6 / 64
06 理想と現実
しおりを挟む
――虎太郎はこれまでの話を、男に聞かれるがままに答えた
「なるほどね、対処法として昨日は公園で走り回っていたのか」
「はい、そうです」
「この家に連れてきたとき、振る舞いが全然人間っぽくなかったけどな。普通に動物っぽかったわ」
「……あ、それは、ポメラニアンになると理性が無くなって、本能のままに行動するようになるんです」
「ああ、なるほどね。まじの犬になるって訳か」
「もちろん、人間の言葉は分かりますし、ちょっとなら理性的に動けますけど……」
「ふーん」
そう、ポメラニアンになった時は、本能のままに行動してしまうのだ。後から人間に戻った際に後悔することもこれまでたくさんあった。
お気に入りのTシャツに噛みついていて首元がヨレヨレになっていたり、参考書が目に入ると嫌な気持ちになったためだろう、噛んで振り回して踏みつけて、ボロボロになっていたりしたこともある。
ただ、犬の時なので仕方ないのだ。本能的に行動するのでどうしようもない。
もう一度入れてもらった美味しいカフェオレを、今度は大切にゆっくりと飲みながら話を続ける。
「走り回って満足する以外には人間に戻る方法はないわけ?」
「たくさん甘やかしてもらったり、美味しいご飯をお腹いっぱい食べたりしても戻ります。たぶん、気持ち的に満足できたら他のことでも大丈夫だと思うんですけど……」
「へー」
ゆっくり飲んでいたはずなのに、カフェオレがもうなくなってきてしまった。中身が少なくなってしまったコップを眺めながら残念に思い眉を下げていると、男がこちらを見ながらしばらく沈黙した後に口を開いた。
「お前、人間の時でも犬っぽいな」
「えっ、そうですか? 確かに、髪の色は犬の時と同じで薄茶色ですけど……」
「いや。まあ、いいや。大学生だろ?」
「はい! 今年の春から1年生です」
そう、虎太郎は第一希望の大学に合格できたのだ。度々ストレスでポメラニアンになりながらもなんとか勉強を続け、春からこちらに引っ越してきて大学に通っている。
初めてこちらに来た時、虎太郎は人や建物の多さに圧倒された。近くに山もないし、動物もいない。辛うじて鳥がベランダに飛んでくるくらいだ。
家賃も高く、狭い部屋しか借りられなかったため、ポメラニアンになり部屋の中を走り回ることもできなかった。
お金を稼ぐため居酒屋でアルバイトを始めたが、なかなか上手に接客ができずに苦労している。
田舎では顔見知りしかいないため、飲食店では来ている人みんなでワイワイと楽しくおしゃべりをしながら注文をしたり食べたりしていた。
しかし、こちらではまったく知らない人ばかりがたくさん来店しとても忙しい。食事の提供が遅いとすぐに怒られたりもするのだ。注文された食事を机に持って行っている最中に、別のお客さんから注文が入ったりすると、どの席の人から頼まれたものだったのか忘れてしまい、ホールをお皿を持ったままウロウロと彷徨うことになってしまう。
お会計だって、現金だけでなくカードや電子マネーなど虎太郎が使ったこともない支払方法を言われると手間取ってしまう。今日はレジを打ち間違えてしまい、お客さんに怒られてしまったのだ。半泣き状態になりながらも、なんとか取り消しをして再度会計を済ませたが、正直心が折れそうだった。
自分のできなさに落ち込みながら家に帰って、このままだとまずいと思いポメラニアンになり公園で走り回っていたときに目の前の男にぶつかったのだ。
虎太郎が思い描いていた、美味しいものをいっぱい食べて走り回るという大学生活はまったく送れていなかった。逆に、毎日ストレスを感じる生活で、ポメラニアンになって近くの公園まで走っていく頻度は徐々に増えてきている。
こちらに出てきて半年も経っていないのに、既に実家が恋しく、羊のメーちゃんや牛のモー君に会いたかった。一緒に走り回ってくれる仲間もこちらにはおらず寂しかったのだ。
「なるほどね、対処法として昨日は公園で走り回っていたのか」
「はい、そうです」
「この家に連れてきたとき、振る舞いが全然人間っぽくなかったけどな。普通に動物っぽかったわ」
「……あ、それは、ポメラニアンになると理性が無くなって、本能のままに行動するようになるんです」
「ああ、なるほどね。まじの犬になるって訳か」
「もちろん、人間の言葉は分かりますし、ちょっとなら理性的に動けますけど……」
「ふーん」
そう、ポメラニアンになった時は、本能のままに行動してしまうのだ。後から人間に戻った際に後悔することもこれまでたくさんあった。
