揉みながら「タロ、朝だぞ。起きろ!」と声を掛けるが、起きる気配がない。
『クフゥ~』
「気持ち良さそうに寝てるな。おいタロ、メシだぞ!」
『え! ご飯……どこ?』
「メシ」の一言でタロがガバッと起き上がる。
「メシはここにはない。もう朝だから起きるぞ。ほら、ベッドから降りて」
『え~もう少し寝ようよ。二度寝は気持ちいいよ~スゥ~』
「おい! 寝るなよ」
『寝てないよ~』
確かに二度寝は気持ちいいが、今日は冒険者ギルドに行くようにクリフさんに言われているんだからとタロを起こし、身支度を済ませてから部屋を出たところでメイドのお姉さんと鉢合わせる。
「コータ様、おはようございます。もう、起きられたのですね」
「はい、さっき起きたところです。お姉さんはどうして?」
「あ、いえ。私はコータ様の起こして身支度を手伝うように言われたものですから……その必要はなさそうですね」
「はい、ありがとうございます」
「……ちょっと、残念ですが」
「え?」
「いえ、この役目も他のメイドと少しばかり競って得た権利だというのに……ホントに残念です」
「はい?」
見ると両拳をギュッと握って白くなり悔しそうにしているメイドのお姉さんが少しだけ怖くなり、その場から急いで離れる。
食堂に行けばご飯を貰えるかなと思ったけど、あのテーブルに座るとまた面倒だなと思い、隣の厨房を覗くと、忙しそうに動いている料理人が目に入る。
「こりゃ無理かな?」
『お腹空いたね』
「どうしましたか?」
「あ……」
厨房の様子が忙しそうだったので声を掛けるのを諦め、引き返そうとしたところで朝食を乗せているのであろうワゴンを押しているメイドさんに声を掛けられた。
「えっと、朝ご飯が欲しくてここに来たんだけど……」
「ああ、そういうことですね。分かりました。では、食堂にてお待ち下さい」
「あ……出来れば一人で食べたいんだけどダメ?」
「ふふふ、そういうことですね。分かります。堅苦しいですものね。では、お部屋でお待ち下さい。タロ様の分と一緒にお持ちしますので」
「ありがとうございます」
『ワフッ』
「いいえ、これで一歩近付けるのですから」
「え?」
「あ、いえ。こちらのことですから」
「はぁ」
なんだろうなんとなくメイドさんの目が怖い。背筋にゾクリとくるものを感じるが、今は部屋に戻って大人しくしていようと思う。
だけど、そうは行かなかった。
「遅い!」
「えっと、なんでいるの?」
部屋のドアを開けるといきなり俺に向かって文句を飛ばしてくるのは姫さんだった。その横では専属メイドのお姉さんとクリフさんが申し訳なさそうに立っている。
「なんでって朝食のお誘いよ」
「あ~悪いけど、さっき部屋まで持って来てくれるように頼んできたところだから、ごめんね」
「はい?」
そう言って姫さんの誘いを断ると、姫さんの肩に手を回し部屋の外へとエスコートするが「ちょっと待ってよ!」と姫さんは部屋から出て行かない。
「クリフ、私もここで食べるわ」
「承知しました」
「え~」
「え~って何よ。私と食べるのがイヤなの? 友達でしょ?」
「いや、友達だけど、友達だから線引きは必要だと思うよ」
「線引きって何よ。言っとくけど、目に見えない物の話をされても分からないわよ」
「……」
「ふふふ、コータ様。今日は一緒にお食事して下さい」
「えっと、それはどういうことですか?」
「はい。聞けば、コータ様は今日から依頼で数日間留守にするとクリフさんから聞いています。ですから、ソフィア様がコータ様とお食事する機会は今を逃せば数日後になりますよね。それがソフィア様には「ちょ、ちょっと……私は……そこまでは……」……ね。こういうことですからお願いします」
そう言えば、クリフさんからリザードマンとの交渉を冒険者ギルドへ指名依頼を出すと言われていたなと思い出す。確かに地図を見ただけでも日帰りは難しいだろう。そしてそれをクリフさんから聞いた姫さんが、この機会を逃せばまた一人になるからと寂しくなったのだろう。
専属メイドのお姉さんが全部ではないけど、今も恥ずかしそうに頬を赤らめ俯いている姫さんの様子から間違ってはいないと思う。まあ、このまま突き放すのは悪手だろうな。
『肯定します』
はいはいとメッセージに返事をしながら「分かりました。朝食を一緒にどうですか?」と右手を姫さんに差し出せば、俯いていた姫さんも顔を上げ、にぱっと微笑み俺の手を取る。
「そ、そうね。コータが是非にと言うのなら、し、仕方ないわね」
「別に……」
「なに?」
「いや、ほらこんな所に立ってないで座ろう」
「うん!」
その後は終始笑顔の姫さんと一緒にクリフさんと専属メイドのお姉さんに見守られながら朝食を取り、俺とタロが『口腔洗浄』を済ませると、姫さんが興味深そうに見ていたので「やってみる?」と問い掛ければ「うん!」と言うので俺はニヤリと笑い姫さんの口を右手で押さえる。
専属メイドのお姉さんは慌てて俺を止めようとするがクリフさんはそれを笑って止めていた。なので俺は姫さんに体の力を抜いて決して暴れないようにと耳元で言うと姫さんは目を瞑り体の力を抜いて俺に預けてくる。
俺は「これは何か勘違いされているな」と思ったが、気にせずに『口腔洗浄』を姫さんに実行するといきなり口の中に大量の水が発生したものだから、姫さんも驚き目を見開く。だが、口の中で行き場のない水がどこに行くかと言えば……。
姫さんは俺に口を抑えられ鼻から水分を垂れ流し涙目になっている。専属メイドのお姉さんは姫さんのそんなあられもない姿に驚いているが、クリフさんに止められているのでどうすることも出来ない。
「タロ」
『ワフ!』
そろそろ時間だなとタロに桶を持ってきてもらうと姫さんの口元に桶を持ち上げ口を抑えていた手を離すと同時に姫さんの口から大量の水が吐かれる。
「ぜぇ~ぜぇ~死ぬかと思ったわよ! 何するのよ!」
「でも、口の中はスッキリしたよね」
「な、そんなわけ……あれ? あ、確かに……」
「ソフィア様、そんなことよりもお顔が……」
「え? 顔?」
「失礼します」
そう言って専属メイドのお姉さんは姫さんの顔をタオルでゴシゴシと拭き取っている。クリフさんは、それを見ていた俺の隣にススッと近付く。
「コータ様のお陰でお嬢様は楽しく過ごすことが出来ております。ありがとうございます」
「ははは、アレを見てもそうやってお礼を言われるとは思いませんでした」
「いえいえ、お嬢様はこれからお見舞いに向かわれる奥様のことをずっと気にして塞ぎ込んでいましたが、コータ様達と会われてから気分が高揚したようです」
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