上 下
55 / 56
第二章 これからの生き方を求めて

第15話 焦っちゃダメだからね

しおりを挟む
「あれよ」
「あの一番大きな建物?」
「そう。あそこの建物の三階の右端がお父様の執務室よ」
「へぇ」

 ナキ達はマリアの案内で領都上空へと来ていた。もちろん、他の人の目に付かない様に不可視の状態にするのは忘れていない。

 そして一緒に着いて来た子供達は領都上空から、下を眺め「わぁ~」と子供達が育った小さな村では見ることが出来ない建物や人の多さに興奮している。

「一応、落ちない様にはしているつもりだけど、あまり身を乗り出さない様にね」
「「「は~い!」」」
「じゃ、行こうか」
「ちょ、ちょっと待って!」
「え~ここまで来たのに」
「だから、ちょっと待ってよ」
「いいけど、多分だけど急いだ方がいいと思うよ」
「なんで?」
「……なんとなくだけど、マリアが追い出されたのは邪魔だからでしょ」
「そうね。イヤだけど、義母アイツにとっては私が邪魔でしょうがなかったんでしょうね」
「それはなんで?」
「なんで……ってなんで?」
「いや、僕に聞かれても困るんだけど」
「え~一緒に考えてよ」
「もう、普通に考えればさ、お父さんの前にマリアが邪魔だったんじゃないの」
「どういうこと?」
「だからさ、お父さんがいなくなれば、後は誰も邪魔する人がいないんでしょ。だから、最終的に家の乗っ取りが目的なら、最終目的はお父さんの排除でしょ。だから、その前に邪魔なマリアを追い出したんじゃないの」
「え? でも、お父様まで排除するってのは違うんじゃないの?」
「なんで?」
「なんでって……なんで?」
「もう、とにかくさ。今はマリアがいないから、ゆっくりお父さんをどうにかして排除しようとしているんじゃないのかなと思うんだけどね」
「なら、早く行かないと! ナキ、何をしているの!」
「いや、マリアがまだって言ったじゃん」
「……いいの! とにかく行くわよ!」
「その格好で?」
「あ……」

 マリアに父親のところに行かないのかとナキが確認すれば、まだ心の整理が出来ていないのかもう少し待ってと言われる。だが、ナキは早目に会った方がいいと助言アドバイスする。マリアはナキが言っているのが分からずナキに「なんで?」と問い返す。

 ナキはそれに対し父親を排除する為に邪魔だったマリアがいない今が、一番いい頃合いだろうからだと話すが、マリアはそれに対してもまた意味が分からないと聞き返す。

 マリアは自分を売り飛ばした奴隷商も今頃はキュサイの街に辿り着いている頃だろうと思う。そしてマリアを途中で囮として棄てたことがジョセフィーヌにバレるのは時間の問題だろうと。だとしたら、まだ父親にまでは報告が上がっていないだろうと考える。

 マリアは意を決した顔になり、ナキに行こうとお願いすると、ナキは「うん、行こう」と頷く。

 ナキは自分達が乗っている結界をゆっくりと降下させながらゴリアテ伯爵のいる建物へと近付ける。

「いた!」
「あの人がそうなの?」
「うん! 私のお父様よ」
「じゃあ、ちょっと待ってね。先ずは周りに人がいないかを確認して……うん、大丈夫そう。じゃあ、次は……」

 ナキはゴリアテ伯爵の執務室へと結界を近付けると、窓ガラス越しに部屋の中にいるゴリアテ伯爵が本人かどうかをマリアに確かめると、次はマリアと対面させる為に周りの様子を確認する。

 執務室の中でゴリアテ伯爵は窓の外にいるナキ達に気付きもせず、机の上に置かれた書類に目を通していた。すると、執務室の扉が開かれジョセフィーヌと思われる女性と、その後ろからメイドがワゴンを押しながら執務室の中へと入ってきた。

「あなた、そろそろ休憩されてはどうですか」
「ああ……そうだな。ん~」

 ゴリアテ伯爵は書類から目を離し、軽く眉間を揉んでから思いっ切り伸びをする。

「じゃあ、お願いね」
「はい……」

 ジョセフィーヌに促されたメイドがカップに紅茶を注ぐが、よく見るとその手が震えている。

 ナキはその様子にどこか違和感を感じて鑑定を行うと「あ!」と思わず声に出てしまい慌てて口を抑え、そんなナキに対しマリアも「シッ!」と口元に指を当てる。だが、念の為にと不可視の他に防音も対策済みだったので、周囲に気付かれることはなかった。そのことをマリアに説明すると「先に言ってよ」と軽く怒られてしまう。

「で、なんで慌てたの?」
「アレだよ」
「え? 何?」
「アレ……微量だけど、毒物が入っている」
「ウソ!」

 ナキの言葉にマリアは慌てて窓に近寄ろうとするが、ナキに止められ近寄ることが出来ない。

「なんで、邪魔するの! 離してよ!」
「だから、まだ飲んでないでしょ。それに多分だけど、お父さんも気が付いているよ」
「え?」
「だからね、あの紅茶に混入されているのは即効性の毒じゃなくて遅効性……なのかな。要は効果が出るまでは、相当な年月が必要になるヤツだから」
「でも、毒なんでしょ?」
「だから、僕もそう思ってお父さんを鑑定したけど、どうってことなかったよ」
「はい?」
「多分だけど、お父さんもあの女性ジョセフィーヌに対し警戒心を持っているんじゃないのかな」
「なら、なんで……」
「え?」
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい!

ももがぶ
ファンタジー
猫たちと布団に入ったはずが、気がつけば異世界転生! せっかくの異世界。好き放題に思いつくままモノ作りを極めたい! 魔法アリなら色んなことが出来るよね。 無自覚に好き勝手にモノを作り続けるお話です。 第一巻 2022年9月発売 第二巻 2023年4月下旬発売 第三巻 2023年9月下旬発売 ※※※スピンオフ作品始めました※※※ おもちゃ作りが楽しすぎて!!! ~転生したから思いっきりモノ作りしたいしたい! 外伝~

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

転生したら捕らえられてました。

アクエリア
ファンタジー
~あらすじ~ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 目を覚ますと薄暗い牢獄にいた主人公。 思い付きで魔法を使ってみると、なんと成功してしまった! 牢獄から脱出し騎士団の人たちに保護され、新たな生活を送り始めるも、なかなか平穏は訪れない… 転生少女のチートを駆使したファンタジーライフ! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 見切り発車なので途中キャラぶれの可能性があります。 感想やご指摘、話のリクエストなど待ってます(*^▽^*) これからは不定期更新になります。なかなか内容が思いつかなくて…すみません

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...