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しおりを挟む隣を見上げると、同じように立ち止まってくれていたルーカスと目が合った。
「行こう」
「ああ」
アレスはもう振り返ることなく、森の中へと入っていった。
大きな荷物はルーカスに持ってもらい、森の中を北へと進んでいく。
途中で見つけた木の実や、穴の中にいた小動物を取って北の山へと向かう。
村と山の麓までの道のりのちょうど半分あたりまで来た時、遠い場所から音が聞こえた。音の聞こえた方向を振り返ると、黒い煙が上がっているのが見える。丁度村のあった方角だ。
「――え」
「早かったな。もう来たのか」
獣狼族が鳥人族の村へとやってきたのだ。誰もいないことがわかり、村の中で暴れているのだろう。最初は1本だった煙も次第に本数が増えていった。
「少し急ぐぞ」
ルーカスはそう言うとアレスを抱き上げ、走り始めた。周りの景色がすごいスピードで後ろへと流れていく。雪が降っており足跡が残ってしまうので、途中木の枝から枝に飛び移って進んだ。あまりの早い動きにアレスは目を閉じて、ルーカスの服を握りしめた。
あっという間に、北の山の麓まで到着した。
「森を抜けたらもう大丈夫だろう」
「うん、ありがとう」
地面に降ろされたアレスは目の前に聳え立つ山を見上げた。
高い。南の山よりは低いと言っていたけれど、鳥人族が越えていった東の山より高そうだ。
「一度休憩する?」
「そうだな」
ルーカスはアレスを抱えて走ってここまできたので疲れているだろう。アレスの提案にルーカスは頷き、大きな岩の影に座った。
もう昼食の時間だ。朝食は木の実を数粒だったので、ルーカスはさぞお腹が空いているだろう。森で取ってきた木の実を口に入れながらアレスはルーカスを見た。
ルーカスは森で取った小動物を手に持ち、動きを止めていた。
「どうしたの? お肉捌こうか?」
ナイフを手に取り手を差し出したアレスに、ルーカスは気まずそうに口を開いた。
「いや、その、そのまま食べるんだ」
「そのまま?」
そう言うと、ルーカスはアレスに背を向けた。
アレスが大きな背中を見ていると、普通は聞くことのない音が聞こえてきた。
――ガリッバキバキゴリッ
しばらくしてこちらに向き直ったルーカスの手には、何も残っていなかった。
「え、全部食べたの? 骨とかも?」
「――ああ」
「へぇー、便利だね」
「便利……怖くないのか?」
「うん、そりゃ目の前で鳥人族食べてるとかなら無理だけど、お肉はオレたちも食べるし。ああ、勿論骨とか皮は食べれないけど」
「そうか」
「別に隠さなくてもいいよ」
どうやらアレスが怖がると思っていたようだ。大丈夫だと伝えると、ルーカスはホッとした表情になった。捌くととても汚れるので、丸々食べられるのならそのほうが良いだろう。もしアレスが怖いと言ったら、今後ずっと隠れて食べようとしていたのかもしれない。
優しい獣狼だ。アレスが今まで会ったことのある誰よりも優しい。
「よし登ろう!」
「ああ」
チラホラと空からは雪が降ってきている。まだこの辺りは少ししか積もっていないが、山の上では積もっているのだろう。見上げてみると、山の上部は白くなっているのが分かる。
ルーカスの1歩が大きすぎて、アレスは走るように後を追った。息を切らしながら走るアレスに気がついたルーカスが、慌ててスピードを落とす。
「抱き上げて運ぼうか?」
「ううん、どうしようも無くなったらお願いするけど、まだ大丈夫。早く山を越えてしまおう」
「ああ」
アレスは出来るだけ自分の足で歩きたかった。もちろんこの先、アレスには難しい場所もあるだろうが、ルーカスへの負担を少しでも減らしておきたい。
いざという時に頼ってしまうことがわかっているからこそ、出来るだけ自分で歩いていきたかった。
雪は降り続け、今ではアレスの足首ほどまで積もっており、段々と足取りが重くなる。ルーカスが何度も振り返って確認してくれるが、アレスは頷いて返した。あたりにチラホラと生えている木々にも雪が積もり、あたりは一面真っ白だ。
前を進むルーカスの後ろ姿を見ながら、アレスは遅れないように一歩一歩踏みしめながら登っていった。
「ちょっと早いけど、今日はこの辺りで野宿するか」
「――うん」
ルーカスに提案されて、アレスはホッと息をついた。正直、足が限界だったのだ。普段から森を歩いているので大丈夫だと思っていたが、慣れない山道に雪も積もっており、予想以上に疲労が溜まっていた。
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