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第二章 1.双極の秘跡
27話 椎名との共同作戦
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「愛海ちゃん、これはどういうこと?二人で買い物のはずでは?」
目の前には愛海――椿愛海の他に二人いた。襟足を少し長めに伸ばしているマッシュウルフの髪型の少年とミルクティーベージュのボブヘアの少女。一人は1年4組の椎名透と、もうひとりは――。
彼と同じクラスの子だろうか。廊下で見かけたことはあるが、名前は知らない。
「来る途中、たまたま椎名くんたちと会ってね。二人も同じショッピングモールに行くってことだったから連れてきちゃった」
ヒナは愛海との約束が違うことに少し不満に思っていた。橘愛海から携帯端末にメッセージが届いたのは先日だ。
『今週の土曜日って空いてる?』
愛海からのメッセージはこのような件名で始まっていた。内容は、一緒に買物に付き合ってほしい――。
愛海からのお誘いにヒナは嬉しかった。転入してからクラス活動を通して友達は何人かできたが、こうして一緒に出かけることはなかったからだ。
アーカロイドを操作している今、食事のお誘いだったら残念ながらお断りしていたが、ショッピングならヒナも楽しめる。
久しぶりの友人との休日を楽しみにしていたのに……。
なんで、あまり親しくない人たちがいるの?
椎名と目があうと、彼はぎこちなく手を振ってきた。
椎名とは先輩とテニスの試合のあと、声をかけられてその日、以降学校で会えば挨拶をしたり、少し話すようにはなった程度だ。
だが、もうひとりの少女とはまだ一切関わりがない。
小学生の頃は友達は多い方だったが、事故以来、ヒナは少し引っ込み思案になっていた。
自分のせいで誰かに迷惑をかけてしまうと思っていたから。学校でも教室の後ろの方で一人で過ごすことが多かった。だから友達はほとんどいないに等しかった。
初対面だから苦手というわけではない。今後、仲良くなれる可能性ももちろんあるが、同じクラスでもないのに面識の無い人と何かをするという経験が少なく、相手に嫌な思いをさせてしまうのが怖かった。
でも今更、追い返すわけにもいかない。ここは愛海のことを信じよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……ねぇ、椎名。良い案ていうのはどこにあるの?」
私はあたりをキョロキョロと見回しながら、彼の言う「良い案」を探す。
「目の前にあるんだけどな……」
私のあからさまな素振りをみて急に弱気になる椎名。
「え?だってこれ修羅場じゃないの!?」
体育の授業でバレーの試合があった日。その日の放課後に椎名から「例の件で話がある」と持ちかけられた。
その時、詳細はあまり話してくれなかったが、彼女――旭川ヒナと約束が取れたという。そのことだけでも私の中では念願の目標が叶った気分だった。だが正確には、友人を介してだったが。
その点はいい。今週の土曜日の13時に来るよう、集合場所を伝えられ、椎名と合流して少し歩いたらこの展開だ。
集合時間がお昼過ぎなのは――彼女の要望だったらしい――私としても都合が良かったが、この状況はあからさまにもほどがある。
要するに椎名の「良い案」というのは、「偶然ばったり会ってしまいました」系だ。ヒナの様子を見る限り、このことについて何も連絡がいっていないのは明白だった。
おそらく、ヒナと同じクラスにいる友だち――椿愛海。彼女が例の仲介者なのだろう。それにしても椎名はいろんな人と繋がりが多いんだな。
このままでは無言の状態が続いてしまう。ここは付いて来てしまった私たちが何かアクションを起こすのが筋だろう。
自分で自分の背中を押すように、私は前に進む。
ヒナと向かい合うと、深呼吸をして不安を振り払い、自己紹介をした。
「あの――私、加野詩絵、っていいます。急にごめんね。もし迷惑でなければ一緒に行動しても良い?」
「わ……たし、旭川ヒナです。私と一緒で良ければ……どうぞ」
緊張していたのか少し小声で自己紹介をしたヒナは、うつむきがちだったが最後には私と目を合わせてくれた。
まるで、テニスの試合をしていたときとは違う印象だ。
「ありがとう。よろしくね、旭川さん」
ここまでの道のりは長かった。ヒナは今、目を合わせてくれたが私はヒナと廊下で会っても逃げてばかりいた。
椎名にも感謝しなきゃだな。普通に関われない私は、無茶なやり方ではあったがこうした状況じゃないと関わるきっかけができなかった。これはこれで私らしくていいじゃないか。
とにかく、「ヒナと関わる」という夢が叶った。だが、まだスタートラインだ。ここから仲を深めていかなければならない。アーカロイドのことを――お互いの秘密を言い合える仲まで。
「ともあれ、お互い自己紹介も終わったし。行くか」
そんな椎名の楽観的な提案に、ヒナは小さく笑った。
椎名はムードメーカーだな。修羅場の状況をなんとかしてほしかったけど。
今の一瞬で雰囲気が明るくなった気がする。
私たちは椎名の先導で、イオンレイクタウンを目指した。
目の前には愛海――椿愛海の他に二人いた。襟足を少し長めに伸ばしているマッシュウルフの髪型の少年とミルクティーベージュのボブヘアの少女。一人は1年4組の椎名透と、もうひとりは――。
彼と同じクラスの子だろうか。廊下で見かけたことはあるが、名前は知らない。
「来る途中、たまたま椎名くんたちと会ってね。二人も同じショッピングモールに行くってことだったから連れてきちゃった」
ヒナは愛海との約束が違うことに少し不満に思っていた。橘愛海から携帯端末にメッセージが届いたのは先日だ。
『今週の土曜日って空いてる?』
愛海からのメッセージはこのような件名で始まっていた。内容は、一緒に買物に付き合ってほしい――。
愛海からのお誘いにヒナは嬉しかった。転入してからクラス活動を通して友達は何人かできたが、こうして一緒に出かけることはなかったからだ。
アーカロイドを操作している今、食事のお誘いだったら残念ながらお断りしていたが、ショッピングならヒナも楽しめる。
久しぶりの友人との休日を楽しみにしていたのに……。
なんで、あまり親しくない人たちがいるの?
