【完結】片翼のアレス

結城れい

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 しばらくして、気が済んだのかアレスの食料をすべて持ち5人は飛び去っていった。

 のろのろと起き上がったアレスは痛む体を押して自宅へと戻る。そこは酷い有様だった。もともとボロくはあったが綺麗に使っていた自宅はあちこち壊されていた。食料箱も道具箱も壊されている。この前交換した黒いくしも折られて、無残にも床へ捨てられていた。

 どうして、こんなことに――

 ルーカスと楽しい時間を過ごして、戻ってきたらこんなことが起きるなんて。
 どうして盗んだと思われてしまったのかと考え、アレスは1つの結論に達した。

 そもそも、盗まれた物ではないと見れば分かるはずなのだ。あの木の実や果実は森でしか取れない。山では取れる物ではないので見れば分かる。
 最近、気温も下がってきたことで更に食料が不足し、鬱憤うっぷんを晴らすためにアレスの家を荒らしに来たに違いない。そこで思いがけず食料が保管されているのを見て、取ろうと思ったのだろう。

 森で取れるだけ取ってきていたし、最近ではルーカスのおかげで沢山の食料が手に入っていた。交換せずに自宅で長期保存できるように干した果実も置いていたが、全て奪われてしまった。

 今後、自宅には保管できない。今回の件で味を占めた彼らがまたやって来るだろうから。

 アレスは落ち込みながら自宅を片づける。
 薬草もすべて持っていかれたようで残っておらず、痛む体の手当すら満足に出来なかった。


******


「ルーカス……」
「アレス、どうしたんだその怪我。荷物も」

 アレスは次の日、残った荷物を全て持って森へ入った。顔に怪我をつくってぎこちなく歩き、両手に荷物を持った状態でやってきたアレスにルーカスは驚いた。

「森で取った木の実を、盗んだって言われて、やられたんだ」
「違うと言っても聞いてもらえなかったのか?」
「……オレ、『かたよく』だし、仕方ないんだ」

 ルーカスが心配してくれる様子を見て、少しだけ泣きそうになりアレスは慌てて下を向いた。

「怪我の手当てをしよう。ちょっと待っててくれ」

 そう言ってルーカスは走っていった。あまりに速すぎて、ルーカスの走り去っていった方向へと風が流れる。


 大岩の側に座っ待っていると、走り去っていった時と同じ速さでルーカスが戻ってきた。

「俺たちの薬草で効くか分からないが、無いよりはマシだろう」

 ルーカスの手には薬草や布、水の入ったおけが握られていた。桶の水はルーカスが止まった拍子に半分ぐらいが地面へこぼれてしまっている。

「ありがとう」

 ルーカスが、顔や手のひらなど見える場所にある傷を、水で濡らした布で恐々と拭いて薬草をすり潰して塗っていく。

「服の中にも怪我あるか?」
「うん」

 上半身の服を脱ごうと腕を上げると、背中に痛みが走る。

「うっ」

 少しずつ腕を動かして一枚ずつ服を脱いだ。アレスの背中側に回ったルーカスが息を呑む。

「翼のつけ根が腫れている」

 アレスは普段、背中を他人に見せない。翼が片方しか生えていない場所を見られるのが嫌だからだ。だが、ルーカスにはなんの抵抗もなく見せることができた。
 種族が違うからなのか、馬鹿にされないと分かっていたからなのか、こんなに心配してくれたからなのか、よく分からないが見せたくないとは思わなかった。

「確かに、翼のつけ根が痛いかも」
「翼、動かせるか?」

 アレスはゆっくりと翼を広げた。多少の痛みはあるが、骨が折れているわけではなさそうだ。

「大丈夫みたい」

 ルーカスに問題なく動くことを伝えたが、返事が返ってこない。アレスが後ろを振り返ると、ルーカスは翼を見つめていた。

「綺麗だ」

 恍惚こうこつとした表情で言われ、アレスは恥ずかしくなり前を向いた。

「先の部分の白と黒の対比も綺麗だが、黒い羽に太陽が当たって、緑や青に輝いている」
「うん、ありがとう」

 いつもアレスが自慢に思っていた部分を褒められて、素直にお礼を言った。嬉しくなり笑顔が溢れる。

「――くしゅん」

 上半身の服を脱いでしまっているため、寒さにくしゃみが出た。

「ああ、寒いか。すまんな。薬草塗るぞ」

 優しい力で塗られて、まるでアレスの傷ついた心まで優しく撫でてもらっているようだ。お腹側は最初に蹴られた部分が青くなっていたため、すり潰してもらった薬草をアレスは自分で塗り込んだ。

「酷いことするな。守れる毛もないのにこんなに強く蹴るなんて」
「オレたちは、毛が生えないからね……毛があると守れるの?」
「多少は衝撃を緩和できるぞ」
「ふーん。ねぇ、触ってみてもいい?」
「ん? ああ、いいぞ」

 許可が出たので、ルーカスの腕を触ってみる。確かにふわふわと言うよりは、毛が1本1本しっかりとしている。多少汚れているが、艶がありとても綺麗だ。それに、暖かそうだ。

「ルーカスの毛も、銀に輝いていて綺麗だよ」

 アレスの言葉にルーカスの金に光る目が大きく見開き、恥ずかしそうに細められた。

「褒められると、中々気恥ずかしいな」

 頭を豪快ごうかいくルーカスに、アレスは声を出して笑った。


「ルーカスと一緒の村に住みたいな。きっと毎日楽しいだろうな」

 アレスはポツリとつぶやいた。ルーカスとは森でしか会えないし、もちろんお互いに森に来る日が被らないと会えない日が続いてしまう。同じ村に住んでいれば、毎日会うことができるだろう。

「……そうだな。でもお互いの村では無理だ」
「うん、そうだね」
「俺と会いたいと思ってくれる奴なんて、アレスくらいのもんだ」
「そうなの? ルーカスこんなに優しいのに」
「――優しいなんて初めて言われた。いつも『腰抜け野郎』だって言われてるんだ」
「えっ、どうして?」

 ルーカスの何処が悪いのか分からず、アレスは首を傾げた。

「えっと――」

 気まずそうなルーカスの反応で、なんとなく理由が分かった気がした。

「オレたちを食べないから?」
「――ああ。獲物を甚振いたぶったりするのも嫌でな。そういう考え方をする奴は、俺以外村にいないからな」
「オレからしたら、他の獣狼族の考え方のほうが嫌だけどね」
「ああ、アレスとは話が合うから嬉しいよ」
「うん」

 鳥人族を食べない、獲物を甚振って遊ばないことでルーカスは村で爪弾つまはじきにあっているようだ。ただ優しいだけなのに。


 持ってきた荷物は、大岩の近くにあった大木のうろに置いておくことにした。
 流石に森で寝ることはできないが、自宅に荷物を置いておくこともできないため、自宅では寝るだけにして、大切なものは森に隠しておくことにしたのだ。

 鳥人族で森に入って来るものはいないと思うが、念のため、荷物の上に枯れ草を乗せて隠しておいた。
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