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猛特訓 6

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「みんな……もう遅いのに、私を待っていてくれたのか」

 フェリクスはちょっと感動してしまった。

「団長、リステアードに捕まって、大変だったな」

 リステアードと親しい、古参の団員が、労わるような声を掛けてきた。
 魔法師団最年長である彼は、魔法師団歴も一番長く、リステアードの配慮により、フェリクスを女性だと最初から知っているうちの一人であった。

「はは……隙を見て、逃げてきちゃいました」

 フェリクスはそんな彼に、曖昧に微笑んでごまかした。

「ミラン殿下が練習場に向かっただろう? お前さんのこと、かなり本気で心配してたぞ」

 フェリクスはどう答えようか戸惑った。今も多分ミランとリステアードは殴り合いの兄弟げんかをしているに違いない。

「あ、それ、俺も見てました。本当に、風のように走っていきましたよね、ミラン殿下」

「フェリクス団長のことになると、顔色が変わるんですよ」

「へえ……そうなのか」

 他の団員たちの言葉に、フェリクスは冷静に返したが、心の中ではびっくりしていた。

 ミラン殿下は確かに、急いで駆けつけてくれたふうだった。
 ……そんなに私のこと、心配してくれたの?

 そう思いつつ、すぐに否定する。

 私ってば、何変な期待してるんだろう。ミラン殿下は、今でもマルガレーテ嬢のことを思っているに、違いないのに。
 さっきだって、マルガレーテ嬢のことで、リステアード王太子に対して、ムキになって怒っていたし。

 ダメだよね、変に、勘違いしたらいけない。

「それはそうと、フェリクス団長よ、二週間後のキッズ向けショーのこと、そんなに気負わなくてもいいからな」

「え」

 古参の団員の言葉に、フェリクスは我に返った。

「お前さんに無理な部分は、俺達がカバーするから。そのための仲間だろう?」

「そうですよ、団長。上手く必殺技が出せなくても、俺達がフォローしますから」

「いつも団長に助けられていますから、こういうときは、僕らを頼って下さい!」

 団員たちが、あたたかいまなざしで、フェリクスを取り囲んだ。フェリクスは泣きそうになるのを急いで引っ込めた。

「君たち、どうもありがとう。だけど、私は団長として、精一杯必殺技を繰り出すよ。もし白けたら、フォローを頼む。いいかな?」

「もちろんですよ、フェリクス団長!」

「私、とっても嬉しいよ」

「だ、団長、笑うと本当に何だか可愛いですね! いつもの精悍な感じが嘘みたい」

「おうよ、我らが団長はキュートだよな」

 古参の団員が、あはは、と豪快に笑った。



 そして、キッズ向けショー当日。

 エルドゥ王国の子供たちは、フェリクス達が思っている以上に大人であった。

 察して、思いやりを持つということを知っていた。

「み、みんな! 団長のお、俺に、魔法の力を集めてくれ……!」

「フェリクスだんちょー、がんばれー」

「あはは、へんなのー。だんちょう、窓ふきしてるみたいー」

「いけないんだよ、そういうこと言っちゃ! フェリクスだんちょーは、いっしょうけんめい、がんばってるんだから!」

「そっかあ、そうだよね。ごめんだんちょー、がんばってー」

「み、みんな、ありがとう! よし、とどめだ! 覚悟しろ! フェ、フェリクスペシャル・ファイナル・クールビューティー・ラ・アターック!!」

「あたーっく!」

 必殺技が当たるのをずっと待っていた魔物は、ようやくかとばかりに、やられたふりをして、どうと倒れた。フェリクスより、演技にこなれた魔物である。
 他の団員がフェリクスのフォローをするまでもなく、子供たちが適宜フォローしつつ、盛り上げてくれたので、キッズ向けショーはまあまあ成功に終わったのだった。

 めでたしめでたし。




 猛特訓     おわり。 
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