椎名と目があうと、彼はぎこちなく手を振ってきた。
椎名とは先輩とテニスの試合のあと、声をかけられてその日、以降学校で会えば挨拶をしたり、少し話すようにはなった程度だ。
だが、もうひとりの少女とはまだ一切関わりがない。
小学生の頃は友達は多い方だったが、事故以来、ヒナは少し引っ込み思案になっていた。
自分のせいで誰かに迷惑をかけてしまうと思っていたから。学校でも教室の後ろの方で一人で過ごすことが多かった。だから友達はほとんどいないに等しかった。
初対面だから苦手というわけではない。今後、仲良くなれる可能性ももちろんあるが、同じクラスでもないのに面識の無い人と何かをするという経験が少なく、相手に嫌な思いをさせてしまうのが怖かった。
でも今更、追い返すわけにもいかない。ここは愛海のことを信じよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……ねぇ、椎名。良い案ていうのはどこにあるの?」
私はあたりをキョロキョロと見回しながら、彼の言う「良い案」を探す。
「目の前にあるんだけどな……」
私のあからさまな素振りをみて急に弱気になる椎名。
「え?だってこれ修羅場じゃないの!?」
体育の授業でバレーの試合があった日。その日の放課後に椎名から「例の件で話がある」と持ちかけられた。
その時、詳細はあまり話してくれなかったが、彼女――旭川ヒナと約束が取れたという。そのことだけでも私の中では念願の目標が叶った気分だった。だが正確には、友人を介してだったが。
その点はいい。今週の土曜日の13時に来るよう、集合場所を伝えられ、椎名と合流して少し歩いたらこの展開だ。
集合時間がお昼過ぎなのは――彼女の要望だったらしい――私としても都合が良かったが、この状況はあからさまにもほどがある。
要するに椎名の「良い案」というのは、「偶然ばったり会ってしまいました」系だ。ヒナの様子を見る限り、このことについて何も連絡がいっていないのは明白だった。
おそらく、ヒナと同じクラスにいる友だち――椿愛海。彼女が例の仲介者なのだろう。それにしても椎名はいろんな人と繋がりが多いんだな。
このままでは無言の状態が続いてしまう。ここは付いて来てしまった私たちが何かアクションを起こすのが筋だろう。
自分で自分の背中を押すように、私は前に進む。
ヒナと向かい合うと、深呼吸をして不安を振り払い、自己紹介をした。
「あの――私、加野詩絵、っていいます。急にごめんね。もし迷惑でなければ一緒に行動しても良い?」
「わ……たし、旭川ヒナです。私と一緒で良ければ……どうぞ」
緊張していたのか少し小声で自己紹介をしたヒナは、うつむきがちだったが最後には私と目を合わせてくれた。
まるで、テニスの試合をしていたときとは違う印象だ。
「ありがとう。よろしくね、旭川さん」
ここまでの道のりは長かった。ヒナは今、目を合わせてくれたが私はヒナと廊下で会っても逃げてばかりいた。
椎名にも感謝しなきゃだな。普通に関われない私は、無茶なやり方ではあったがこうした状況じゃないと関わるきっかけができなかった。これはこれで私らしくていいじゃないか。
とにかく、「ヒナと関わる」という夢が叶った。だが、まだスタートラインだ。ここから仲を深めていかなければならない。アーカロイドのことを――お互いの秘密を言い合える仲まで。
「ともあれ、お互い自己紹介も終わったし。行くか」
そんな椎名の楽観的な提案に、ヒナは小さく笑った。
椎名はムードメーカーだな。修羅場の状況をなんとかしてほしかったけど。
今の一瞬で雰囲気が明るくなった気がする。
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