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しおりを挟む「ねぇ、ルーカス」
「なんだ?」
夜、アレスはルーカスの体の上でいつものように寝そべりながら声をかけた。気温も上がり暖かくなったので、もう毛布もいらないし寒くないが、今でもアレスはルーカスの上で寝ている。
「あの、明後日の夜なんだけど、この村の西側に泉があるらしくて、とっても綺麗なんだって。満月の夜が1番綺麗らしいから、一緒に行ってみない?」
「――ああ、もちろんだ。俺も今日聞いて、アレスを誘おうと思っていたところだった」
「そうだったの?」
「ああ。楽しみだな」
「うん」
第一関門を突破できたことで、アレスはホッと息を吐いた。心臓がバクバクと音を立てている。これだけくっついているのでルーカスに気づかれそうだと焦ったが、特に何か言われる事はなかった。
誘うだけでこんなに緊張するなんて、当日が心配になったが、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせた。
******
とうとう満月の日になってしまった。
アレスは朝からソワソワとしてしまい、診療所で薬草を仕分けしている時にもすぐに手が止まってしまう。今まで感じたことのない感情が体中を覆っており、普段通りの行動ができない。
それでも、なんとか作業を終わらせて家に帰ったアレスは、居間をウロウロと歩き回った。
ルーカスは優しいから話はしっかり聞いてくれるだろうが、断られてしまったら今後どうすればいいのだろうか。一緒の家に住んでいることが気まずくなり、別々の家に住むことになってしまったらどうしよう。
もし、もしも番の申し出を受け入れてもらえたら。番になれたのなら。きっと今まで以上に距離は近くなるだろう。恥ずかしくて顔が見れなくなってしまうかもしれないが、喜びに満ち溢れるに違いない。
早く言ってしまってこの緊張から解放されたい。早く結果が知りたい――
とうとう日が沈み辺りが暗くなってきたが、何故かルーカスは帰ってこない。いつもであれば、とっくに帰ってきている時間だ。
心配になったアレスが、門まで迎えに行こうと家の扉に手をかけたところで、扉は勢いよく開いた。
「――ルーカス。良かった心配したよ」
「ああ、遅くなって悪かった。ちょっと色々あってな――」
「無事だったのなら良かった!」
「泉にはいつ行く?」
「――え、あ、ご飯食べてから行こうか」
「そうだな」
アレスは緊張のため味のしない木の実を、無理やり口に詰め込み咀嚼する。どちらとも何も話さずに静かだった。
「よし、行くか」
「うん」
アレスが村を出るのは、ここに来てから初めてのことだ。
ルーカスが灯りを持ち、2人で村の門まで向かう。途中の道でアレスは、夜は門に閂がしてあることを思い出した。
「ルーカス、どこから外に出るの? 今の時間、門って閉まってるよね?」
「大丈夫だ。隠れた出入り口があるんだ」
閉め切られた門までやってきた後、門の近くにある小さな小屋にルーカスが入っていく。アレスも慌ててついて行った。
中に入るとそこには何も無かった。椅子や机も置かれていない。しかし、ルーカスはそのまま進み、端に行くとしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
「ここに出入り口があって、外に出られるんだ」
そう言うと、床板を外した。軽い力で取れたようで、中には空洞が広がっている。
「え、すごい」
「夜や緊急時に門を閉め切っている時は、ここから出入りするらしい。ここを閉めるから先に行ってくれるか?」
「うん」
秘密基地のような仕掛けにワクワクしながら、アレスは設置されている梯子を降りた。中は壁がうっすらと発光しており真っ暗ではない。足元を確認しながらアレスは下まで降り切った。
ルーカスも取っ手のついた床板を内側から戻した後、同じように梯子を降りてきた。
「危ないから、手を繋いでいこう」
「うん」
灯りを持っていないほうの手を差し出され、アレスはその手に自分の手を重ねた。大きさの全く違う手。ぎゅっと握りしめた後、ルーカスの後ろからついて行く。縦に並んでいるので、手を握ってしまうと体勢が少しキツくなってしまうが離すことはなかった。
通路は縦も横も大きく、ルーカスの体格では前を向いた状態でもギリギリ通ることができているようだ。
しばらく歩くと、上に続く梯子があった。ここを登って外へと出るようだ。
「俺が先に行くから、ついてきて」
「うん」
手を離したルーカスが身軽に登っていくので、アレスも続いて梯子を登った。
出た場所はどこかの洞窟の中だった。ずらした薄い石をルーカスが元に戻す。
「泉はこの近くだ」と言ってルーカスがまた手を繋いできたので、アレスは握り返して洞窟から出た。あの雪山を思い出すようだ。
満月に照らされて、歩きやすい森の中を2人で黙って歩いていく。しばらく歩くと急に目の前が開けて、大きい泉が現れた。
泉に満月が映っており、とても綺麗だ。辺りはしんと静まり返っており、まるで別世界に迷い込んでしまったように感じる。
「綺麗だね」
「ああ」
しばらくその場に突っ立って見ていたが、近くに座れそうな岩があったためそこに移動した。座って泉を眺める。アレスは膝を立てて、座った際に離れてしまった手を前で組んだ。緊張に手が震える。
「村での生活で困ったことはないか?」
「うん、何にもないよ。毎日楽しい」
「そうか、俺もだ」
2人の間に沈黙が訪れる。
アレスが勇気を振り絞り、言おうと息を吸った瞬間、ルーカスが突然立ち上がった。
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