上 下
4 / 5
序章

第3話 町に出たい!

しおりを挟む
 ベッドに縛り付けられること一週間、毎度毎度の恥ずかしい食事もこれで終わりかと思うと少し惜しい気もするが、するよりはマシかとベッドから起き上がれば、ターニャは少し不満そうだ。

「本当にもういいんですか?」
「ああ、大丈夫だ。世話になったな」
「もう少し静養なさってもいいんですよ」
「そう……いや、止めとく」

 ターニャの提案にもう少しだけでもと一瞬、頭を過るがこれ以上はダメになるとドランは自分に言い聞かせベッドから下りる。

「あ! もう、残念……」
「ターニャ、俺が元気になるのにはないだろ」
「だって……」
「別に俺がどこか行ってしまう訳でもないだろ」
「そう言われましてもですね、あれだけ一日中お世話していたのは、そうありませんからね。しかも下の「ちょっと、待て!」……なんですか?」
「それはしてもらってはいないハズだ。……だよな?」
「しましたよ。お忘れですか?」
「いやいやいや、俺はちゃんと自分で立って行ったぞ?」
「あ~だって、それは坊ちゃんが小さい頃のお話ですから。ふふふ、とても可愛かったですよ。上も下も全部が可愛かったんですから!」
「……忘れろ」
「イヤです! ゼッタイに忘れませんから!」
「……」

 ドランがベッドから下りれば、今度は着替えを用意したターニャが目の前に立っている。

「着替えくらいは「いいえ、私の仕事ですから。さあ」……でもな」
「私の仕事を奪いになるつもりですか? それとも私はもうご不要ですか?」
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
「ふふふ、いいですよ。坊ちゃんがそんなこと言わないことは知っています。それよりもさあ!」
「分かったよ……」

 ドランは結局、ターニャに押し負ける形で着替えさせられることになったのだが、これも貴族としての務めなのかと辟易とする。

 ターニャに着替えを手伝ってもらった後は、食堂にて朝食を済ませると外に出たいとドランが伝えれば、少々お待ち下さいとターニャがどこかへ向かう。

 暫くした後、ターニャは父であるヒューイを連れて来た。

「え? どうされましたかお父様」
「いやな、ターニャにお前が町に出たいと許可を求めて来たのでな」
「許可ですか?」
「そうだ。お前はまだ十歳だ。一人で町に出るには多少危険だ」
「はい?」
「どうした? もしかして忘れたのか?」
「え? あ!」

 父であるヒューイにそう言われたドランが思い出したのは、前世での記憶を取り戻す前に教えられたことだった。

 ヒューイが納める町とは言え、治安はそれほどいいものではないから、町に出る時には護衛を連れて出るようにと言われていた。

「まあ、それはいいとしてだ。どうして町に出たいんだ? 何か欲しい物でもあるのか?」
「いえ、そんな訳ではありません。ただ、町の様子を見てみたいと思ったもので」
「ふむ、まあいい。市井の様子を気にするのもいいことだ。少し待て。護衛する者を呼んでこよう」
「はい。ありがとうございます」
「うむ」

 ヒューイはそういうと食堂から出て行った数分後に「お待たせしました」とドランの前に現れたのは、この家に務める衛士の一人であるバランだ。

 背は二メートル近くあり、髪は金色の短髪に翠色の目をした目鼻立ちのスッキリした顔をし体格は細マッチョだ。自分が女性だったら惚れていたかもなとドランは自分の目の前に立つバランを見上げていたが、そのバランはドランを通り越しターニャのことをジッと見ていた。

 ターニャはその視線に気付くと「よろしくお願いします」と軽くバランに会釈し、バランは「お任せ下さい。必ずターニャ様はお守りしますから!」と胸を叩く。

 そしてドランはその返事に「俺はどうでもいいのか」と思うが、ターニャはそれを軽く受け流すことはなく「守るのは私ではなく坊ちゃんです!」と強めに返す。

「あ、すみません。ドラン坊ちゃん」
「……」
「どうされましたか? このバランが気に入らないのですか?」
「ターニャさん、俺の何が悪いのでしょうか?」
「あ~そうじゃない」
「「では、何が?」」

 ターニャとバランが声を揃えてドランに問い掛ける。そしてドランは「その坊ちゃんってのはなんとかならないか?」と二人に聞いてみる。だが、二人は揃って首を横に振る。

「それはなりません」
「そうですよ。どうしたんですか、坊ちゃん」
「だから……なあ、俺が頼んでもダメなのか」
「ですが、なんとお呼びすればいいのですか?」
「そうですよ」
「だからさ、『ドラン』でいいんじゃないの?」
「「ダメです!」」
「えぇ~」

 ドランはどうにか二人からの呼びをどうにかして止めて欲しかったのだが、代案の『ドラン』と呼べと言えばソレはダメだと断られる。

「でもさ、町に出て俺のことを『坊ちゃん』と呼べば、それは貴族とかお金持ちと周りにバラすようなモノじゃないの? だからさ、町に出た時限定ってことでお願い出来ないかな」
「確かに坊ちゃんの言うように町に出れば『坊ちゃん』呼びは危険が増しますね。では、いっそのこと町に出るのは止めましょうか」
「それはイヤだよ」
「ですが……」
「でもいくら演技とは言え、坊ちゃんを呼び捨てにする訳にはまいりません」
「……それもそうか。あ!」
「何か名案でも?」
「あのさ……呼び捨てじゃなければいいんだよね」
「それはそうですが、お名前を呼ぶのもどうかと思いますが……」
「だからさ、俺のことは『タツ』って呼んでくれよ」
「「タツ?」」
「そう、タツだ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...