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15 戻れない

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 目が覚めると朝になっていた。
 あまりすっきりしない目覚めに虎太郎は首を振る。

 今日は蓮の家に行く予定になっていた。土曜日で虎太郎は大学が休みだし、蓮もちょうど仕事が休みだったようで、朝から蓮の家に行くつもりだ。
 朝の準備を終えた虎太郎は、覚悟を決めてポストを見に行った。昨日、虎太郎が家に戻った後に入れられているかもしれない。

「――はっ」

 恐々とポストを開いた虎太郎は息をのんだ。
 白い封筒が入っている。犯人は夜に来ていたのだ。
 封筒を指先で持ち上げ、部屋へ戻る。今日は一体何が書かれた手紙が入っているのだろう、と不安に思いながら虎太郎は封を開けた。
 
 封筒に手を入れて手紙を取り出そうとした瞬間――

「痛っ」

 指先に鋭い痛みを感じ、慌てて封筒から手を引き出す。
 痛みを感じた指先を見てみると、中指の先から血が出ていた。

 封筒の中を覗き込み確認すると、銀色に光るカミソリの刃らしきものが見える。
 切れた指先がズキズキと痛んだ。
 
 鋭い刃に触らないよう気を付けながら、虎太郎は手紙を取り出して開く。
 そこには赤い文字で『死ね』と書かれていた。
 
「なんで、誰がこんなこと……」

 こんなことをされたのは初めてだ。悲しい気持ちと恐怖で、虎太郎の胸は押しつぶされそうになる。
 しばらくそのまま突っ立っていたが、指先から出た血が床に落ちそうになったことで我に返った。
 引き出しから絆創膏を取り出し、中指に巻きつけようとするが、上手く貼ることができずグチャグチャになってしまった。
 鋭い刃が入った封筒は危ないので、帰ってきてから捨てようと思い、テーブルの上に置いてそのまま家を出た。




 蓮の家について、ポメラニアンになった虎太郎はリビングへポテポテと向かう。
 扉を前足で器用に開けて、中へ入る。蓮はいつもと同じようにソファに座っていた。
 虎太郎はそっと近づいていき、蓮の足元で丸くなる。

 足元に触れた温度に気付いた蓮は、そちらに視線を向けた。

「お、来たか。あれ、お前」

 蓮は虎太郎を抱き上げて顔の前に掲げると、じっと見つめた。

「元気ねぇな」
「クゥン(うん)」
「なんかあったのか?」
「クゥン(うん)」
「何言ってるか分かんねぇわ。一旦人間になってこい」

 そう言った蓮は、虎太郎を下に降ろした。
 蓮に相談してみようと思った虎太郎は、人間になるために脱衣所へと向かう。

 脱衣所へと戻り、一度目を瞑り、いつものように人間の姿を頭で思い描きながら力をいれる。そして目を開けると――

「クゥ?(あれ?)」

――ポメラニアンのままだった

 何度か試してみるが、人間になれない。ストレスが溜まりすぎてしまったのだ。

 ポメラニアンのままリビングへと戻り蓮のそばに行き、足をチョイチョイとつつく。

「キュウ(ぼく、もどれない)」
「え? 何? 犬のままでどうした」
「キュウ(もどれないの)」
「まさか、戻れないのか?」

 下を向いたまま頷いて返事を返す。いつも元気に左右に振ってる虎太郎の尻尾も、垂れ下がったままだ。 

「なんだ、そんなにストレスがたまっていたのかよ」

 抱き上げて、優しく頭を撫でられる。虎太郎は泣きそうになり、蓮のお腹に顔を擦りつけた。




 蓮に撫でてもらっても、虎太郎は人間に戻ることはできなかった。
 何度か試してみたが、一向に戻る気配はない。

 蓮に「とりあえず今日は泊っていけ」と言われて、ベッドで一緒に寝ることになった。
 床でいいよと言うように虎太郎はベッドから降りるが、すぐに連れ戻され布団を上からかぶせられる。

「ストレスの原因がなんなのか知らんが、できるだけ快適な中で寝たほうがいいだろう。まぁ、人間に戻ったら問答無用でベッドからは出て行ってもらうがな」

 クーラーのきいた涼しくて快適な気温の中、隣にある温もりに体をピッタリとつけた虎太郎は眠りについた。

 できれば人間の時も一緒に寝たいな、と思いながら――
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