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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界
第5話 家族との対面
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異世界へと出発した少年『池内 直樹』が初めての異世界に戸惑いながらも女神ミルラからの手引き書を確認している時に日本では、少年の飛び降り自殺のニュースが世間を騒がせていた。
「こちらへどうぞ」
「「「……」」」
警察署内の遺体安置所へと案内されたのは、少年の家族である両親と弟妹の四人だった。
四人は遺体安置所の中に設置されていた棺を見て動けずにいると、ここまで案内してきた刑事が声を掛けて来る。
「……そのご遺体の顔を確認することは出来ませんでしたので衣服や持ち物と現場を目撃していた生徒達の証言から池内様のご長男である直樹君であることを確認いたしました」
「ぐ……どうして……どうして、直樹が死ななければいけなかったんですか! 何故、見ていた人達は止めてくれなかったのですか! 直樹ぃ~」
遺体安置所の中で少年の母である『美千代』は棺にしがみ付き嗚咽を漏らす。そして、その様子を後ろから見ていた弟『陽太』と妹『史織』はまだ、状況が把握出来ていないのか、後ろに立つ父『守』に問い掛ける。
「兄ちゃん……」
「お兄ちゃんなの?」
「ああ、そうだ。直樹だ……どうして、こうなる前に……ん?」
直樹の棺に覆い被さる様に泣きじゃくる美千代を見ながら、陽太と史織の肩を抱きながら守はやりきれない思いを口にしたところで、直樹が着ていたであろう衣服が目に入る。
陽太と史織から離れ、守がその衣服を手に取ると、制服の背中には靴跡が残されていて、その制服には消しきれないシミがたくさんあった。
「刑事さん、これは……」
「はい。今、私達の方でも捜査を始めましたが、イジメを苦にした自殺ではないかと……」
「イジメですか」
「はい」
「そうですか……ですが、直樹はイジメで自殺するようなそんな弱い子ではないと信じています」
「そうですか。父親であるあなたがそう思いたい気持ちも分かりますが……」
「直樹は自殺なんかしません!」
「美千代……」
守と刑事の話が聞こえたのか美千代はしがみ付いていた棺から身を起こすと刑事に向かって、その考えを拒否する。
「しかし、奥さん「絶対に有り得ません!」……根拠を窺っても」
「はい。私は直樹が虐められているのを薄々感じてはいました」
「美千代! 何故、それを言わなかったんだ!」
「言えません! 言えなかったの! 私だって何度学校へ乗り込もうと思ったか……」
「なら、何故そうしなかったんだ?」
「……だって、笑うのよ」
「「ん?」」
「私は直樹の様子を毎日見ているの! だから、直樹の制服が汚されていたり顔に傷があったから、もしかしたらって思って直樹に聞いてみたことがあるの」
「それで直樹はなんだって?」
「……笑うのよ」
「どういうことだ?」
「だから、直樹は私を見て『母さん、大丈夫だから。心配しないで』って笑うのよ」
「だからって……」
直樹が自殺したことを単に受け入れられないだけだと思っていた守と刑事の二人は美千代の告白を聞いてやはりと思うが、美千代がそれを学校へと報告しなかったことを不思議に思っていると、美千代は話を続ける。
「あの子が……直樹が言うの。『母さん、僕は男の子だよ。これくらい平気だから』って」
「美千代……それでも俺には言って欲しかった……」
「私も何度も言いかけたわ。でもね、その度に不思議と直樹がその場にいて、私に目で訴えてくるの。『母さん、言わないで』って……」
「「「……」」」
美千代はそれだけ言うと、また直樹の棺にしがみ付き「ごめんね。私がもっと早く……」と棺をさすりながら泣きじゃくる。
「刑事さん……」
「はい。私達の方でももう少し深く調べてみます」
「日下部警部、ちょっといいですか」
「あ、うん。すみません、少し席を外しますので何かありましたら、そちらの内線でお知らせ下さい」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
若い刑事に呼び出された日下部警部が遺体安置所の外に出ると「どうした?」と呼びに来た刑事に問い掛ける。
「実は……見てもらった方が早いですね。これです」
「ん? これは……」
「ええ、あの中学生が飛び降りる前後の映像です」
「何故、こんなものが……ん? 何か言っているな。これは何を言っているんだ?」
「はい。私達もこの会話の内容が気になり、直樹君の声は聞き取りづらかったのですが、なんとか聞き取った内容がこちらになります」
「ありがとう」
若い刑事から会話の内容を書き起こし印刷された紙を受け取ると日下部警部の紙を持つ手が震える。
「おい! どういうことだ! こんなことが有り得るのか!」
「その件については、詳細を確認するため今学校に向かわせています」
「……それにしてもまだこのことについてはハッキリするまで、あの家族には報告しないように徹底してくれ」
「分かりました。あと、池内さんのご家族に会いたいと署まで来ている方がいるのですが……」
「そんなもん、マスコミか何かだろう。帰ってもらえ」
「私もそう思ったのですが、それも難しいかなと……」
「どういうことだ?」
「その方から名刺をお預かりしています。これです」
「ん? なんでだ? 一体、どういう関係なんだ?」
「さあ、そこまでは詳しく聞いていないので」
「ハァ~分かった。俺の方から父親に会うかどうか聞いてくる」
「お願いします」
