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エルドゥ王国の新しい行事
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エルドゥ王国は暖かい時期から、少し寒い時期へと変わろうとしていた。
王国の人々はいつものようにみな穏やかに、平和に暮らしている。
いつもとちょっと違うのは、今日は「魔法師団による特別なパフォーマンスがある」と王国中に王宮が発表したということ。
一体何が起こるんだろう、と、いつもよりちょっとだけエルドゥ王国の人々はわくわくしたり、そわそわしていた。
日が沈むころ、それははじまった。
「メリークリスマス!」
聞きなれない単語とともに、魔法師団たちが浮遊魔法で飛び回り、町中にお菓子や飲み物のプレゼントを配って回った。
「いつも私たちを応援してくれて、ありがとう。ささやかな、王宮からのお礼です」
この日のために、あらかじめ魔法師団は王国中に分かれてスタンバイし、王宮に花火が上がるとともに魔法師団たちも魔法で花火を打ち上げ、それを合図に夜の町を飛び回った。
王都担当のフェリクス・ブライトナーも、魔法で色とりどりの花を出しながら、人々にプレゼントを配って行った。
何事かと家から出てきた男の子にお菓子を、窓から顔を出す老婦人にハーブティーを。仕事を終えて家に帰る青年にワインを。公園で肩を寄せ合う恋人にはそっと花の首飾りを。
なるべくたくさんの人にプレゼントを届けないと。
フェリクスはたくさんのプレゼントが入った袋を担ぎつつ、優雅な身のこなしで夜を駆ける反面、てきぱきと行動していた。
「メリークリスマス、レディ。お花とキャンディーをどうぞ」
「きゃああ、フェリクス様!? ありがとうございます。でもメリークリスマスってなんですか?」
顔を真っ赤にして舞い上がる女性を前に、フェリクスは微笑んだ。
「平和と幸せの言葉だよ」
いつの日か、フェリクスが出会った「サンタクロース」と「トナカイのルドルフ」。
「異世界」からこちらの世界に迷い込んでしまったという。
どういう原理なのか分からない。
ただ「異世界」には夜、子供たちにプレゼントを配る、というイベントがあるらしい。それをエルドゥ王国でも取り入れよう、ということになったのだ。
プレゼントは子供たちだけではなく、国民すべてに……というのは現実無理があるが、できるだけ配れるように頑張る。
これがエルドゥ王国の新しい行事として始まるといい、とフェリクスは思う。
日頃の感謝を込めて、誰かが誰かにプレゼントを渡す日。
「フェリクス殿ーー。どうだ、進捗は」
トナカイに化けたポン助に乗ったミランが空から降りてきた。その恰好はサンタクロースそのもの。フェリクスが見たとおりに再現している。
赤い三角の帽子に、ベルトのついた赤い服。真っ白いひげ。
「ミラン殿下。お疲れ様です。こちらはあともう少しで配り終えます」
「そうか。僕の方も、ももも、もう少しだ、だだよ。あはは」
「本当に大丈夫ですか、ミラン殿下」
ミランは魔法を使えないので、トナカイに化けたポン助に乗って夜空を飛び回り、プレゼントを配っていた。
「高い所がだめなのに、無理をしているんじゃないですか」
「僕は魔法師団のマネージャーだよ。これくらいだ、だだ大丈夫、だよ」
ミランが胸をそらした。
「さあ、最後まで頑張ろう」
「はい」
♦♦♦
「メリークリスマス」
深夜……いや、もうすぐ日が昇ろうという時刻。
魔法師団団長室で、フェリシアとミランはテーブルをはさんで向き合っていた。
「無事に終わってよかったね。みんな喜んでくれるといいけど」
「感触的には成功だと思いますが、明日以降、他の団員たちが各地から帰ってきますから、それから改善点などを話し合いましょう」
「そうだね。さすがに今日は疲れた……フェリシアもお疲れ様。これ、僕からのプレゼントだよ。いつもありがとうフェリシア」
ミランがテーブルの上にワインボトルを置いた。
「いろいろ考えたんだけど、君はあんまりアクセサリーを身に着けないし、花にもそこまで興味がなさそうだし。君の好みそうな珍しいワインにした」
フェリシアがテーブルの上に四角い箱を置く。
「地方の伝統焼き菓子です。地方出身の団員からレシピを聞いて、お作りしました。ミラン殿下が好きそうだなって。マネージャーとして、いつも助けていただいている、私からのミラン殿下へのプレゼントです。いつもありがとうございます、ミラン殿下」
四角い箱を開けると、並んだ焼き菓子にミランの顔が輝いた。しかし。
「食べたい。食べたいけど、フェリシア」
「はい、私もワインを飲みたいのですけど……眠い、ですね」
「ああ。プレゼントを配りまくって、高い所に目が回って、限界だ」
「お菓子とワインは明日にしましょう。泊っていきますか、ミラン殿下」
「うん」
その日、フェリシアはいつか出会った「サンタクロース」の夢を見た。
異世界に住む、おひげの男性。それとトナカイのルドルフ。
メリークリスマス……サンタさん……ルドルフ……。
エルドゥ王国の新しい行事 終わり。
王国の人々はいつものようにみな穏やかに、平和に暮らしている。
いつもとちょっと違うのは、今日は「魔法師団による特別なパフォーマンスがある」と王国中に王宮が発表したということ。
一体何が起こるんだろう、と、いつもよりちょっとだけエルドゥ王国の人々はわくわくしたり、そわそわしていた。
日が沈むころ、それははじまった。
「メリークリスマス!」
聞きなれない単語とともに、魔法師団たちが浮遊魔法で飛び回り、町中にお菓子や飲み物のプレゼントを配って回った。
「いつも私たちを応援してくれて、ありがとう。ささやかな、王宮からのお礼です」
この日のために、あらかじめ魔法師団は王国中に分かれてスタンバイし、王宮に花火が上がるとともに魔法師団たちも魔法で花火を打ち上げ、それを合図に夜の町を飛び回った。
王都担当のフェリクス・ブライトナーも、魔法で色とりどりの花を出しながら、人々にプレゼントを配って行った。
何事かと家から出てきた男の子にお菓子を、窓から顔を出す老婦人にハーブティーを。仕事を終えて家に帰る青年にワインを。公園で肩を寄せ合う恋人にはそっと花の首飾りを。
なるべくたくさんの人にプレゼントを届けないと。
フェリクスはたくさんのプレゼントが入った袋を担ぎつつ、優雅な身のこなしで夜を駆ける反面、てきぱきと行動していた。
「メリークリスマス、レディ。お花とキャンディーをどうぞ」
「きゃああ、フェリクス様!? ありがとうございます。でもメリークリスマスってなんですか?」
顔を真っ赤にして舞い上がる女性を前に、フェリクスは微笑んだ。
「平和と幸せの言葉だよ」
いつの日か、フェリクスが出会った「サンタクロース」と「トナカイのルドルフ」。
「異世界」からこちらの世界に迷い込んでしまったという。
どういう原理なのか分からない。
ただ「異世界」には夜、子供たちにプレゼントを配る、というイベントがあるらしい。それをエルドゥ王国でも取り入れよう、ということになったのだ。
プレゼントは子供たちだけではなく、国民すべてに……というのは現実無理があるが、できるだけ配れるように頑張る。
これがエルドゥ王国の新しい行事として始まるといい、とフェリクスは思う。
日頃の感謝を込めて、誰かが誰かにプレゼントを渡す日。
「フェリクス殿ーー。どうだ、進捗は」
トナカイに化けたポン助に乗ったミランが空から降りてきた。その恰好はサンタクロースそのもの。フェリクスが見たとおりに再現している。
赤い三角の帽子に、ベルトのついた赤い服。真っ白いひげ。
「ミラン殿下。お疲れ様です。こちらはあともう少しで配り終えます」
「そうか。僕の方も、ももも、もう少しだ、だだよ。あはは」
「本当に大丈夫ですか、ミラン殿下」
ミランは魔法を使えないので、トナカイに化けたポン助に乗って夜空を飛び回り、プレゼントを配っていた。
「高い所がだめなのに、無理をしているんじゃないですか」
「僕は魔法師団のマネージャーだよ。これくらいだ、だだ大丈夫、だよ」
ミランが胸をそらした。
「さあ、最後まで頑張ろう」
「はい」
♦♦♦
「メリークリスマス」
深夜……いや、もうすぐ日が昇ろうという時刻。
魔法師団団長室で、フェリシアとミランはテーブルをはさんで向き合っていた。
「無事に終わってよかったね。みんな喜んでくれるといいけど」
「感触的には成功だと思いますが、明日以降、他の団員たちが各地から帰ってきますから、それから改善点などを話し合いましょう」
「そうだね。さすがに今日は疲れた……フェリシアもお疲れ様。これ、僕からのプレゼントだよ。いつもありがとうフェリシア」
ミランがテーブルの上にワインボトルを置いた。
「いろいろ考えたんだけど、君はあんまりアクセサリーを身に着けないし、花にもそこまで興味がなさそうだし。君の好みそうな珍しいワインにした」
フェリシアがテーブルの上に四角い箱を置く。
「地方の伝統焼き菓子です。地方出身の団員からレシピを聞いて、お作りしました。ミラン殿下が好きそうだなって。マネージャーとして、いつも助けていただいている、私からのミラン殿下へのプレゼントです。いつもありがとうございます、ミラン殿下」
四角い箱を開けると、並んだ焼き菓子にミランの顔が輝いた。しかし。
「食べたい。食べたいけど、フェリシア」
「はい、私もワインを飲みたいのですけど……眠い、ですね」
「ああ。プレゼントを配りまくって、高い所に目が回って、限界だ」
「お菓子とワインは明日にしましょう。泊っていきますか、ミラン殿下」
「うん」
その日、フェリシアはいつか出会った「サンタクロース」の夢を見た。
異世界に住む、おひげの男性。それとトナカイのルドルフ。
メリークリスマス……サンタさん……ルドルフ……。
エルドゥ王国の新しい行事 終わり。
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