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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界

第31話 そこまで万能ではないのかも

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 ハジはあれから、生活魔法を色々と試した。ナキは魔力枯渇になれば激しい頭痛に襲われるとも一応忠告はしたものの魔法が使えるのが余程楽しかったのか、気が付けば魔力を使い切った途端に両手で頭を抱えて「イタイ、イタイ」と連呼しながら地面の上を転げ回っている。

「だから、言ったのに……ねぇ」
「だって……楽しかったし……」

 ハジはちょっとだけ頭痛が治まったのか、疲労困憊という風に疲れた表情を見せながらナキにそう答える。

「落ち着いた?」
「うん……ちょっとはマシになった……う~」

 ナキはハジの結界に『魔素吸収ドレイン』を付与しようと思ったが、ハジにはいい薬になるだろうと伸ばしかけた手を引っ込める。

 そんなハジは放っておくとして、肉塊となったボアの肉を物欲しそうに子供達が見ているのだが、どうやって調理すればいいのだろうかとナキはまた考え込む。

「そう言えば、ゴブリンの巣で見付けたものがあったじゃないか」
「「「?」」」

 ナキは鞄から一つの茶色いツボを取り出すと、岩を拾い竈を組む。子供達にも手伝ってもらい、大小の石を組み合わせてなんとか竈の形を整える。

 そうやって竈は出来たが、その上に載せる金網も金串もない。ないのなら作ってみるかと細く円錐形にした結界を地中深くまで埋めるといつものように「モノは試しってことで」と『鉄分吸収』と呟けば、結界の中にソレっぽい何かが溜まっていくのを感じ取る。

「よっと……あ、あ~ダメだ」

 ナキは地中に埋めた結界を取り出し溜まった物を確認するが、このままでは金網も金串も生成出来ないことに気付く。

「鉄鉱石や砂鉄を溶かすのは、このままじゃ無理だ。それに溶かしたからって、そのまま鉄になるわけじゃないもんな~いい手だと思ったのに。まあ、違う手段となると、手っ取り早いのはやっぱりコレだよね。『圧縮』」

 鞄の中に溜め込んでいた崖を掘った際の岩や土塊を取り出すと金串程度の大きさに圧縮すると、長さ三十センチメートル、直径五ミリほどの金串ならぬ岩串を作り出す。

 そんなこんなで三十本ほどを生成すると、切り分けていた肩ロース部分をナイフで口に入るくらいの大きさにしてから串を通し、ツボの中の塩を振りかける。

「こんなもんかな……もう少し待っててね」
「「「うん!」」」

 ナキが作業している横で子供達はまだかまだかとナキの作業が終わるのを涎を垂らしながら待っているので、ナキももう少しだからと声を掛ければ、「うん」と激しく頭を縦に振る。

 ボアの肉を串に通し終わると、ナキは竈の中に小枝を組むと子供達に集めてもらった枯れ草を載せてから、『灯火トーチ』と呟くと火が少しずつ回りやがて勢いよく燃え出す。

「これだけ火力があれば大丈夫でしょ」

 ナキは用意した串肉を竈の火が当たるように並べていくと、待ちきれない子供達が「ぼくもてつだう」「わたしも!」と横から手が伸びてきて、いつの間にか全ての串肉が竈の回りに並べられた。

「まだかな~まだかな~ねえ、もういい?」
「ダメダメ、こういうのはよく焼かないとお腹が痛くなるからね」
「え~ちょっとくらい、いいでしょ」
「トイレから出られなくなるよ。それは嫌でしょ」
「え? ずっと、でられないの?」
「ん~ずっとじゃないけど、二日くらいはそうなるかもね」
「そのあいだはほかのことはあそべないの?」
「トイレから出られないからね。遊べないよ」
「じゃぁ、がまんする!」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
「ぼく、いいこ?」
「うん、いいこだよ」
「えへへ……」

 ナキの横で串肉を並べるのを手伝った後は、串肉が焼き上がるのを待ちきれないのか何度も串肉に手を伸ばしては戻すというのを繰り返していたのをナキがやんわりと止めたので今は口から溢れる涎を拭くこともせずに火に炙られている串肉をジッと見詰めている。他の子供達も似たような様子で黙って見ている。

 マリアはと言えば、『かわいそう』と発言したことを気にしているのか、少し離れた位置に座っている。そして回りに立ち込める美味しそうな臭いに鼻がひくつき、竈の中の脂が滴りジュッと音がする度に耳が動いているような気がする。

「別に誰も気にしていないのに強情だよね」
「姉ちゃんは自分が一番、年上だからって頑張っているんだよ」
「へ~マリアとは会ってから長いの?」
「え~とね、多分一週間くらいかな」
「長いのか短いのか微妙だね」
「そうなのかな。でも、皆が姉ちゃんを慕っているのは確かだよ。まあ、俺もその一人だけどね」
「もしかして、寝る時も一緒とか?」
「そうだよ。だって、あんな小屋の中や馬車の中じゃ固まって寝る以外に出来ないじゃん」
「へ、へ~そうなんだ」

 ナキはハジの言葉を聞いて、「羨ましくないんだから」と思わなくもないとか思いながらも、やっぱり羨ましいかなと思ってしまう。

 やがて串肉の臭いに香ばしい臭いが加わり、出来上がりが近いことを教えてくれる。

 串肉にしたのはそれほど厚みはないが、寄生虫が怖いので、ある程度の焦げ目が付くまでは手を出さないようにと子供達に言ってはいるが、誰も寄生虫がなんなのかを理解していない為、食事の前にする話ではないと、「とにかくよく焼くように」とだけに留めた。

「じゃあ、そろそろいいかな」
「「「やった!」」」
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