日下部警部は若い刑事から受け取った一枚の名刺を見ながら、「これは一体どういうことなんだ」と考えを巡らせるが、いくら考えても答えが出るわけではないので父親の判断に任せるかと再び遺体安置所の中へと入っていく。
「こちらへどうぞ」
「「「……」」」
警察署内の遺体安置所へと案内されたのは、少年の家族である両親と弟妹の四人だった。
四人は遺体安置所の中に設置されていた棺を見て動けずにいると、ここまで案内してきた刑事が声を掛けて来る。
「……そのご遺体の顔を確認することは出来ませんでしたので衣服や持ち物と現場を目撃していた生徒達の証言から池内様のご長男である直樹君であることを確認いたしました」
「ぐ……どうして……どうして、直樹が死ななければいけなかったんですか! 何故、見ていた人達は止めてくれなかったのですか! 直樹ぃ~」
遺体安置所の中で少年の母である『美千代』は棺にしがみ付き嗚咽を漏らす。そして、その様子を後ろから見ていた弟『陽太』と妹『史織』はまだ、状況が把握出来ていないのか、後ろに立つ父『守』に問い掛ける。
「兄ちゃん……」
「お兄ちゃんなの?」
「ああ、そうだ。直樹だ……どうして、こうなる前に……ん?」
直樹の棺に覆い被さる様に泣きじゃくる美千代を見ながら、陽太と史織の肩を抱きながら守はやりきれない思いを口にしたところで、直樹が着ていたであろう衣服が目に入る。
陽太と史織から離れ、守がその衣服を手に取ると、制服の背中には靴跡が残されていて、その制服には消しきれないシミがたくさんあった。
「刑事さん、これは……」
「はい。今、私達の方でも捜査を始めましたが、イジメを苦にした自殺ではないかと……」
「イジメですか」
「はい」
「そうですか……ですが、直樹はイジメで自殺するようなそんな弱い子ではないと信じています」
「そうですか。父親であるあなたがそう思いたい気持ちも分かりますが……」
「直樹は自殺なんかしません!」
「美千代……」
守と刑事の話が聞こえたのか美千代はしがみ付いていた棺から身を起こすと刑事に向かって、その考えを拒否する。
「しかし、奥さん「絶対に有り得ません!」……根拠を窺っても」
「はい。私は直樹が虐められているのを薄々感じてはいました」
「美千代! 何故、それを言わなかったんだ!」
「言えません! 言えなかったの! 私だって何度学校へ乗り込もうと思ったか……」
「なら、何故そうしなかったんだ?」
「……だって、笑うのよ」
「「ん?」」
「私は直樹の様子を毎日見ているの! だから、直樹の制服が汚されていたり顔に傷があったから、もしかしたらって思って直樹に聞いてみたことがあるの」
「それで直樹はなんだって?」
「……笑うのよ」
「どういうことだ?」
「だから、直樹は私を見て『母さん、大丈夫だから。心配しないで』って笑うのよ」
「だからって……」
直樹が自殺したことを単に受け入れられないだけだと思っていた守と刑事の二人は美千代の告白を聞いてやはりと思うが、美千代がそれを学校へと報告しなかったことを不思議に思っていると、美千代は話を続ける。
「あの子が……直樹が言うの。『母さん、僕は男の子だよ。これくらい平気だから』って」
「美千代……それでも俺には言って欲しかった……」
「私も何度も言いかけたわ。でもね、その度に不思議と直樹がその場にいて、私に目で訴えてくるの。『母さん、言わないで』って……」
「「「……」」」
美千代はそれだけ言うと、また直樹の棺にしがみ付き「ごめんね。私がもっと早く……」と棺をさすりながら泣きじゃくる。
「刑事さん……」
「はい。私達の方でももう少し深く調べてみます」
「日下部警部、ちょっといいですか」
「あ、うん。すみません、少し席を外しますので何かありましたら、そちらの内線でお知らせ下さい」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
若い刑事に呼び出された日下部警部が遺体安置所の外に出ると「どうした?」と呼びに来た刑事に問い掛ける。
「実は……見てもらった方が早いですね。これです」
「ん? これは……」
「ええ、あの中学生が飛び降りる前後の映像です」
「何故、こんなものが……ん? 何か言っているな。これは何を言っているんだ?」
「はい。私達もこの会話の内容が気になり、直樹君の声は聞き取りづらかったのですが、なんとか聞き取った内容がこちらになります」
「ありがとう」
若い刑事から会話の内容を書き起こし印刷された紙を受け取ると日下部警部の紙を持つ手が震える。
「おい! どういうことだ! こんなことが有り得るのか!」
「その件については、詳細を確認するため今学校に向かわせています」
「……それにしてもまだこのことについてはハッキリするまで、あの家族には報告しないように徹底してくれ」
「分かりました。あと、池内さんのご家族に会いたいと署まで来ている方がいるのですが……」
「そんなもん、マスコミか何かだろう。帰ってもらえ」
「私もそう思ったのですが、それも難しいかなと……」
「どういうことだ?」
「その方から名刺をお預かりしています。これです」
「ん? なんでだ? 一体、どういう関係なんだ?」
「さあ、そこまでは詳しく聞いていないので」
「ハァ~分かった。俺の方から父親に会うかどうか聞いてくる」
「お願いします」
日下部警部は若い刑事から受け取った一枚の名刺を見ながら、「これは一体どういうことなんだ」と考えを巡らせるが、いくら考えても答えが出るわけではないので父親の判断に任せるかと再び遺体安置所の中へと入っていく。
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