【完結】片翼のアレス

結城れい

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47 干し肉

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「やあ、ルーカス」
「ルナール、久しぶりだな」

 商店にやってきたルーカスは、ルナールと挨拶を交わした。

「最近、アレスと仲いいみたいだね! この前、2人で手をつなぎながら歩いているのを見かけたよ!」
「ああ。先日は温泉にも行ってきたんだ」
「温泉か! あそこいいよね! 俺もハニー誘って久しぶりに行こうかなー」

 ルーカスは話しながら、棚にある布の籠を覗いた。アレスの肌は直ぐに赤くなったり、傷跡も消えにくい。きっと毛が無く、肌が常に露出しているので弱いのだろう。アレスの体を拭くための手触りの良い布が欲しかった。いくつか手に取り比べてみる。あまり違いが分からなかったが、1番手触りが良かった布を片手に持ち、ルナールの元へと向かった。

「この布を頼む」
「おっけー。交換は干し肉?」
「ああ」

 背負っていた籠の中から、家の横で作った干し肉を取り出し渡した。

 ルナールは分厚い帳簿とはかりを取り出して確認していく。待っている間、ルーカスは別の棚へと向かい、果実の籠を覗き込んだ。アレスの好物の果実を探すが、見つからない。下のほうに入っているかもしれないと思い、上の果実をつぶさないように気をつけながら横に避けていく。

「ルーカス。お待たせ」

 声をかけられたルーカスは、果実を探すのをやめ、ルナールの元へ戻った。

「じゃあ、干し肉はこれだけ貰うね」
「ああ、ありがとう」

 返された干し肉と、手触りの良い布を背負ってきた籠へと入れ込んでいると、ルナールから声がかかった。

「――そういえば、美味しい干し肉が手に入ったんだよね。この前の交換の時に、獣狸族の商人が持ってきてくれたんだ。つがい成立のお祝いにちょっとだけ分けてあげるよ!」
「いいのか?」
「うん、待ってて!」

 商店の奥へと駆けて行ったルナールは、暫くして干し肉を手に戻ってきた。

「これこれ! どうぞ!」
「ありがとう」

 ルーカスは手を出し、小さな干し肉を受け取った。これ1つだけでは腹の足しにもならないだろう。昼食はまだ食べていなかったので、昼食後に食べようと楽しみにしながら、こちらも籠へ入れて商店を後にした。


 家に帰ると、そこには誰もいない。アレスは診療所へと行っているので、昼食はルーカス1人だ。
 早朝に村の外で狩ってきた鹿の肉を食べ、最後にルナールにもらった干し肉を頬張った。

――美味しい

 あまりの美味しさに、ルーカスは目を見張った。ほど良い硬さに、噛めば噛むほど旨味が溢れ出て口の中いっぱいに広がる。
 どこかで食べたことのあるような味だ。だが、思い出そうとしてもピンとくるものはない。これほど美味しい肉を食べたのならば覚えているはずだが、いくら考えても思い出せなかった。

 一度ですべて口の中に入れてしまったことに後悔したルーカスは、残念に思いながらも口周りに残っていたものを舌でなめとった。


 食事を終えた後、商店で交換してもらった手触りのいい布を持ち、棚へと向かった。アレスとルーカスのものはそれぞれ分けて小さな籠へと入れている。着替えを入れている籠の隣に、布を入れている籠を置いている。
 アレス用の布が入っている籠の中身を取り出して、新しい布と交換する。先日、温泉からでたアレスを布で拭いた時に、少しゴワゴワしている感触があった。使い続けているので布が古くなってしまっていたのだろう。

 ルーカスはどんな布で体を拭いても大丈夫だ。そもそも、体を振れば水気は結構飛んでいくし、少し拭いておけば勝手に乾いていく。
 ただ、鳥人族はしっかり拭いておかないと風邪を引くことがあるとアレスに聞いたことがある。ルーカスは最初言われた意味が理解できなかった。ただ濡れたままでいただけで、熱が出たり咳が出てしまうというのだ。その話を聞いた後からは、湯あみ後や雨に濡れた後にアレスがしっかり拭いているのかを確認するようになった。

 肌の弱いアレスの体を毎日しっかり拭くための布は、定期的に変えていかないといけないな、と思いながらルーカスは使い古した布を手に取った。 

 アレスが使っていた布はまだ破れているわけではないので、ルーカスが使えばいい。今使っているものよりも小さいが特に問題はないだろう。
 ルーカス用の籠に手に持った布を入れようと手を動かしたとき、その布から少しだけアレスの匂いがした。無意識に鼻の前まで持ってくる。目を閉じて大きく息を吸うと、いつもアレスを抱きしめた時に感じる匂いと同じものが鼻の奥へと入ってきた。少し甘くて、でもすっきりとしたいい匂いだ。


 しばらく夢中で匂いを嗅いでいたが、家の入り口を叩かれた音で我に返り、慌てて自分用の籠へと布を突っ込む。

「ルーカスいるか?」

 扉を開けて入ってきたのは村長のティグリスだった。
 ルーカスは少し早くなった鼓動を落ち着かせながらティグリスの元へと歩いた。

「――どうした?」
「今から、時間あるか? ちょっと力仕事を頼みたいんだが」
「ああ、大丈夫だ」

 少しだけ鼻の奥に残った匂いを勢いよく吐きだして、ルーカスはティグリスに返事をした。
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