ツンな猫君の恋愛事情

結城れい

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11 振り返り

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「は、何? デートが失敗したの?」
「――いや、おおむね成功したが、アクシデントがあった」

 朋也は迅の話を聞きながら、ため息をついた。

「いや、絶対逆でしょ」

 大学の講義室で、頬杖を突きながら隣に座る迅へと顔を向けた朋也は、ぼそりと呟いた。月曜1限の講義であったため最悪のコンディションのなか、眠気が取れずに何度も目をこすりながら受けていたが、隣の男はまったく眠そうではなく、逆に生き生きとしていた。ようやく90分という長い講義が終わり、休憩に入ったため、朋也は姿勢を崩したまま迅の話を聞く。
 どうやらバーでナンパした――あれがナンパと呼べるのか怪しいが――彼と日曜にデートをしてきたとのことだが、絶対にやらかしている気しかしない。

「で、アクシデントって何があったの?」
「実は調べていた店が急遽きゅうきょ休みになっていてな。店休日は調べていたんだが、まさかそんなことがあるとは思わず、第2候補を調べていなかったんだ……」
「へぇー。で、どうしたの? その場で調べて行った先の店が良くなかったとか?」
「いや、彼が調べてくれて、店の料理は旨かった」
「なら、いいじゃん」
「ちょっと戸惑ってしまったことが悔やまれるんだ。かっこ悪いと思われていないか心配でな……その他は上手くできていたと思うが……」

 真剣に悩んでいる迅を前に、朋也は呆れた。それ以外の部分にも反省する点は無数にあるに決まっている。そもそも、デート中にちゃんと話せていたのだろうか。バーでの彼に対する迅の態度を知っている朋也からすれば、概ね成功という迅の言葉は全く信用できなかった。
 段々と面白さを感じてきた朋也は、迅にデートの詳細を聞いていく。

「そもそも、どこに行ったんだ?」
「映画だ」
「おお、いいじゃん。何見たの?」
「『ネズミ君の大冒険』だ」
「は? それって迅が見たかった映画じゃん! デートでそれかよ――」
「いや、彼から提案してくれたんだ」
「あら、そう……」

 そもそも、迅の初対面の対応は酷いものだったはずだが、OKを出した彼はいったい何者なのだろうか。もしかしたら、迅と相性がいいのかもしれない。朋也は手に持ったシャーペンを器用に回しながらそんなことを考えた。

「で、映画を見て、飯食って、次は?」
「彼を家まで送った」
「え、まだ昼過ぎじゃないの?」
「そうだが? ちゃんとアパートまで送ったぞ」
「は? 向こうの家でヤッたの?」
「ヤッた?」

 聞き返してきた迅に、朋也は固まり、シャーペンを落としてしまった。講義室の床に落ちてしまい、カチャンと乾いた音が響く。
 慌てて拾い上げた朋也は迅の顔を見るが、本当に分かっていないようだ。

「セックスだよ、セックス」

 講義室には他の人もいるため、朋也は迅の耳元で囁いた。

「――――は?」

 次は迅が固まり、徐々に顔が赤くなる。

「お前、嘘だろ……。まだ清い感じなのかよ」
「――いや、そういうことはお互いに20歳になって、責任を持てる歳になってからでないと……」
「はぁ? マジで?」
「それに彼とはまだ付き合ったばかりだ……」
「――――」

 未知の生物に出会ったような顔をして凝視してくる朋也に気づかず、迅は話を続けた。

「彼とは年齢も一緒で、映画の趣味も合う。それに一緒にいると、ドキドキするがどこか安心できるんだ。こんな感情は初めてだ。もしかすると、運命の相手なのかもしれない」
「――箱入り娘が初めての恋を知ったときみたいだな……でも、まあ、そうか、よかったな。今まで見たいな金目当てのやつじゃないんだろ?」
「ああ、彼は俺が支払うと遠慮してくるんだ。自分で財布も持ってきていたし、買ってほしいと言われることも1回もなかった」
「いや、それが普通なんだけどな――初めてのまともな恋愛かー」

 迅は昨日のデートを思い返す。正直、緊張しすぎて映画の内容はまったく覚えていないため、もう一度見に行こうと決めている。昼食も初めての店だったが、とても美味しかった。恋人らしく料理を分け合って食べるなど初めてのことで、なかなか前に座っている樹の顔を見ることはできなかったが、よく笑ってくれていた気がする。それに、いくつかの重要な情報を得ることもできた。樹の年齢や種族、それに好きな食べ物まで――
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