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32 ガオくん!

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 昼寝から目覚めた虎太郎は、人間に戻っていた。
 普段ポメラニアンになっている時は、自分の家以外では絶対に寝ないようにしていたが、蓮の家は自分の家以上に安心して、自由にあちこちで寝ている。
 こんな風にリビングで起きることも慣れたもんだ。起き上がった虎太郎は服を着るために脱衣所へと歩いて行った。

 服を着てリビングへ戻ってきた虎太郎は、ソファの近くに落ちているライオンのぬいぐるみを拾い上げた。

「ガオくん……」

 虎太郎が『ガオくん』と名前をつけて大事にしているぬいぐるみはもうボロボロだ。蓮に買ってもらってまだ少ししか経っていないにも関わらず、あちこちほつれてしまっている。
 それも、虎太郎のせいだ。犬になったときに、気に入っているガオくんを振り回して遊んでしまっているためだ。
 何度か隠したこともあったが、もちろん同じ虎太郎のため、隠し場所なんて分かり切っている。同一人物のくせに隠せるわけがなかったのだ。
 ポメラニアンになって人間に戻るたびにボロボロになっていくガオくん……

 悲しげに手に持ったぬいぐるみを見つめていると、蓮が「また、そのぬいぐるみか」と声をかけてきた。

「壊れたら買いなおせばいいだろ。犬の遊び用として買ったんだから」
「うーん、そうなんですけど」

 このぬいぐるみは蓮から買ってもらった大事なものだ。お気に入りのため大切にしておきたいが、人間の虎太郎がお気に入りということは、ポメラニアンの虎太郎にとってもお気に入りということなので、ポメラニアンになる度に探し出して遊んでしまうのだ。

 どうしようもなくて、虎太郎は肩を落とした。




「うわー! ひろーい!」

 虎太郎と蓮は、一足先に引っ越し先の部屋にやってきた。
 以前のマンションと同じようにエレベーターには階数のボタンがついてなく、カードをかざすと部屋の階まで自動で動いてくれるものだったが、虎太郎は以前のマンションで慣れていたのでここは問題なかった。
 エレベーターに乗り着いた部屋は、引っ越し前の蓮のマンションよりも広い。リビングにある広い掃き出し窓へ駆けて行って外を見ると、とても高くて少し怖いくらいだ。

「こんだけ高けりゃ、覗かれることもねぇだろう」

 隣に来た蓮も、虎太郎と一緒に外を眺めた。

「高いですね! 車がとても小さく見えます」

 窓ガラスに両手をつき、覗きこむようにして下を見た。車がとても小さく、まるでおもちゃのように見える。歩いている人は遠すぎて顔も見えず、誰なのかまったく分からない。虎太郎はしばらく外の景色を眺めていたが、高すぎてクラクラしてきたので、窓辺から離れた。

 リビングもとても広いが、他にもいくつか部屋がある。虎太郎は引っ越し業者が荷物を持ってくる前にこの部屋の探検を行うことにした。

 玄関からスタートして手当たり次第に扉を開けていく。洗面所にお風呂場、いくつかの部屋があり、収納スペースも広々としている。一番大きい部屋がきっと寝室になるのだろう。荷物が一切ないのでとても広く、走りやすそうだ。虎太郎はポメラニアンになって駆け回りたくなりウズウズとしてきたが、今から引っ越し業者の人達が来るため必死に耐えた。
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