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フェリシア殺人事件 2
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ポン助は期間限定で隣国から貸し出された狸そっくりの魔物である。
人に化ける魔法を自由自在に使え、今や魔法師団のパフォーマンスに欠かせない存在になっている。魔法師団のマスコット的存在と言っていいだろう。
人間にとって危険な魔法を使えるわけではないので、一番懐いているフェリシアが見張っているという条件付きで、王宮内を比較的自由に動き回ることを認められていたのだった。
「やっぱりポンだったか」
そう言って漆黒の前髪をキザったらしくかき上げたのは、王太子、リステアードだった。「死んでるフェリシア君から魔力が感知できるなんておかしいと思ったんだ」
「ポン助、死んだフェリシアに化けて、僕をからかったのか!? いくらなんでも許せない、狸鍋にしてやる!」
怒り心頭のミランはそう言うなり、ポン助のしっぽを掴んで持ち上げようとした。ポン助は驚いて、手足をばたつかせながら必死に抵抗する。
それを見たフェリシアが素早く室内に入ってきて、今だ膝をついたままのミランの前に同じように膝をついた。
「やめて下さいミラン殿下。ポンちゃん……ポン助をちゃんと見張ってなかった私が悪いんです」
ミランの手からさり気なくポン助を救出し、自分の胸に引き寄せる。ポン助は安心したようにフェリシアに抱きつく。
怒りをぶつけそこなった第三王子は、懇願するフェリシアをじっと見つめていたかと思うと、突然その端正な顔を歪めて、声を震わせた。
「僕は、てっきり君が、誰かに殺されたのかと思って……君が死んだと思って、僕は、ぼくは」
ミランは右手を伸ばし、確かめるように、慈しむように、ゆっくりとフェリシアの頭や顔を撫でると、そのまま抱き寄せた。
「フェリシア、君、生きてるんだね。良かった、本当に良かった」
「私はミラン殿下を置いて、死んだりしませんよ」
フェリシアもそっとミランの背に腕を回した。フェリシアとミランの間で、ポン助は窮屈そうにしていた。
「はいはい、続きは後にしてくれ」
抱き合う二人の傍ら、リステアードがパンパンと手を叩いた。フェリシアとミランははっとして離れ、立ち上がった。
「今回はポンの悪戯ってことで一件落着だな。だけどフェリシア君、ちゃんと今後はポン助が悪戯しないように見張ってないとダメだよ」
「は、はい。申し訳ありませんでした、リステアード王太子殿下。以後、気をつけます」
フェリシアは魔法師団団長の顔になって、リステアードに敬礼した。
ポン助はフェリシアが叱られていると思ったのか、フェリシアの胸からリステアードの胸に飛び移ると、リステアードにしがみつきながら頭をぶんぶん振った。その様子を見て、リステアードは微笑を浮かべた。
「なんだい、ポン、フェリシア君を庇っているのか。ポンは俺たちの言葉が分かるのか?」
そう問われたフェリシアは、ちょっとぎくりとした顔をした。代わりにミランが答えた。
「そうだね。パフォーマンスで複雑な指示をだしても正確に指示通り動くし、かなり人間の言葉が分かるんじゃないかな。他の魔物より、人間の言葉を理解してると思うよ」
「なんで今ぎくりとした顔したんだい、フェリシア君」
めざとくリステアードが尋ねた。フェリシアはいつもの毅然とした彼女らしくなく、青い目を泳がせた。
「言いなさい、フェリクス・ブライトナー団長」
「はい、申し上げます……多分、今回のポン助の行動の原因は私です」
人に化ける魔法を自由自在に使え、今や魔法師団のパフォーマンスに欠かせない存在になっている。魔法師団のマスコット的存在と言っていいだろう。
人間にとって危険な魔法を使えるわけではないので、一番懐いているフェリシアが見張っているという条件付きで、王宮内を比較的自由に動き回ることを認められていたのだった。
「やっぱりポンだったか」
そう言って漆黒の前髪をキザったらしくかき上げたのは、王太子、リステアードだった。「死んでるフェリシア君から魔力が感知できるなんておかしいと思ったんだ」
「ポン助、死んだフェリシアに化けて、僕をからかったのか!? いくらなんでも許せない、狸鍋にしてやる!」
怒り心頭のミランはそう言うなり、ポン助のしっぽを掴んで持ち上げようとした。ポン助は驚いて、手足をばたつかせながら必死に抵抗する。
それを見たフェリシアが素早く室内に入ってきて、今だ膝をついたままのミランの前に同じように膝をついた。
「やめて下さいミラン殿下。ポンちゃん……ポン助をちゃんと見張ってなかった私が悪いんです」
ミランの手からさり気なくポン助を救出し、自分の胸に引き寄せる。ポン助は安心したようにフェリシアに抱きつく。
怒りをぶつけそこなった第三王子は、懇願するフェリシアをじっと見つめていたかと思うと、突然その端正な顔を歪めて、声を震わせた。
「僕は、てっきり君が、誰かに殺されたのかと思って……君が死んだと思って、僕は、ぼくは」
ミランは右手を伸ばし、確かめるように、慈しむように、ゆっくりとフェリシアの頭や顔を撫でると、そのまま抱き寄せた。
「フェリシア、君、生きてるんだね。良かった、本当に良かった」
「私はミラン殿下を置いて、死んだりしませんよ」
フェリシアもそっとミランの背に腕を回した。フェリシアとミランの間で、ポン助は窮屈そうにしていた。
「はいはい、続きは後にしてくれ」
抱き合う二人の傍ら、リステアードがパンパンと手を叩いた。フェリシアとミランははっとして離れ、立ち上がった。
「今回はポンの悪戯ってことで一件落着だな。だけどフェリシア君、ちゃんと今後はポン助が悪戯しないように見張ってないとダメだよ」
「は、はい。申し訳ありませんでした、リステアード王太子殿下。以後、気をつけます」
フェリシアは魔法師団団長の顔になって、リステアードに敬礼した。
ポン助はフェリシアが叱られていると思ったのか、フェリシアの胸からリステアードの胸に飛び移ると、リステアードにしがみつきながら頭をぶんぶん振った。その様子を見て、リステアードは微笑を浮かべた。
「なんだい、ポン、フェリシア君を庇っているのか。ポンは俺たちの言葉が分かるのか?」
そう問われたフェリシアは、ちょっとぎくりとした顔をした。代わりにミランが答えた。
「そうだね。パフォーマンスで複雑な指示をだしても正確に指示通り動くし、かなり人間の言葉が分かるんじゃないかな。他の魔物より、人間の言葉を理解してると思うよ」
「なんで今ぎくりとした顔したんだい、フェリシア君」
めざとくリステアードが尋ねた。フェリシアはいつもの毅然とした彼女らしくなく、青い目を泳がせた。
「言いなさい、フェリクス・ブライトナー団長」
「はい、申し上げます……多分、今回のポン助の行動の原因は私です」
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