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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界
第39話 引継業務
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『まさか、あの子に対する嫌悪感を抱かせたのは……』
『あら、分かってしまいました?』
下級神の言葉に女神ミルラが微笑みながら答える。
『前に言っていた一押しってこのことだったんですね』
『ええ、そうよ。せっかく見付けたあの子が埋もれてしまいそうだったんですもの』
『……でも、そこまでのことが必要だったんですか。結果的に多くの人が不幸になってしまっているんですけど』
『でも、それだけ不幸な人がいれば、それ以上に幸せを感じている人がいるってことでしょ』
『え? どういうことですか?』
下級神は女神ミルラの真意が分からず聞き返す。
『うふふ、人が幸せを感じる一番手っ取り早いのはなんだと思います?』
『それは……美味しい物を食べた時とかですか』
『そうですね。それも確かに幸福感を得られますが、どちらかと言うと満足感でしょうか』
『ん~分かりません。降参です』
『あら、残念。もう少し考えて欲しかったのですが、しょうがないですね。いいですか、人というのは他の人を見て「あの人に比べれば」と思うことで幸福感を得られます。まあ、優越感とも言えるでしょうが』
『それが、どうして今回の話に関わってくるんですか』
『あら、分かりませんか?』
『分かりません』
下級神はまた女神ミルラの真意を諮りきれずに困惑する。すると女神ミルラはとんでもないことを言い出す。
『いいですか。今回、あの子が虐められることで回りの子達は「自分じゃなくてよかった」と思ったハズです。それと同時にあの子を虐めることで優越感とストレスを発散することが出来て幸せだったでしょうね』
『まあ、そうなるんですかね』
『ですが、あの子が亡くなったことで、今度は回りの子達が家族がしっぺ返しを喰らうのです。それこそ生きているのが嫌になるくらいに』
『大変ですね』
『ええ、大変です。こうやって不幸の種を植えて育てて収穫するのって大変なんですよ』
『え? 今、なんて言いました』
『だから、大変なんです……と』
『いや、だから。その後です』
『ああ……不幸の種のことですか』
『そう、ソレです! どういうことなんですか!』
女神ミルラは下級神の問いに「ふふふ」と笑ってから説明する。
『人の世界ってストレスばかりなんですよ。それは分かりますか?』
『ええ、私もそうですから』
『まあ、それは横に置いといて』
『置かないで下さい!』
女神ミルラは下級神の訴えを横に置き、話を続ける。
『では、その抱えたストレスが抱えきれなくなった時にどうなると思いますか。そうです。他の人や国に対する暴力として発散されることがあります。ですが、あの国で大きな争いを起こさせる訳にはいかないので、悩みに悩んだ末に辿り着いたのが、このシステムなんです』
『ん?』
『要はですね。一人の犠牲者……この場合はあの子ですね。あの子に群がっていた子達が今度は周囲から「イジメの対象」となるわけです。そういう風に不幸の種は少しずつ拡散していくことで、あの国のストレスは拡散される訳です』
『それじゃ、また不幸な子が出て来ると……そういう訳ですか?』
『ええ、このまま何もしなければ……ですが』
『ん?』
『分かりませんか? ですから、不幸の種が育つ前に飛んで行かないように種を持っている人達が簡単に死なないように管理する必要があるのです』
『え? どういうことですか。簡単に死なないようにって』
下級神は女神ミルラの考えていることが分からずに混乱する。
『何も難しいことではありません。言葉通りの意味です。人は追い詰められると自ら命を絶とうとします。なので、そういうことが起きないように管理するのです。あなたが』
『そうなんですね。それは大変……え? ええ! 私がですか?』
『はい。私はこの後、休みに入ります。そうですね、大体五十年程でしょうか』
『はい? 何を言っているんですか? 正気ですか?』
『ええ、正気ですよ。私も長く働き過ぎました。今回の休暇はリフレッシュ休暇ということで既に承諾は得ています』
『撤回して下さい!』
『無理です。もう受理されていますので、あなたの昇級と一緒に』
『え? 今なんと?』
女神ミルラは下級神に後を譲り自分は休暇に入ると宣言すると同時に下級神の昇級をポロッと零す。
『ですから、下級神のままでは、この世界の管理を任せることは出来ないのであなたを昇級させました。どうです? 嬉しいですか? 嬉しいですよね。飛び上がってもいいんですよ?』
『やったぁ! 昇級だ! って、なるか! なんで今なんですか。もっと前でもよかったんじゃないんですか!』
『だって、私の苦労も分からない内にこの世界を譲るのもなんか嫌じゃないですか』
『だからって……』
『あなたの息子も同じ様に虐められた後に救世主として崇められたでしょ。私もあの子が向こうの世界で破壊者となるのか、それとも救世主となるのかを見定めたいと思いましてね』
『でも……』
『それとあなたはこれから「マリア」と名乗りなさい。管理者となるのに名前がないままでは不便でしょうから』
『ミルラ様……いい感じにまとめようとしていますけど、これって私に押し付けただけですよね』
『そうともいうのかもしれませんね。では、ヘイト管理頑張って下さいね』
『あ、ちょっと待って……』
下級神……マリアは昇級し今は三級神となった。
『昇級して三級って……ああ、もうどうすれば……って、言ってる側から自殺しようとするんじゃないの! あ、こっちは事故に巻き込まれようとしているし。もう、前より忙しいじゃないの! この、邪神ミルラ!』
