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45 泉
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今日は2人とも休みの日なので、アレスは目が覚めても起き上がらなかった。
体の下にあるルーカスの体は呼吸に合わせてゆっくりと動いており、その動きがアレスをまた夢の世界へと誘う。気温も寒くもなく暑くもなく丁度良い。アレスはもう一度目を閉じた。
頭を優しく撫でられる感覚に目を覚ますと、ルーカスの手がアレスの黒髪を触っていた。最近気づいたが、どうやらルーカスはアレスの髪の毛が好きなようだ。近くにいてゆっくり過ごしているときは、よく触っている。
もともとアレスはそこまで髪を伸ばしておらず、横は少し長かったが後ろは項が見えるほどの長さだった。髪が伸びてきた際は後ろに回して紐で結び、紐の所をナイフで切っていたためいつも同じ髪型になっていた。だが、この村に来て、ルーカスがよく髪を触っていることに気がついてからは髪を伸ばしていた。今では後ろ髪も長くなり、肩につくほどだ。普段診療所へ行くときなどは邪魔なので後ろで1つにくくっているが、家にいるときはそのままでいることも多い。
アレスがうつぶせの状態で上を見上げると、こちらを向いていたルーカスと目が合った。
「おはよう、アレス」
「ルーカス。おはよう」
朝の挨拶を交わして、体を起こす。外を見てみると、太陽は高い位置へと登っていた。
「今日は村の外に出かけないか?」
ルーカスの提案に、アレスは直ぐに食いついた。
「え、行く! どこに行くの?」
「あの泉の近くに温泉があるらしいんだ。そこに行ってみないか?」
「温泉があるの!?」
「ああ、なんでも傷跡にいいと言われているみたいなんだ」
「行きたい! 布を持っていけばいいのかな?」
「ああ、何枚か持っていけば大丈夫だろう」
温泉。鳥人族の村にも温泉があり、何度か人のいない時間帯に入りに行ったことはある。ただ、片方しかない翼を見られたくなかったので、ゆっくりとつかることはできずに、直ぐに出て帰った。
アレスはウキウキしながら必要なものを準備していった。籠はルーカスが背負ってくれたので、アレスは何も背負っておらず身軽だ。手を繋いで泉へと向かう。
まずは泉に向かいそこで昼食を取り、その後温泉へ行く予定だ。
「ついた!」
昼の泉もとても綺麗だ。太陽の光を反射してキラキラと光る水面。水が透き通っているので、泉を覗き込むと数匹の大きい魚が優雅に泳いでいる様子が見えた。
「昼も綺麗だね」
「ああ。狩りの後、汗をかいたときはこの泉で水浴びをすることもあるが気持ちいいぞ」
「へぇー。いいね」
さわやかな風も拭いており、水面がそのたびに揺れてキラキラと輝いている。
「お腹減っちゃったね。早速お昼にしようよ」
「そうだな。あの時の岩に座るか」
2人の思い出の大岩に腰かける。番の申し込みをしたあの場所だ。
ルーカスが籠からいくつかの果実を取り出してアレスへと渡してきた。受け取ったアレスはお礼を言ってかぶりつく。
「あの雪山で言ってた、温かい時期に取れる1番好きな果実ってそれなのか?」
「――え、うん! そうだよ」
吹雪で雪洞に閉じ込められていた時、ルーカスといろんな話をした。その時にアレスが好きな果実の話をしていたのだ。まさか覚えているとは思わず、アレスは隣に座っているルーカスを見つめた。
「どうして分かったの?」
「アレスはその果実を食べる時が1番美味しそうだからな」
優しく見つめられて、アレスは目の奥が熱くなった。あの時は恐怖で押しつぶされそうな中、ルーカスに抱き着いて話をしていた。まさか番になって、こんな暮らしができるなんて想像もしていなかった――
「ルーカスは、猪の肉が好きって言ってたね」
「ああ。丁度、今食べてる。アレスが進めてくれた焼いた猪の肉だ」
「――うん」
アレスはルーカスの腕にもたれかかり目を閉じた。心が温かいものでいっぱいになり、どう表したらいいのか分からず、言葉がうまく出てこない。
