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60 換毛期
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いつも通りの朝。眠りから目覚めかけたアレスは違和感を感じた。
――握りしめた手の中に何かが入っている
まだ眠く、うまく開かない目を無理やりあけて確認すると、握りしめた手の隙間から毛が見えた。
一瞬で眠気が吹き飛んだアレスは慌てて手を開く。毛は銀色でルーカスのものだ。
上半身を起こして下にあるルーカスの体を見える範囲で確認するが、特に毛がなくなっている部分はない。眠っている間に寝ぼけてルーカスの体毛を毟ってしまったかと思ったが、どうやら違うようだ。それなら一体この毛は何処から――とアレスが考えていると、ルーカスが動いた。
「んっ、アレス」
「――あ、ルーカス、おはよう」
アレスは慌てて手の中にある毛を握りしめて隠す。
「布団片づけとくから、先に顔洗ってきなよ」
「……ああ、ありがとう」
まだ完全に起きていないルーカスの背中を押しながら背中側も確認するが、特に毛がなくなっている場所はない。ルーカスを寝室から出した後、首をかしげながら布団へ目をやったアレスは動きを止めた。
――毛の塊が落ちている
アレスの手の中にあるものと同じくらいの毛が布団の上にもぽつんと落ちている。急いで拾い上げたアレスはどちらとも服の中に仕舞って布団をたたんだ。
鳥人族で羽が抜ける時と言えば、病気の時かストレスがある時だ。
もしかしてルーカスは何か不調があるのだろうか。心配に思いながら、直接聞いてもいいものなのか悩みつつアレスは寝室から出た。
「ルーカス、体調はどう?」
「ん? 特に悪いとこもなく、元気だがどうした?」
朝食を食べながらさりげなく体調を尋ねる。見たところ朝食も元気に食べているため、食欲もありそうだ。本当に不調はなさそうに見える。
「ううん。なんとなく」
「そうか。アレスはどうだ?」
「うん。元気だよ! 悩み事とかもない?」
「ああ。大丈夫だ。何かあればアレスに直ぐ言う」
ルーカスの腕がアレスへと伸びてきて、頭を優しく撫でてくる。一度頷いたアレスは手元の果実を見つめて口に入れた。
******
「ああ、それは換毛期じゃな」
「かんもうき?」
ストレスではないなら病気かもしれないと思ったアレスが診療所で先生に相談すると、直ぐに答えが返ってきた。
「冬が終わって気温が上がってきたときに――ちょうど今くらいの時期じゃな、冬用の毛が一気に抜けるんじゃよ。病気じゃないから心配せんでもよい。毎年あるもんじゃ」
「――はぁ、よかった」
アレスは先生に見せるために手に持っていた毛の塊を見ながら、安堵の息を吐いた。
病気でもストレスでもなく、ルーカスの毛は毎年同じ時期に抜けるようだ。昨年のこの時期は一緒にいなかったので知らなかった。
「毛づくろい用の櫛で梳かしてあげればよい。ルーカスも喜ぶじゃろ」
「そうなんだ! 先生ありがとう」
診療所の手伝いが終わったら早速商店に行って櫛を探そうと決めたアレスは、毛の塊を服に仕舞った。
――握りしめた手の中に何かが入っている
まだ眠く、うまく開かない目を無理やりあけて確認すると、握りしめた手の隙間から毛が見えた。
一瞬で眠気が吹き飛んだアレスは慌てて手を開く。毛は銀色でルーカスのものだ。
上半身を起こして下にあるルーカスの体を見える範囲で確認するが、特に毛がなくなっている部分はない。眠っている間に寝ぼけてルーカスの体毛を毟ってしまったかと思ったが、どうやら違うようだ。それなら一体この毛は何処から――とアレスが考えていると、ルーカスが動いた。
「んっ、アレス」
「――あ、ルーカス、おはよう」
アレスは慌てて手の中にある毛を握りしめて隠す。
「布団片づけとくから、先に顔洗ってきなよ」
「……ああ、ありがとう」
まだ完全に起きていないルーカスの背中を押しながら背中側も確認するが、特に毛がなくなっている場所はない。ルーカスを寝室から出した後、首をかしげながら布団へ目をやったアレスは動きを止めた。
――毛の塊が落ちている
アレスの手の中にあるものと同じくらいの毛が布団の上にもぽつんと落ちている。急いで拾い上げたアレスはどちらとも服の中に仕舞って布団をたたんだ。
鳥人族で羽が抜ける時と言えば、病気の時かストレスがある時だ。
もしかしてルーカスは何か不調があるのだろうか。心配に思いながら、直接聞いてもいいものなのか悩みつつアレスは寝室から出た。
「ルーカス、体調はどう?」
「ん? 特に悪いとこもなく、元気だがどうした?」
朝食を食べながらさりげなく体調を尋ねる。見たところ朝食も元気に食べているため、食欲もありそうだ。本当に不調はなさそうに見える。
「ううん。なんとなく」
「そうか。アレスはどうだ?」
「うん。元気だよ! 悩み事とかもない?」
「ああ。大丈夫だ。何かあればアレスに直ぐ言う」
ルーカスの腕がアレスへと伸びてきて、頭を優しく撫でてくる。一度頷いたアレスは手元の果実を見つめて口に入れた。
******
「ああ、それは換毛期じゃな」
「かんもうき?」
ストレスではないなら病気かもしれないと思ったアレスが診療所で先生に相談すると、直ぐに答えが返ってきた。
「冬が終わって気温が上がってきたときに――ちょうど今くらいの時期じゃな、冬用の毛が一気に抜けるんじゃよ。病気じゃないから心配せんでもよい。毎年あるもんじゃ」
「――はぁ、よかった」
アレスは先生に見せるために手に持っていた毛の塊を見ながら、安堵の息を吐いた。
病気でもストレスでもなく、ルーカスの毛は毎年同じ時期に抜けるようだ。昨年のこの時期は一緒にいなかったので知らなかった。
「毛づくろい用の櫛で梳かしてあげればよい。ルーカスも喜ぶじゃろ」
「そうなんだ! 先生ありがとう」
診療所の手伝いが終わったら早速商店に行って櫛を探そうと決めたアレスは、毛の塊を服に仕舞った。
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