防御魔法ってなんなの! と思ったけど、使ってみるといろいろと優秀でした!

ももがぶ

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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界

第15話 自殺じゃなかった

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「では、こちらのお部屋をお使いください」
「え? ここ……ですか?」
「はい。狭くて申し訳ありませんが、セキュリティなどを考慮すると一軒家よりは確かなので」
「あ、いえ。そんなことじゃなくてですね、その……なんて言いますか……」
「雇い主からは自宅へとお招きした方がいいのではと提案されたのですが、それだとご家族でくつろげないと言うことで私の方から考え直していただき、こちらのマンションの一室を用意させて頂きました」
「はぁ、そうなんですね。それはありがとうございます。ですが、ここまでしてもらってもいいのでしょうか。直樹へのお礼としてももらいすぎているとしか思えないのですが……」
「それは……」

 守達家族が橋口に連れて来られたのは、タワーマンションの高層階にある部屋だった。警察署からは車でここまで連れて来られ、地下の駐車場からそのままエレベーターで上がってきたが、どこに何をしに行くのかを伝えられていなかったので、いきなりここで生活してくれと言われ驚いているのは守と美千代だけで子供達は窓から見下ろす景色に夢中だ。

 そして、守が橋口に対しどうしてここまでしてくれるのかと問うと橋口は雇い主の気持ちを代弁する。

「そうですか。分かりました。そこまで私達のことを考えて下さるのであれば、ありがたくお世話になります」
「そうして下さい。私も雇い主から怒られずにすみますので」
「ですが、いつになるかは分かりませんが、必ずお礼は致します」
「分かりました。その様にお伝えします」
「お願いします」
「では、自宅の鍵をお預かりしてもよろしいですか?」
「え? 鍵ですか……構いませんが、理由を聞いてもいいですか?」
「あ、これは失礼しました」

 橋口にいきなり自宅の鍵をくれと言われ、守は言われた通りに自宅の鍵を差し出そうとするが、その理由を橋口に尋ねる。守に言われ橋口は、確かに理由を話していなかったなと鍵を借りる理由を守に説明する。

 橋口が言うには、これからここで生活する為の物は用意されているが、服や下着などの普段使いの物まで用意することは出来なかったので、それを取りに行かせると言うことだった。

「そうですか。ですが、それくらいなら私達で「甘いです」……え?」
「警察署でもお話ししましたが、マスコミはしつこいですよ」
「……」
「では、お預かりします。あと、葬儀のことで少しお話をしたいのですがよろしいですか」
「はい、分かりました」

 橋口は守から鍵を預かるとスマホを取り出し二言三言だけ交わすと部屋のチャイムが鳴らされ橋口が対応しに向かう。

「すみません、お待たせしました。今、部下にお預かりした鍵を渡し、ご自宅に向かわせました。二,三時間もすれば戻ってくると思います」
「はぁ」
「では、お話の続きを……あちらでよろしいですか」
「あ、そうですね。立ちっぱなしでしたね」
「私は何か飲み物を用意しますね。えっと……」

 橋口に促されリビングのソファへと促されると美千代は飲み物を用意するために台所へと向かう。子供達はまだ探検しているらしい。

「池内様。奥様がいない今の内にお話しておきたいことがあります」
「え? 妻に聞かせたくない内容でしょうか」
「はい。お子様にも聞かせない方がいいと思っています」
「……それはどういうことでしょうか」
「これを見ていただけますか」
「……」

 橋口はテーブルの上にバッグから取り出したタブレットを載せるとアプリをタップし映像を流しながら守に見せる。

「直樹君が屋上から落ちるまでの映像です。心して見て下さい」
「……分かりました。ですが、どうして……どうしてこんな物があるんですか!」
「これを撮影していたのが、イジメの首謀者である女子生徒だと言われています」
「……死んでまで辱めを受けるのですか。どうして……どうして直樹がここまでされないと駄目なんですか。あの子が何をしたと言うんですか!」
「池内様、落ち着いてください。それと、確認して欲しいのは冒頭の部分なんです。辛いことと思いますが、これからの為にも確認して下さい」
「……すみません」

 橋口はなんとか守を落ち着かせると、ここを見て欲しいと守に見せたのは、屋上から何かを叫んでいる直樹の様子だった。

「これは……直樹が何かを言っているようですが……」
「はい。私達の方でなんとか文字に起こしたのがこれになります」

 橋口が鞄から取り出した紙を守に渡すと、守はそれに目を通す。

「これは……ここに書かれていることは本当なのでしょうか」
「私共の方でも今、確認の為に動いていますが、ほぼ間違いないと思います」
「でも、あの子達はまだ中学生なんですよ。こんなことが可能なんですか?」
「子供だからこそとも言えます。我々の様にある程度の大人であれば、色んなことを考えてしまい、あるところでブレーキが。つまりは抑制が掛かります。でも、子供達はそこまで深く考えることが出来ないために止まることを知りません。行き着くところまで行って初めて自分達がしてきたことを知るのです」
「でも、流石にこれまでのことなら、回りの大人が止めるでしょう」
「池内様、よく考えてください。そういう大人がいるのなら、直樹君が三年間も虐められることはなかったでしょう」
「……」
「言っている意味が分かりますね。あの学校全体が直樹君を虐めていたと言えるでしょう」
「……」
「それと見て欲しいのは、その先です。いいですか、ここなんですが、よく見て下さい」
「……これって」
「はい、そうなんです」

 橋口は映像を操作し直樹が落ちる寸前の足下を拡大表示させ守に見せると、守も橋口が見せたいと言っていた意味を理解する。

「自殺……じゃなかった。やっぱり、あの子は自殺じゃなかった……」
「あなた、どうしたんですか?」

 直樹が足を滑らせ屋上から落ちたのを確認した守は自殺ではなかったと安堵し嗚咽したところで飲み物を持って来た美千代がどうしたのかと不思議がるので守の代わりに橋口が答える。

「直樹君が自殺ではなく転落事故だったことが分かったので、安堵したのだと思います」
「え、自殺じゃない……それは本当なんですか?」
「はい。間違いないでしょう。警察からも連絡があると思いますが、間違いありません」

 橋口はタブレットを鞄にしまいながら美千代にそう告げる。

 美千代は黙って頷くと守の背中にそっと手を置く。そして、守の前に置かれた紙が目に入る。

「え、嘘でしょ。じゃあ、直樹はこの為に……」
「そのことでお話があります。よろしいでしょうか」
「……ああ、すみません。お願いします」
「お願いします」

 橋口の言葉に守と美千代はお願いしますと頭を下げる。

「では、お話します。これは雇い主からの提案ですが、お二人が反対したとしても雇い主は止めるつもりはないということを念頭にいれておいてください」
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