「美味しいね」
「ああ、美味しいな」
2人だけの静かな空間で、時間は過ぎて行った。
体の下にあるルーカスの体は呼吸に合わせてゆっくりと動いており、その動きがアレスをまた夢の世界へと誘う。気温も寒くもなく暑くもなく丁度良い。アレスはもう一度目を閉じた。
頭を優しく撫でられる感覚に目を覚ますと、ルーカスの手がアレスの黒髪を触っていた。最近気づいたが、どうやらルーカスはアレスの髪の毛が好きなようだ。近くにいてゆっくり過ごしているときは、よく触っている。
もともとアレスはそこまで髪を伸ばしておらず、横は少し長かったが後ろは項が見えるほどの長さだった。髪が伸びてきた際は後ろに回して紐で結び、紐の所をナイフで切っていたためいつも同じ髪型になっていた。だが、この村に来て、ルーカスがよく髪を触っていることに気がついてからは髪を伸ばしていた。今では後ろ髪も長くなり、肩につくほどだ。普段診療所へ行くときなどは邪魔なので後ろで1つにくくっているが、家にいるときはそのままでいることも多い。
アレスがうつぶせの状態で上を見上げると、こちらを向いていたルーカスと目が合った。
「おはよう、アレス」
「ルーカス。おはよう」
朝の挨拶を交わして、体を起こす。外を見てみると、太陽は高い位置へと登っていた。
「今日は村の外に出かけないか?」
ルーカスの提案に、アレスは直ぐに食いついた。
「え、行く! どこに行くの?」
「あの泉の近くに温泉があるらしいんだ。そこに行ってみないか?」
「温泉があるの!?」
「ああ、なんでも傷跡にいいと言われているみたいなんだ」
「行きたい! 布を持っていけばいいのかな?」
「ああ、何枚か持っていけば大丈夫だろう」
温泉。鳥人族の村にも温泉があり、何度か人のいない時間帯に入りに行ったことはある。ただ、片方しかない翼を見られたくなかったので、ゆっくりとつかることはできずに、直ぐに出て帰った。
アレスはウキウキしながら必要なものを準備していった。籠はルーカスが背負ってくれたので、アレスは何も背負っておらず身軽だ。手を繋いで泉へと向かう。
まずは泉に向かいそこで昼食を取り、その後温泉へ行く予定だ。
「ついた!」
昼の泉もとても綺麗だ。太陽の光を反射してキラキラと光る水面。水が透き通っているので、泉を覗き込むと数匹の大きい魚が優雅に泳いでいる様子が見えた。
「昼も綺麗だね」
「ああ。狩りの後、汗をかいたときはこの泉で水浴びをすることもあるが気持ちいいぞ」
「へぇー。いいね」
さわやかな風も拭いており、水面がそのたびに揺れてキラキラと輝いている。
「お腹減っちゃったね。早速お昼にしようよ」
「そうだな。あの時の岩に座るか」
2人の思い出の大岩に腰かける。番の申し込みをしたあの場所だ。
ルーカスが籠からいくつかの果実を取り出してアレスへと渡してきた。受け取ったアレスはお礼を言ってかぶりつく。
「あの雪山で言ってた、温かい時期に取れる1番好きな果実ってそれなのか?」
「――え、うん! そうだよ」
吹雪で雪洞に閉じ込められていた時、ルーカスといろんな話をした。その時にアレスが好きな果実の話をしていたのだ。まさか覚えているとは思わず、アレスは隣に座っているルーカスを見つめた。
「どうして分かったの?」
「アレスはその果実を食べる時が1番美味しそうだからな」
優しく見つめられて、アレスは目の奥が熱くなった。あの時は恐怖で押しつぶされそうな中、ルーカスに抱き着いて話をしていた。まさか番になって、こんな暮らしができるなんて想像もしていなかった――
「ルーカスは、猪の肉が好きって言ってたね」
「ああ。丁度、今食べてる。アレスが進めてくれた焼いた猪の肉だ」
「――うん」
アレスはルーカスの腕にもたれかかり目を閉じた。心が温かいものでいっぱいになり、どう表したらいいのか分からず、言葉がうまく出てこない。
「美味しいね」
「ああ、美味しいな」
2人だけの静かな空間で、時間は過ぎて行った。
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