文字通り虚空を見詰めながら三級神マリアはそう叫ぶのだった。
『あら、分かってしまいました?』
下級神の言葉に女神ミルラが微笑みながら答える。
『前に言っていた一押しってこのことだったんですね』
『ええ、そうよ。せっかく見付けたあの子が埋もれてしまいそうだったんですもの』
『……でも、そこまでのことが必要だったんですか。結果的に多くの人が不幸になってしまっているんですけど』
『でも、それだけ不幸な人がいれば、それ以上に幸せを感じている人がいるってことでしょ』
『え? どういうことですか?』
下級神は女神ミルラの真意が分からず聞き返す。
『うふふ、人が幸せを感じる一番手っ取り早いのはなんだと思います?』
『それは……美味しい物を食べた時とかですか』
『そうですね。それも確かに幸福感を得られますが、どちらかと言うと満足感でしょうか』
『ん~分かりません。降参です』
『あら、残念。もう少し考えて欲しかったのですが、しょうがないですね。いいですか、人というのは他の人を見て「あの人に比べれば」と思うことで幸福感を得られます。まあ、優越感とも言えるでしょうが』
『それが、どうして今回の話に関わってくるんですか』
『あら、分かりませんか?』
『分かりません』
下級神はまた女神ミルラの真意を諮りきれずに困惑する。すると女神ミルラはとんでもないことを言い出す。
『いいですか。今回、あの子が虐められることで回りの子達は「自分じゃなくてよかった」と思ったハズです。それと同時にあの子を虐めることで優越感とストレスを発散することが出来て幸せだったでしょうね』
『まあ、そうなるんですかね』
『ですが、あの子が亡くなったことで、今度は回りの子達が家族がしっぺ返しを喰らうのです。それこそ生きているのが嫌になるくらいに』
『大変ですね』
『ええ、大変です。こうやって不幸の種を植えて育てて収穫するのって大変なんですよ』
『え? 今、なんて言いました』
『だから、大変なんです……と』
『いや、だから。その後です』
『ああ……不幸の種のことですか』
『そう、ソレです! どういうことなんですか!』
女神ミルラは下級神の問いに「ふふふ」と笑ってから説明する。
『人の世界ってストレスばかりなんですよ。それは分かりますか?』
『ええ、私もそうですから』
『まあ、それは横に置いといて』
『置かないで下さい!』
女神ミルラは下級神の訴えを横に置き、話を続ける。
『では、その抱えたストレスが抱えきれなくなった時にどうなると思いますか。そうです。他の人や国に対する暴力として発散されることがあります。ですが、あの国で大きな争いを起こさせる訳にはいかないので、悩みに悩んだ末に辿り着いたのが、このシステムなんです』
『ん?』
『要はですね。一人の犠牲者……この場合はあの子ですね。あの子に群がっていた子達が今度は周囲から「イジメの対象」となるわけです。そういう風に不幸の種は少しずつ拡散していくことで、あの国のストレスは拡散される訳です』
『それじゃ、また不幸な子が出て来ると……そういう訳ですか?』
『ええ、このまま何もしなければ……ですが』
『ん?』
『分かりませんか? ですから、不幸の種が育つ前に飛んで行かないように種を持っている人達が簡単に死なないように管理する必要があるのです』
『え? どういうことですか。簡単に死なないようにって』
下級神は女神ミルラの考えていることが分からずに混乱する。
『何も難しいことではありません。言葉通りの意味です。人は追い詰められると自ら命を絶とうとします。なので、そういうことが起きないように管理するのです。あなたが』
『そうなんですね。それは大変……え? ええ! 私がですか?』
『はい。私はこの後、休みに入ります。そうですね、大体五十年程でしょうか』
『はい? 何を言っているんですか? 正気ですか?』
『ええ、正気ですよ。私も長く働き過ぎました。今回の休暇はリフレッシュ休暇ということで既に承諾は得ています』
『撤回して下さい!』
『無理です。もう受理されていますので、あなたの昇級と一緒に』
『え? 今なんと?』
女神ミルラは下級神に後を譲り自分は休暇に入ると宣言すると同時に下級神の昇級をポロッと零す。
『ですから、下級神のままでは、この世界の管理を任せることは出来ないのであなたを昇級させました。どうです? 嬉しいですか? 嬉しいですよね。飛び上がってもいいんですよ?』
『やったぁ! 昇級だ! って、なるか! なんで今なんですか。もっと前でもよかったんじゃないんですか!』
『だって、私の苦労も分からない内にこの世界を譲るのもなんか嫌じゃないですか』
『だからって……』
『あなたの息子も同じ様に虐められた後に救世主として崇められたでしょ。私もあの子が向こうの世界で破壊者となるのか、それとも救世主となるのかを見定めたいと思いましてね』
『でも……』
『それとあなたはこれから「マリア」と名乗りなさい。管理者となるのに名前がないままでは不便でしょうから』
『ミルラ様……いい感じにまとめようとしていますけど、これって私に押し付けただけですよね』
『そうともいうのかもしれませんね。では、ヘイト管理頑張って下さいね』
『あ、ちょっと待って……』
下級神……マリアは昇級し今は三級神となった。
『昇級して三級って……ああ、もうどうすれば……って、言ってる側から自殺しようとするんじゃないの! あ、こっちは事故に巻き込まれようとしているし。もう、前より忙しいじゃないの! この、邪神ミルラ!』
文字通り虚空を見詰めながら三級神マリアはそう叫ぶのだった。
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