お気に入りのTシャツに噛みついていて首元がヨレヨレになっていたり、参考書が目に入ると嫌な気持ちになったためだろう、噛んで振り回して踏みつけて、ボロボロになっていたりしたこともある。
ただ、犬の時なので仕方ないのだ。本能的に行動するのでどうしようもない。
もう一度入れてもらった美味しいカフェオレを、今度は大切にゆっくりと飲みながら話を続ける。
「走り回って満足する以外には人間に戻る方法はないわけ?」
「たくさん甘やかしてもらったり、美味しいご飯をお腹いっぱい食べたりしても戻ります。たぶん、気持ち的に満足できたら他のことでも大丈夫だと思うんですけど……」
「へー」
ゆっくり飲んでいたはずなのに、カフェオレがもうなくなってきてしまった。中身が少なくなってしまったコップを眺めながら残念に思い眉を下げていると、男がこちらを見ながらしばらく沈黙した後に口を開いた。
「お前、人間の時でも犬っぽいな」
「えっ、そうですか? 確かに、髪の色は犬の時と同じで薄茶色ですけど……」
「いや。まあ、いいや。大学生だろ?」
「はい! 今年の春から1年生です」
そう、虎太郎は第一希望の大学に合格できたのだ。度々ストレスでポメラニアンになりながらもなんとか勉強を続け、春からこちらに引っ越してきて大学に通っている。
初めてこちらに来た時、虎太郎は人や建物の多さに圧倒された。近くに山もないし、動物もいない。辛うじて鳥がベランダに飛んでくるくらいだ。
家賃も高く、狭い部屋しか借りられなかったため、ポメラニアンになり部屋の中を走り回ることもできなかった。
お金を稼ぐため居酒屋でアルバイトを始めたが、なかなか上手に接客ができずに苦労している。
田舎では顔見知りしかいないため、飲食店では来ている人みんなでワイワイと楽しくおしゃべりをしながら注文をしたり食べたりしていた。
しかし、こちらではまったく知らない人ばかりがたくさん来店しとても忙しい。食事の提供が遅いとすぐに怒られたりもするのだ。注文された食事を机に持って行っている最中に、別のお客さんから注文が入ったりすると、どの席の人から頼まれたものだったのか忘れてしまい、ホールをお皿を持ったままウロウロと彷徨うことになってしまう。
お会計だって、現金だけでなくカードや電子マネーなど虎太郎が使ったこともない支払方法を言われると手間取ってしまう。今日はレジを打ち間違えてしまい、お客さんに怒られてしまったのだ。半泣き状態になりながらも、なんとか取り消しをして再度会計を済ませたが、正直心が折れそうだった。
自分のできなさに落ち込みながら家に帰って、このままだとまずいと思いポメラニアンになり公園で走り回っていたときに目の前の男にぶつかったのだ。
虎太郎が思い描いていた、美味しいものをいっぱい食べて走り回るという大学生活はまったく送れていなかった。逆に、毎日ストレスを感じる生活で、ポメラニアンになって近くの公園まで走っていく頻度は徐々に増えてきている。
こちらに出てきて半年も経っていないのに、既に実家が恋しく、羊のメーちゃんや牛のモー君に会いたかった。一緒に走り回ってくれる仲間もこちらにはおらず寂しかったのだ。
111
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
お人好しは無愛想ポメガを拾う
蔵持ひろ
BL
弟である夏樹の営むトリミングサロンを手伝う斎藤雪隆は、体格が人より大きい以外は平凡なサラリーマンだった。
ある日、黒毛のポメラニアンを拾って自宅に迎え入れた雪隆。そのポメラニアンはなんとポメガバース(疲労が限界に達すると人型からポメラニアンになってしまう)だったのだ。
拾われた彼は少しふてくされて、人間に戻った後もたびたび雪隆のもとを訪れる。不遜で遠慮の無いようにみえる態度に振り回される雪隆。
だけど、その生活も心地よく感じ始めて……
(無愛想なポメガ×体格大きめリーマンのお話です)
朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!
渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた!
しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!!
至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる