12 / 66
12
しおりを挟む暫くして、気が済んだのかアレスの食料をすべて持ち5人は飛び去っていった。
のろのろと起き上がったアレスは痛む体を押して自宅へと戻る。そこは酷い有様だった。もともとボロくはあったが綺麗に使っていた自宅はあちこち壊されていた。食料箱も道具箱も壊されている。この前交換した黒い櫛も折られて、無残にも床へ捨てられていた。
どうして、こんなことに――
ルーカスと楽しい時間を過ごして、戻ってきたらこんなことが起きるなんて。
どうして盗んだと思われてしまったのかと考え、アレスは1つの結論に達した。
そもそも、盗まれた物ではないと見れば分かるはずなのだ。あの木の実や果実は森でしか取れない。山では取れる物ではないので見れば分かる。
最近、気温も下がってきたことで更に食料が不足し、鬱憤を晴らすためにアレスの家を荒らしに来たに違いない。そこで思いがけず食料が保管されているのを見て、取ろうと思ったのだろう。
森で取れるだけ取ってきていたし、最近ではルーカスのおかげで沢山の食料が手に入っていた。交換せずに自宅で長期保存できるように干した果実も置いていたが、全て奪われてしまった。
今後、自宅には保管できない。今回の件で味を占めた彼らがまたやって来るだろうから。
アレスは落ち込みながら自宅を片づける。
薬草もすべて持っていかれたようで残っておらず、痛む体の手当すら満足に出来なかった。
******
「ルーカス……」
「アレス、どうしたんだその怪我。荷物も」
アレスは次の日、残った荷物を全て持って森へ入った。顔に怪我をつくってぎこちなく歩き、両手に荷物を持った状態でやってきたアレスにルーカスは驚いた。
「森で取った木の実を、盗んだって言われて、やられたんだ」
「違うと言っても聞いてもらえなかったのか?」
「……オレ、『かたよく』だし、仕方ないんだ」
ルーカスが心配してくれる様子を見て、少しだけ泣きそうになりアレスは慌てて下を向いた。
「怪我の手当てをしよう。ちょっと待っててくれ」
そう言ってルーカスは走っていった。あまりに速すぎて、ルーカスの走り去っていった方向へと風が流れる。
大岩の側に座っ待っていると、走り去っていった時と同じ速さでルーカスが戻ってきた。
「俺たちの薬草で効くか分からないが、無いよりはマシだろう」
ルーカスの手には薬草や布、水の入った桶が握られていた。桶の水はルーカスが止まった拍子に半分ぐらいが地面へ零れてしまっている。
「ありがとう」
ルーカスが、顔や手のひらなど見える場所にある傷を、水で濡らした布で恐々と拭いて薬草をすり潰して塗っていく。
「服の中にも怪我あるか?」
「うん」
上半身の服を脱ごうと腕を上げると、背中に痛みが走る。
「うっ」
少しずつ腕を動かして一枚ずつ服を脱いだ。アレスの背中側に回ったルーカスが息を呑む。
「翼のつけ根が腫れている」
アレスは普段、背中を他人に見せない。翼が片方しか生えていない場所を見られるのが嫌だからだ。だが、ルーカスにはなんの抵抗もなく見せることができた。
種族が違うからなのか、馬鹿にされないと分かっていたからなのか、こんなに心配してくれたからなのか、よく分からないが見せたくないとは思わなかった。
「確かに、翼のつけ根が痛いかも」
「翼、動かせるか?」
アレスはゆっくりと翼を広げた。多少の痛みはあるが、骨が折れているわけではなさそうだ。
「大丈夫みたい」
ルーカスに問題なく動くことを伝えたが、返事が返ってこない。アレスが後ろを振り返ると、ルーカスは翼を見つめていた。
「綺麗だ」
恍惚とした表情で言われ、アレスは恥ずかしくなり前を向いた。
「先の部分の白と黒の対比も綺麗だが、黒い羽に太陽が当たって、緑や青に輝いている」
「うん、ありがとう」
いつもアレスが自慢に思っていた部分を褒められて、素直にお礼を言った。嬉しくなり笑顔が溢れる。
「――くしゅん」
上半身の服を脱いでしまっているため、寒さにくしゃみが出た。
「ああ、寒いか。すまんな。薬草塗るぞ」
優しい力で塗られて、まるでアレスの傷ついた心まで優しく撫でてもらっているようだ。お腹側は最初に蹴られた部分が青くなっていたため、すり潰してもらった薬草をアレスは自分で塗り込んだ。
「酷いことするな。守れる毛もないのにこんなに強く蹴るなんて」
「オレたちは、毛が生えないからね……毛があると守れるの?」
「多少は衝撃を緩和できるぞ」
「ふーん。ねぇ、触ってみてもいい?」
「ん? ああ、いいぞ」
許可が出たので、ルーカスの腕を触ってみる。確かにふわふわと言うよりは、毛が1本1本しっかりとしている。多少汚れているが、艶がありとても綺麗だ。それに、暖かそうだ。
「ルーカスの毛も、銀に輝いていて綺麗だよ」
アレスの言葉にルーカスの金に光る目が大きく見開き、恥ずかしそうに細められた。
「褒められると、中々気恥ずかしいな」
頭を豪快に掻くルーカスに、アレスは声を出して笑った。
「ルーカスと一緒の村に住みたいな。きっと毎日楽しいだろうな」
アレスはポツリとつぶやいた。ルーカスとは森でしか会えないし、もちろんお互いに森に来る日が被らないと会えない日が続いてしまう。同じ村に住んでいれば、毎日会うことができるだろう。
「……そうだな。でもお互いの村では無理だ」
「うん、そうだね」
「俺と会いたいと思ってくれる奴なんて、アレスくらいのもんだ」
「そうなの? ルーカスこんなに優しいのに」
「――優しいなんて初めて言われた。いつも『腰抜け野郎』だって言われてるんだ」
「えっ、どうして?」
ルーカスの何処が悪いのか分からず、アレスは首を傾げた。
「えっと――」
気まずそうなルーカスの反応で、なんとなく理由が分かった気がした。
「オレたちを食べないから?」
「――ああ。獲物を甚振ったりするのも嫌でな。そういう考え方をする奴は、俺以外村にいないからな」
「オレからしたら、他の獣狼族の考え方のほうが嫌だけどね」
「ああ、アレスとは話が合うから嬉しいよ」
「うん」
鳥人族を食べない、獲物を甚振って遊ばないことでルーカスは村で爪弾きにあっているようだ。ただ優しいだけなのに。
持ってきた荷物は、大岩の近くにあった大木の洞に置いておくことにした。
流石に森で寝ることはできないが、自宅に荷物を置いておくこともできないため、自宅では寝るだけにして、大切なものは森に隠しておくことにしたのだ。
鳥人族で森に入って来るものはいないと思うが、念のため、荷物の上に枯れ草を乗せて隠しておいた。
70
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる