【完結】片翼のアレス

結城れい

文字の大きさ
上 下
58 / 66

58

しおりを挟む

「クニー、これありがとう!」
「うん、全然いいよー」

 お酒を飲んだ翌日、アレスはクニーに借りていた履き物を返しに来た。

「昨日は大丈夫だった? 結構酔ってたみたいだけど?」
「うん。具合が悪くなったりはしてないよ、大丈夫! オレ、あんまり記憶がないんだけど、変なことしてなかった?」
「ふふっ、大丈夫だったけど、ルーカスがさ――」

 急にクニーが笑い出したので、アレスは首を傾げた。

「ルーカスがどうしたの?」
「僕たちがアレスを見つけたときに裸足だったって話をしたら、足の裏を確認しようとしてアレスの足首をつかんで引っ張ったんだ。ふふっ、そしたらアレスがコロンってひっくり返っちゃってさ、頭をゴンって――」
「え、そうだったの?」

 よく覚えていないが、アレスは自分の頭を触ってみた。特にたんこぶもできていないし、痛みもない。

「そうなの。アレスが痛いって言ったら、ルーカスのせいなのにすっごい心配しててさ。面白かったんだから! 頭痛くない?」
「うん、痛くないよ」
「ふふっ」

 その場面を思い出したのか、クニーの笑いは暫く収まらなかった。

「――でも、よかったよ。2人が仲直り出来て!」
「うん、本当に良かった。2人には本当にずっと助けてもらってるよ」
「気にしなくていいよ! 村の仲間なんだし、友達なんだから!」
「うん! ありがとう」

 笑顔のクニーにつられてアレスも笑顔になる。
 本当にルーカスと元の関係に戻れてよかった。ルーカスは鳥人族の肉を食べてしまったということではなく、アレスの翼を自分が襲って食べてしまったということを気にしていた。ルーカス自身がアレスを傷つけることをひどく恐れているようだ。

 そのことは通常の生活でもよく分かる。アレスの事をよく見ているし、すぐに心配してくるのだ。先日も、肌を傷めないようにと肌触りの良い布をわざわざ交換してくれていた。
 愛されていると感じる。これほど大事にしてもらえているのだ。

 だが、このままではルーカスと肌を重ねることはできないかもしれないともアレスは思った。
 1番小さいサイズの張形でさえも入れるまでに時間がかかり、ルーカスは次のサイズのものを入れようとは言ってこなかったし、アレスが怪我をしないかずっと心配していた。
 ルーカスのモノを受け入れる際、多少は血が出るだろう。種族が違い、体格が違うのだから仕方のない事だ。しかし、本当に血が出てしまえばルーカスは二度としようとは言わないだろう。

 心が通じ合ったのだから、アレスとしては早く体もつなげたいと思っているが、慎重に進めていかなければならない。取りあえず、一番大きな張形が入るように頑張ろう。

 アレスは決意を固めて、診療所へと向かった。


******


「先生!」
「おお、アレス」

 アレスが診療所へ入ると、丁度先生も来たところだったようだ。布袋を体からとり、机の上に置いている。

「最近はアレスがなんでもしてくれるからすごく楽じゃな。ありがとう」

 早速、薬草の仕分けを始めたアレスに、椅子に座った先生が後ろから声をかけてきた。

「え、いえ。もっと色々できるようになりたいです」
「そうか、そうか」

 お礼を言われて照れくさくなり口元が緩む。そんな口元を隠すかのように、アレスは前を向いたまま薬草の仕分けを進めた。
 最近では薬草の仕分けから調合、それに簡単な怪我の場合は、薬草を塗って包帯を巻くこともしている。アレスはひそかに将来は先生の手伝いだけじゃなく、助手として診療所の手助けをしたいと思っていた。

 自分が背中に怪我を負った時も、ルーカスが獣鬣犬族に襲われて怪我をした後も、もっと知識があれば違う結果になっていたのではないかと考えることがある。
 もちろん、あの時はあれが最善だと思って決断をしていたが――

 もしも今後ルーカスが怪我をした場合は、適切な手当をしたい。それに、アレスが怪我をした場合も自分自身で手当ができればルーカスが心配することもなくなっていくだろう。

 アレスはもっと知識をつけたかった。ルーカスをそしてアレス自身を助けるためにも――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...