【完結】片翼のアレス

結城れい

文字の大きさ
上 下
31 / 66

31

しおりを挟む

 食事が終わった後は、アレスが新しい服に着替えることになった。背中に負荷をかけないように慎重に服を脱いで行く。

「体を拭いてやるよ。当分湯を浴びることはできないだろうから」
「ありがとう」

 暖炉の前で服を脱ぎ下ばきだけになったアレスは、ルーカスに体を拭いてもらう。お湯に浸した布で拭かれてとても温かく気持ちがいい。ルーカスが指先でそっとアレスの腕を掴み布を当てる。力を入れすぎないように真剣な顔で慎重に拭いてくれているが、逆に力が入っていなさすぎてこそばゆい。

「ふふっ、くすぐったい。もう少し強くていいよ」
「これぐらいか?」
「うん、丁度いい」

 体を拭いていたルーカスの手が背中に差し掛かったところで動きが止まった。包帯で巻かれているので傷口は見えないが、気にしているのだろう。

「多分、ルーカスが思っているほど痛く無いよ」
「――ああ」
「すぐに包帯も取れて動けるようになるから、気にしなくていいよ」
「――ああ」

 ルーカスから力無く返事が返ってくる。気にしないのは無理だろう。もし逆の立場だったら、もしもルーカスの牙や腕がなくなっていたとしたら絶対にアレスは気にしてしまうだろう。ルーカスのためにも自分のためにも、早く怪我を治して元気な姿を見せなければとアレスは心に誓った。

 居間の奥にある寝室には、布団が大きいものと小さいもの1つずつ用意されていたが、大きい方にルーカスが横になった後にアレスは近寄って行き、ルーカスの上によいしょと乗った。
 ルーカスが固まる。

「アレス、しばらくは別で寝ないと、背中に手が当たってしまったら……」
「でも、この方がよく眠れるから、早く治るかも」
「――そうか。できるだけ動かないようにしよう」
「でも、今までルーカスの体から落ちたこともないし、途中で起きたこともないよ。大丈夫じゃない?」

 うつ伏せでルーカスの胸元に顔を埋める。ルーカスの力強い心臓の音が聞こえてくる。暖かな体温も感じてアレスは安心して目を瞑った。

「おやすみ、ルーカス」
「ああ、おやすみアレス」


 ******


 夜中、アレスは熱さに目が覚めた。

「――うっ」

 背中が燃えるように熱くて、冬なのに全身から汗が噴き出してくる。
 熱により上手く働かない頭で、昼間診療所で熱さましの薬草を渡されたことを思い出し取りに行こうとするが、体が重くて動かない。

「――ん? アレス?」

 ルーカスの体の上でごそごそと動いていたので起こしてしまったようだ。

「……る、ルーカス」

 弱弱しいアレスの呼びかけに慌てて体を起こしかけたルーカスは途中で止まり、アレスの額に手を当ててきた。

「熱だ」

 アレスを慎重に体から降ろしたルーカスは居間の方へと去っていき、熱さましの薬草を取ってきた。うつ伏せになっていたアレスの体を背中の怪我に注意して仰向けにして抱き寄せたルーカスは、すりつぶして水と混ぜたものをスプーンに乗せてアレスの口元へと持ってくる。

「ほら、薬草だ」
「……んっ」

 アレスが口を開けると、スプーンが入ってきて薬草の苦みが口の中に広がった。苦みに顔をしかめながらも何とか飲み込む。
 汗をかいた額や首筋も水でぬらして絞った布で拭かれた。

「辛そうだな……アレスの布団を敷いてくるな」

 そう言ってアレスを布団に降ろそうとしたルーカスを、アレスは腕をつかみ止めた。

「――やだ。ルーカスの上がいい」
「いや、だが――」

 ルーカスは少し迷った様子を見せたが、最終的には折れてくれて、アレスを抱いたまま横になった。
 背中の痛みも熱さも消えていないが、ルーカスの体にくっついて鼓動を聞いていると安心できる。アレスはルーカスの銀の毛を握りしめながら、荒く熱い息を吐いた。
 ルーカスがアレスの額に手をあて熱を確かめながら、定期的に布で汗を拭いてくれる。こんなに献身的に看病されたのは初めてだ。アレスはルーカスの気配を感じながら目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】今更告白されても困ります!

夜船 紡
恋愛
少女は生まれてまもなく王子の婚約者として選ばれた。 いつかはこの国の王妃として生きるはずだった。 しかし、王子はとある伯爵令嬢に一目惚れ。 婚約を白紙に戻したいと申し出る。 少女は「わかりました」と受け入れた。 しかし、家に帰ると父は激怒して彼女を殺してしまったのだ。 そんな中で彼女は願う。 ーーもし、生まれ変われるのならば、柵のない平民に生まれたい。もし叶うのならば、今度は自由に・・・ その願いは聞き届けられ、少女は平民の娘ジェンヌとなった。 しかし、貴族に生まれ変わった王子に見つかり求愛される。 「君を失って、ようやく自分の本当の気持ちがわかった。それで、追いかけてきたんだ」

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

幼馴染はとても病院嫌い!

ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。 虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手 氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。 佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。 病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない 家は病院とつながっている。

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

離婚しようですって?

宮野 楓
恋愛
十年、結婚生活を続けてきた二人。ある時から旦那が浮気をしている事を知っていた。だが知らぬふりで夫婦として過ごしてきたが、ある日、旦那は告げた。「離婚しよう」

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?  色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。 猛暑でへろへろのため、とにかく、気分転換したくて書きました。とはいえ、涼しさが得られるお話ではありません💦 暑さがおさまるころに終わる予定のお話です。(すみません、予定がのびてます) いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

処理中です...