UQ(アーカム・クエスト)

心桜鶉

文字の大きさ
上 下
27 / 40
第二章 1.双極の秘跡

27話 椎名との共同作戦

しおりを挟む
「愛海ちゃん、これはどういうこと?二人で買い物のはずでは?」

 目の前には愛海――椿愛海の他に二人いた。襟足を少し長めに伸ばしているマッシュウルフの髪型の少年とミルクティーベージュのボブヘアの少女。一人は1年4組の椎名透と、もうひとりは――。
 彼と同じクラスの子だろうか。廊下で見かけたことはあるが、名前は知らない。

「来る途中、たまたま椎名くんたちと会ってね。二人も同じショッピングモールに行くってことだったから連れてきちゃった」
 
 ヒナは愛海との約束が違うことに少し不満に思っていた。橘愛海から携帯端末にメッセージが届いたのは先日だ。
 
 『今週の土曜日って空いてる?』
 
 愛海からのメッセージはこのような件名で始まっていた。内容は、一緒に買物に付き合ってほしい――。
 愛海からのお誘いにヒナは嬉しかった。転入してからクラス活動を通して友達は何人かできたが、こうして一緒に出かけることはなかったからだ。
 アーカロイドを操作している今、食事のお誘いだったら残念ながらお断りしていたが、ショッピングならヒナも楽しめる。
 久しぶりの友人との休日を楽しみにしていたのに……。
 なんで、あまり親しくない人たちがいるの?
 椎名と目があうと、彼はぎこちなく手を振ってきた。
 椎名とは先輩とテニスの試合のあと、声をかけられてその日、以降学校で会えば挨拶をしたり、少し話すようにはなった程度だ。
 だが、もうひとりの少女とはまだ一切関わりがない。
 小学生の頃は友達は多い方だったが、事故以来、ヒナは少し引っ込み思案になっていた。
 自分のせいで誰かに迷惑をかけてしまうと思っていたから。学校でも教室の後ろの方で一人で過ごすことが多かった。だから友達はほとんどいないに等しかった。
 初対面だから苦手というわけではない。今後、仲良くなれる可能性ももちろんあるが、同じクラスでもないのに面識の無い人と何かをするという経験が少なく、相手に嫌な思いをさせてしまうのが怖かった。
 でも今更、追い返すわけにもいかない。ここは愛海のことを信じよう。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
 

 「……ねぇ、椎名。良い案ていうのはどこにあるの?」

 私はあたりをキョロキョロと見回しながら、彼の言う「良い案」を探す。

 「目の前にあるんだけどな……」

 私のあからさまな素振りをみて急に弱気になる椎名。

 「え?だってこれ修羅場じゃないの!?」

 体育の授業でバレーの試合があった日。その日の放課後に椎名から「例の件で話がある」と持ちかけられた。
 その時、詳細はあまり話してくれなかったが、彼女――旭川ヒナと約束が取れたという。そのことだけでも私の中では念願の目標が叶った気分だった。だが正確には、友人を介してだったが。
 その点はいい。今週の土曜日の13時に来るよう、集合場所を伝えられ、椎名と合流して少し歩いたらこの展開だ。
 集合時間がお昼過ぎなのは――彼女の要望だったらしい――私としても都合が良かったが、この状況はあからさまにもほどがある。
 要するに椎名の「良い案」というのは、「偶然ばったり会ってしまいました」系だ。ヒナの様子を見る限り、このことについて何も連絡がいっていないのは明白だった。
 おそらく、ヒナと同じクラスにいる友だち――椿愛海。彼女が例の仲介者なのだろう。それにしても椎名はいろんな人と繋がりが多いんだな。
 このままでは無言の状態が続いてしまう。ここは付いて来てしまった私たちが何かアクションを起こすのが筋だろう。
 自分で自分の背中を押すように、私は前に進む。
 ヒナと向かい合うと、深呼吸をして不安を振り払い、自己紹介をした。

 「あの――私、加野詩絵、っていいます。急にごめんね。もし迷惑でなければ一緒に行動しても良い?」

「わ……たし、旭川ヒナです。私と一緒で良ければ……どうぞ」

 緊張していたのか少し小声で自己紹介をしたヒナは、うつむきがちだったが最後には私と目を合わせてくれた。
 まるで、テニスの試合をしていたときとは違う印象だ。
 
 「ありがとう。よろしくね、旭川さん」

 ここまでの道のりは長かった。ヒナは今、目を合わせてくれたが私はヒナと廊下で会っても逃げてばかりいた。
 椎名にも感謝しなきゃだな。普通に関われない私は、無茶なやり方ではあったがこうした状況じゃないと関わるきっかけができなかった。これはこれで私らしくていいじゃないか。
 とにかく、「ヒナと関わる」という夢が叶った。だが、まだスタートラインだ。ここから仲を深めていかなければならない。アーカロイドのことを――お互いの秘密を言い合える仲まで。

 「ともあれ、お互い自己紹介も終わったし。行くか」

 そんな椎名の楽観的な提案に、ヒナは小さく笑った。
 椎名はムードメーカーだな。修羅場の状況をなんとかしてほしかったけど。
 今の一瞬で雰囲気が明るくなった気がする。
 私たちは椎名の先導で、イオンレイクタウンを目指した。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...